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34 こうして再びお目に掛かれる日を待ち望んでおりました

「残ってるのは、これだけかな?」


「大人しくした方がいいですよ? ちなみにあなた達のリーダーは、お亡くなりになりましたから」


 メグとユズリが屋敷内にいた数人の男達を殴り飛ばすと、そのまま拘束して締め上げる。

 それに追い打ちとばかりに、ユズリの脅しが入るとあきらめたのか、すっかり大人しくなってしまった。


 荒れ放題と思っていた屋敷は、外見とは裏腹に建物の内部はそんなに荒れていなかった。

 少し掃除すれば普通に住めそうだな。


「お前ら無茶するなよ。また化け物にされた子が現れたらどうするんだよ……」


「その時はその時だよ」

「メグさんの言う通りです。それに今度はやられる前にやりますから!」


「そうは言うけどさ……」


 何だかメグとユズリの奴が急にやる気を出していて、逆に不気味なんだけど。


「テルアイラはもう休んでていいよ」

「そうですよ。後は私達に任せてください」


「いきなり何なんだよ? 急に優しくなって気持ち悪いぞ」


「ほら、私達って、テルアイラに頼り過ぎてたから……」

「大事な判断をテルアイラさんに任せて甘えてたのを反省してるんですよ」


 先程の化け物にされた子や、リューミアの妹の事を言っているのだろうか。

 あんな気持ちになるのは私一人でいいんだ。

 お前らが背負う事じゃない。

 でも二人の気遣いが嬉しかった。


「ねえ、他に仲間はいるの?」


 メグが捕らえた男の胸ぐらを掴み顔を寄せる。その目は完全に肉食獣のそれだ。

 案の定、男は怯えてしまってまともに口を利けなくなっている。


「メグさん、脅し過ぎはよく無いですよ。みなさん、他に捕まえた人達はどこにいるのですか?」


 そう言いながらユズリは、取り返したばかりのメイスで男達のすぐそばの床を打ち付ける。

 まともに食らえば即死するような威力だな。

 怯え過ぎて失禁する奴も出る始末で、これじゃ逆効果だろ。



「お前ら、もう少し加減というのを覚えろよなぁ」


 結局、私の精神魔法で男達を自白させて情報を聞き出した。

 どうやら、他に仲間はもういないみたいだ。

 だが、捕まってる人の居場所は知らされていないらしい。

 それに化け物についても、獣人を化け物にする薬らしき物についても、まったく情報を得られなかった。

 屋敷に残っていた男達は、下っ端もいいところだ。



「どうしようか? 一度ミューリア達をここに連れてきた方がいいかな?」


「そうですね。いつまでも外に寝かせていたら可哀想ですから、連れてきましょう」


「……まて、二人とも。窓の外から誰かがこちらを窺っているぞ」


 私は声を潜めて二人に警告する。先程からこちらを覗く奴がいて気になっていたのだ。

 留守番組の男達が把握していない仲間なのだろうか。


「私に任せて」


 メグがそう言うと、気配を殺して外に出て行った。

 そして、すぐ戻ってきた。


「お前、逃げ出したんじゃないのか?」


「…………」


 メグに連行されてきた男は、ミューリアに刀を粉砕された用心棒の男だった。


「私達を狙っていたのですか? 素直に答えた方が身のためですよ?」


 ユズリがメイスをフルスイングしながら脅す。

 時々、わざと手がすべった振りをして屋敷内の家具やらを粉砕するので、用心棒の男は完全に震え上がってしまった。


「ち、違う! 俺は置いてきた荷物を取りに来ただけだ!!」


「そんなに大事な荷物なのですか?」


「ああ、そうだ! 俺にとっては大事な路銀が入っているからな!」


 男は必死に訴えるが、犠牲になった人達の事を考えると自分勝手な訴えとしか聞こえない。


「ねえ。そんなお金のために、何人を犠牲にしたの?」


 メグが剣呑な目つきで男を睨む。

 これは場合によっては殺しかねないぞ。


「し、知らねえよ! 俺はただ、旅人を脅すだけの簡単な仕事だと言うから雇われただけなんだ!! 神に誓って人を殺めたりしていない、信じてくれ!!」


 男はそう言って地面に額をこすりつける。


「テルアイラ、どうしようか?」


「嘘はついている様には見えませんが……」


