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32 お前でも倒せるだろう、あんな奴

 私達は無言で森の中を進む。

 やはり、先程の化け物の事が皆の頭にあるのだろう。

 だが、私は別の事を考えていた。


「リューミア。お前、妖狼だろ」


 途端にリューミアの足が止まった。


「バレてしまいましたか……」


「別に隠す事では無いだろ? 妖狼は不思議な力を持つと聞く。先程の化け物の言葉が分かったのもその力だろう?」


「ええ……。そう、ですね」


 何だか歯切れ悪い答え方だな。

 そんなに妖狼だというのが知られなくなかったのだろうか。


「へえ、そうなんだ。私も化け猫なんて呼ばれたりするよ。失礼だよね」


「私なんて化け狸ですよ。キツネだと妖狐なのに、これは差別ですよね!」


「いや、お前達二人はその呼び方がしっくり来ると思うぞ。そう考えると、この中で私だけがマトモなんだな」


「はあ? テルアイラ、それ本気で言ってるの?」


「一番普通じゃない人が常人ぶってるとか、何の冗談ですか?」


 まったく、ひどい言われようだな。

 私はお前達みたいな馬鹿力なんて無い、か弱い美女だと言うのに。


「ふふふ。皆さんは、仲が良いんですね」


「えー? そうなのかなぁ?」


「ちょっと、止めて下さいよリューミアさん! テルアイラさんと仲が良いなんて蕁麻疹が出来ちゃいますってば!!」


 ユズリ、お前それ言い過ぎだぞ。流石の私も泣くぞ。

 でも、ようやくリューミア達の表情が軽くなったな。

 いつまでも重苦しい空気でいられないし。


「おい、お前ら。お喋りはそこまでにしておけ。そろそろ見えてくるはずだ」


 そうしているうちに、前方からぼんやりとした明かりが見えて来た。

 私達は気配を殺しながら近づくと、そこは廃墟になりかけの屋敷の様な建物だった。

 どうやら、貴族の隠し別荘みたいな物だろうか。



「ねえ、何か言い争ってない?」


「メグさん、よく聞こえますね」


「私も何を言ってるまでは分かりませんが、確かに人の声が聞こえます」


「よし、それじゃもう少し近付いてみるか」


 慎重に近付くと、先程のモヒカンの男が別の男と言い争っているようだ。

 もう一人の男は、お世辞にも似合わないサラサラのロングヘアーだ。

 時々、ブワっと髪をかき上げる仕草が妙に腹が立つ。



「——それで逃げ帰って来たのか? あの薬と捕まえた女を無駄にしてか?」


「だから、さっきから言ってるじゃねえかよ!! あいつら化け物なんだよ!!」


 化け物呼ばわりとは本当に失礼な奴だな。



「おい、誰が化け物だって?」


 我慢ならずに姿を見せると、二人の男が驚いたようにこちらを向いた。


「あいつらだよ! 化け物みたいな奴らなんだよ!!」


「それよりも、お前。後をつけられてるじゃねえか。何してくれてんだよ」


「し、知らねえよ! 俺は逃げるので精一杯だった——ぎゃあ!!」


 突然モヒカンの男が叫び声を上げて倒れた。

 もう一人の男が手に剣を持ち、その刃は血に染まっている。



「仲間を平気で殺すなんて、ひどい奴だね」


「そもそもが、鬼畜みたいな所業の奴らですよ。因果応報です」


 その光景に少なからずショックを受けているリューミアと違って、メグとユズリはまるで世間話でもしているようだ。



「お前ら、獲物が来たぞ! 捕まえろ!!」


 男が建物の方に向かって叫ぶと、お約束的な格好をした男達が一斉に姿を現した。

 何でこうも悪役雑魚は、全員同じような見た目なんだろうな。

 たまには『おっ、こいつは強そうだ』って奴はいないのだろうか。


「用心棒の先生! 頼みますぜ!!」


