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38 何で私がお前の親と会わなきゃならんのだ!

 私に相談を持ち掛けてきたメグが涙目で私を見つめてくる。

 そんな顔したって、私には関係ない事だ。

 それでもメグは、胸の前で両手を組んで私を見つめ続ける。

 そんな顔をしたって……。


「あーもう! 分かったよ!! それで私にどうして欲しいんだよ!?」


「わあ! やっぱりテルアイラは優しいね!」


「うるさい。無駄口叩くならもう寝るぞ」


「ああ、ごめん! えっとね、私は両親に会うべきなのかなって……」


「別に会っても問題が無ければ、普通に会えばいいじゃないか」


「そうなんだけどさ、アユルナお姉ちゃんが言うには、私にフェイミスヤ国の再興を託したいみたいな話なんだよね」


 おおう。国の再興と来ましたか。

 いきなり話のスケールが大きくなったな。


「そんなの私には無理だよね? というか、国の再興なんて誰だって無理だよね?」


 確かに普通に考えたら無理だろう。

 そもそもフェイミスヤ国の領土は魔王討伐後に混乱に乗じてヴィルオン国が乗っ取ったとも聞く。

 噂では、先王を亡き者にして新たに国王となった男が指揮を執ったとかで、かなりの野心家なのかもしれない。


 あの国は獣人差別が激しいので、国が滅んだ後もフェイミスヤ国に残っていた住民は地獄を見たのだろうな……。

 それにしても、仮に再興を考えるとなると、ヴィルオン国を相手にしないといけない。

 いくら小国だと言っても、相手は国だ。


「お前は国の領土を奪い返す為に戦う覚悟はあるのか?」


「正直、分からないよ。だって、自分がその国に戻りたいとかって気持ちもよく分からないし」


「その事はアユルナに伝えたのか?」


「うん。でも両親には会ってくれって。……ねえ、テルアイラも一緒に会ってくれない?」


「何で私がお前の親と会わなきゃならんのだ!」


「お願いだよーーー!」


「分かった、分かったから取り敢えず抱きつくのは止めろ!」


 くそう、どうしてこうなった。

 ……まあいいや。いざとなれば逃げればいいんだし。


「そんで、お前の親は今どこにいるんだ?」


「北の国境を越えた辺りだって」


「ちょっと待て。北の国境越えた辺りって蛮族が支配してる土地だよな? 私、あいつらと関わり合いたくないんだけど」


 北の蛮族は悪名高い。

 原始的な獣人で構成されていて、力こそ正義をモットーに北の土地に根付いていると聞く。

 時々南下してこの国と衝突しているらしい。

 言葉は通じるけど話が通じない系の奴らなので、正直関わり合いたくない。



「なんか大丈夫みたいだよ。拳で語り合ったら、集落で暮らすのを認めてくれたんだって」


 脳筋かな?


「じゃあ、もうそこで暮らせばいいじゃん」


「駄目だよ、あくまでも借地なんだからずっとは暮らせないよ」


「お前、変な所で真面目だな。じゃあヴィルオン国とやり合うんだな?」


「それはまだ分からないよ。だからさっきからテルアイラに相談してるんじゃないか」


 堂々巡りだ。

 これはやっぱり、メグの両親に直接話を聞かないと駄目だな。


「あーもう! 色々落ち着いたらお前の両親と会ってやるから、この話はもう終了!!」


「テルアイラありがとー!」


「良かったですね、メグ様!」


 いつからそこにいたのか、アユルナがメグと抱き合ってるし。

 何でこうも面倒事ばかり降って湧いてくるんだろうな……。



 翌日の早朝、私達はルーデンの街へと出発する事にした。

 アユルナが振る舞った朝食は、ギルマスや他の冒険者達にも好評だった。

 食事が美味しいと道中の雰囲気も良くなる物だ。

 連行されている盗賊達はどうかは知らんけど。


「それにしても、馬車での移動もたまにはいいよね」


 メグが子供みたいにはしゃいでいる。

 その反面、ユズリは表情が死んでいる。


「どうしたユズリ? ゲロっちゃう寸前か?」


「違いますよ……。昨晩、彼女らが胸を揉んでくるので寝られなかったんです」


 ユズリは助け出した少女二人に懐かれて、一緒に寝てたんだよな。

 それにしても、胸を揉んでくるって自慢しているのか?


「このパイオツ狸め! 自慢するなら向こうの馬車に行って揉まれてこい!」


「どこをどう捉えれば自慢に聞こえるんですか!? 頭大丈夫ですか!?」


「なんだとう!」


「やるんですか!?」


「ちょっと、二人とも止めなよ!! 怪我人がいるんだよ!」


 メグの声でユズリと共に我に返った。

 そうだった。私達の馬車にはリューミアとルーミが同乗していたのだ。


「すまん」

「ごめんなさい」


 私達が謝るとリューミアとルーミがおかしそうに笑っている。


「お二人とも、やっぱり仲が良いんですね」


 リューミアめ、何て事を言うんだ!