「こいつも自白させれば、分かるだろう」


 結局のところ、男は何もしていなかった。

 詐欺を生業なりわいにしていて、盗賊団すら騙そうとして何も知らずに雇われたみたいだ。


「どうしようか? 街の衛兵に引き渡す?」


「詐欺師と言っても、被害届が無ければ捕まえてくれませんよ」


「まあ、待て。こいつはまだ情報を持っているかもしれない」


 事実、私の読みは当たった。

 偶然にもこの男は、捕まえられた人達の居場所を知っていたのだ。


「隠し部屋ねえ……。まったくお約束過ぎる展開だな」


「じゃあ、テルアイラは隠し部屋の入口を探しておいて」


「私とメグさんで、リューミアさん達を連れてきます」


 メグとユズリが出て行った後、精神魔法で操った男に場所を吐かせる。

 今更だが、他人を自由に操れるなんて、この精神魔法も倫理的にどうなんだろうな。

 今回は悪党の一味だからいいけど。


 以前、王都の冒険者ギルドで私達に絡んできた男二人の事を思い出した。

 彼らは、あれからどうしてるんだろうな。

 そんな事を考えていると、メグ達が戻ってきた。


 リューミアは、まだ眠っているみたいだ。

 妹のルーミも気を失ったままだ。一応、傷は塞がっているが、きちんとした治療を受けさせてやりたい。

 二人をベッドがある部屋に連れて行き、寝かせる。

 取り敢えずは、ここを私達の拠点にしておこう。


「隠し部屋の入り口は見付けたぞ。こっちだ」


 メグとユズリを伴い、書斎の様な部屋の本棚の後ろに隠されていた扉を開ける。

 どうやら、元々はいかがわしい事に使われていた部屋の様だ。

 暗い部屋の中では何人かの気配がする。


 魔法の明かりで部屋を照らすと、三人の獣人の女が怯えた表情で身を寄せ合っていた。

 彼女達は捕まって、ここに閉じ込められていたのだろう。



「もう大丈夫だから、みんな安心してね!」

「私達は皆さんを助けにきました!」


 メグとユズリが声を掛けると、女達は安堵の表情を浮かべる。


「ありがとうございます。私達、もう駄目かと思っていました……」


 お礼を言った年長らしい一人の女がメグの顔を凝視している。

 なんだ? また親の仇とか言い出すんじゃないだろうな。


「ん? 私の顔、変なところがあるかな?」


「きっと、メグさんがさっき食べてた大福の餡が口元に付いてるんじゃないですか?」


「ええ!? ユズリだって食べてたじゃん」


「私は口元を汚さずに食べますからね」


 おい、お前らいつの間に大福なんて食べてたんだ?

 私は知らないんだけど……。


「あなたのお名前は、メグ……とおっしゃるのですか?」


 メグの顔を凝視していた女が尋ねる。


「そうだよ。メグナーシャだよ? お姉さん、私の事を知ってるの?」


 メグがそう返すと、メグの名を尋ねた女が目を見開き、そのまま顔を覆って泣き出してしまう。

 一緒に捕まっていた二人はおろか、私達もどうしたらいいか困ってしまった。

 助かった事で、安心して泣き出したという感じでは無さそうだ。


「お姉さん、大丈夫? 向こうで温かい飲み物を用意してあげるから、泣かないで? ね?」


 メグがそう優しく声を掛けると、その女はメグに対してひざまずいた。


「お久し振りでございます。メグナーシャ様。こうして再びお目に掛かれる日を待ち望んでおりました」


「……へ?」


 へ? じゃないっての。それにアホ面を見せるなよ、メグ。


「メグさん、この方とはお知り合いなのですか?」


「ううん。ちょっと分からないかなぁ……」


 メグが本気で首をかしげている。

 どうやら本当に心当たりが無いのか?

 それにしても、あの女の態度は訳あり過ぎるだろう。


「そうなのですか? 取り敢えず、私はこちらの方達を向こうの部屋に案内してますね」


 ユズリが捕らわれていた残り二人を連れて行くのを見届けると、その場に残った女がメグを見据える。


「メグナーシャ様、わたくしの事をお忘れでしょうか? あなた様が幼少の頃、お世話させていただいておりましたアユルナでございます」


 そう名乗った女は、改めてメグに頭を下げたのだった。

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