 サラサラロン毛男がそう叫ぶと、一風変わった服装の男が私達の前に出て来た。

 あれは東方の国の着物と呼ばれる服っぽいな。

 サラサラロン毛男が、先生と呼んだ男の背後に下がる。

 どうやら金で雇った用心棒ってところか。



「ねえ、テルアイラ。あいつ他と違うね」

「あの男、東方の武器である刀を持っていますね。案外、使い手かもしれませんよ」


 メグとユズリが注意を促してくるが、その二人に警戒感は全く感じられない。

 うーん。言われてみれば他と雰囲気は違うみたいだが、それは服装のせいじゃないか?


「よし、リューミア。お前がやれ」


「ええ!? 私がですか!?」


「お前でも楽に倒せるだろう、あんな奴」


「そうでしょうか……」


 無理です、とは言わないんだな。

 こいつはメグとユズリの影に隠れてしまっているが、それなりに強い冒険者だ。

 もっと自信を持って欲しい。


「俺も随分となめられた物だな。こんなヒラヒラした格好の小娘相手だとは」


「先生、なるべく生かしておいてくださいね!」


「うむ。だが腕の一本や二本はあきらめてくれよ。俺の妖刀『下衆げす丸』が血に飢えているのでな……」


 そう言って、男が鋭い眼光でリューミアにプレッシャーを掛けるが、リューミアの方は黙って剣を構えている。

 意外と冷静だな。緊張でもしていれば、手助けでもしてやろうと思っていたのだが。


「あなた、その刀で何人の人を殺めたのですか?」


「へへ、そんな事はいちいち覚えてないぜ——!!」


 男がリューミアを袈裟斬りにしようと上段から刀を振り下ろすのだが、どうにも動きが素人くさい。

 リューミアも落ち着いた動きで剣を下段から振り上げて、男の刀を振り払う。

 そして甲高い金属音が響き、金属の破片らしき物が辺りに飛び散った。

 それは男の持っていた刀だった。


「ああああああ!? 俺の妖刀下衆丸があ!!」


「妖刀と言っても大した事ないですね。どうせ人を斬ったのも嘘じゃないのです

か?」


 リューミアの指摘に用心棒の男は顔を歪めると、そのまま森の奥へ逃げ出して行ってしまった。

 図星だったんかい。


 その場にいた全員が逃げて行った用心棒を見て唖然としていたが、サラサラロン毛の男が怒鳴り出した。


「あんの野郎! 高い金を払ったのに騙しやがったな!! 後で絶対に見つけ出して殺してやる!!」


 おいおい、もうちょっと人を見る目を養おうな。

 そんなんだから、騙されるんだよ。


「おい、お前ら! この獣人の女どもを捕らえろ!! エルフは殺してもいい。好きにしろ!」


「ヒャッハー! ちょうど女に飢えていたんだよ!」

「獣人の女には手を出すなって言われてたからな!」

「少し年増みたいだが、今夜はこいつで我慢してやる!」


 何だか物凄く既視感のある光景だなぁ。


「あー、後はメグ達に任せるわ。適当に片付けておいて」


「りょーかい!」

「仕方ないですね……」

「お任せください!」


 その後はメグ達の一方的な攻撃だった。

 逃げ出す者、攻撃を受けてそのまま動かなくなる者、果敢に戦うが敢え無く切り捨てられる者等と男達は散々だ。



「ぐぬぬぬ……。おい、この前捕まえた女と薬を持ってこい!!」


 ロン毛男がそう叫ぶと、メグ達が身構える。

 またあれをやるつもりなのか。本当にクソみたいな奴らだ。


 そして、連れて来られた獣人の少女を見た瞬間、リューミアが言葉を失った。


「おい、リューミア! どうした!?」


「あれ……私の妹です……」


 何とか言葉を吐き出したリューミアの顔は、真っ青だった。

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