 殴って否定したかったが、ルーミの手前そんな事は出来ない。


「そうだ、リューミア。お前が設置してそのままのテントだが、回収できなかったから後で弁償しろよな」


「ええ!? そんなご無体なぁ……」


「うわあ、テルアイラが鬼畜だ!」

「テルアイラさんは、本当にせこいですよね」


 ふん、何とでも言うがいいさ。

 それからルーデンの街に到着するまで私は寝て過ごす事にしたのだった。


 ルーデンの街に着いた時には既に夕方だった。

 グリフォン型のゴーレムならあっという間に到着だったんだがな。

 今回は怪我人もいるし、仕方ないか。


 休憩する間もなく、私達は関係各所で改めて盗賊達や化け物と戦った事を説明した。

 ……リューミアの闇狼暴走化の件は今回の事とは関係が無いので、黙っておいたけど。

 それと、捕らえた用心棒の男の減刑についてもお願いしておいた。

 こういう約束は、きちんと守らないと後味が悪いのだ。


「珍しいね。テルアイラがあんな事を言うなんて」

「彼と何か取引でもしたんですか?」


「まあな」


「「……え?」」


 メグとユズリが絶句するが、本当の事だし嘘は言っていない。

 その晩は、冒険者ギルドの取り計らいで高級な宿に泊まる事ができた。

 支配人がいて、入口にロビーがある宿なんて久々だ。

 やはり、高級ベッドはよく眠れる……。


 翌朝、リューミア達を連れてセルドレの街へ向かおうと、姉妹がいる冒険者ギルドを訪ねたのだが……。


「ちょっと待ってくれ、お嬢さん達は王都に戻って今回の事を報告してくれ!」


 いきなりギルマスに止められてしまった。


「えー、そんなのはアンタ達でやってくれよ。私達の仕事はもう終わったんだからさー。報酬は後で指定した住所に送ってくれればいいからさー」


「まだ終わってない! それに家に帰るまでがクエストだって言うだろ? 王都の冒険者ギルドへ戻ってちゃんと報告してくれ! 今回の依頼主は王国だ。城にも呼ばれるだろう。それを逃げるなんて絶対に許されないからな!」


「テルアイラ、ギルマスの言う通りにしよう?」

「そうですよ。本当は私達、目立っちゃ駄目なんですよ?」


 メグとユズリの二人にまで言われてしまったら、どうしようも無かった。

 これ以上騒ぎを起こして、私達の事を無駄に詮索されたくないし。


「リューミアにルーミ、悪いな。セルドレの街へ行くのは、もう少し待ってくれ」


「いえ、お気になさらないでください」

「セルドレの街へは、私とお姉ちゃんで行きますから」


 なんですと。


「おい、お前達二人じゃ道中危ないだろ! 悪い事は言わない。私達と一緒に行こう!」


「テルアイラ。二人の意見を尊重してあげよう?」

「メグさんの言う通りですよ。あまり過保護にするのも良くありませんよ」


「ぐぬぬ……」


 メグとユズリの言葉は正しいと思う。だけどやっぱり心配だ。


「それなら、これも持って行け。それで護衛ぐらいは雇えるだろ」


「え!? お金も沢山もらったのに、これ以上は駄目ですよ!」

「これって……凄く高価な魔石じゃないですか!? 私達、受け取れません!」


「いいからもらってくれ。じゃないと私が安心出来ない」


 そう言ってリューミアの胸元に魔石を数個押し込んだ。

 何かあれば換金なり何でもすればいいのだ。



  ◆◆◆



「それじゃ、私達は王都へ向かう。お前達も道中、気を付けて行けよ」


「はい。何から何までありがとうございました!」

「テルアイラさん達の事は一生忘れません!」


「礼は治療してもらってから言ってくれ」

「じゃあね、二人とも!」

「またいつかお会いしましょうね」


 私達は、リューミアとルーミに見送られて王都へと発った。

 あの姉妹をセルドレの街へ送り届ける事が出来ないのが心残りだが、二人の事を信じよう。



「何かテルアイラ、変わったね」


 グリフォン型のゴーレムに乗ったメグが不思議そうに私の事を見つめる。


「確かに変わりましたね」


「ユズリまで何なんだよ」


「いえ、以前のテルアイラさんなら、そこまで誰かの心配をしていたかなぁって」


「そうだね。確かに今までのテルアイラなら、弱い奴は野垂れ死んで当たり前って感じだったよね」


「私は、そんな極悪非道じゃないぞ」


 単に大切な仲間が傷付くのを見たくないだけなんだよ。


「ところでメグよ。アユルナはどうしたんだ?」


「アユルナお姉ちゃんは、暫定フェイミスヤ国に戻ったよ。私を無事に確認したって報告するんだって」


 暫定ってどうなのよ……。


「何ですか、その話?」


「ユズリには関係無い話だ。それよりお前に懐いていた、あの二人はどうしたんだ?」


「仲間外れにしないでくださいよう! ……あの二人ですけど、取り敢えず文通友達で妥協してもらいました。流石に王都まで押し掛けてこないと思いたいですが」


「何だよ。ユズリもモテモテじゃないか!」


「私はお金持ちのイケメンにモテたいんです!」


 そんなバカ話をしていると、王都が見えてきた。

 距離的には大した事が無いのに、何だか無駄に疲れる旅だったな。


 そんなこんなで、今回の私達のクエストは終わったのだった。

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