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31 私、そういうの凄く嫌いなんだけど

「誰が年増だ! もう絶対に許さん!! 風の精霊よ、我の元へ集いて彼の者を切り刻め——」


「テルアイラさん! それはダメですよ!!」


「殺すつもりなの!? テルアイラ!」


 ユズリとメグが何か言っているが、こんな下卑た奴らなんてどうでもいいだろ。

 少なくとも、この私を年増扱いした奴は絶対に許せない。

 風の刃が男達を襲い、悲鳴と共に血しぶきが上がった。



「やはり、魔法対策をしているのか……」


 男達に放った風の刃の傷は浅かった。

 正直、死んでも構わないと思っていたのだが、案の定というか、ほとんど弾かれて致命傷になっていなかったのだ。

 アンチマジック的な魔道具を所持しているのは確実だな。


 しかし、仮にそんな魔道具があるとしても、男達全員が持っているとは考えにくいのだが……。



「このクソエルフ、絶対に許さねえ!」

「お返しに切り刻んでやる!!」


 物騒な事を言いながら、男達が剣を手にして襲って来た。

 くそ、魔法が効きづらい相手は厄介だな。


「ここは私に任せて!」


「気を付けろメグ、あいつらに魔力攻撃は効かないぞ!」


「分かった! でも取り敢えず試してみるよ」


 そう言って、メグが斬り掛かって来た男を殴る。

 すると派手に火花が散り、殴られた男は、ほとんどダメージを受けていない様子だ。


「残念だけど、猫耳の姉ちゃんの攻撃も通じないんだよ。痛い目に遭いたく無かったら大人しくして——」


 再びメグが殴りつけると、男は派手に地面に叩き付けられ、そのまま動かなくなった。

 私に殺すつもりかと聞いてきたけど、お前の方がやる気満々じゃないかよ。


「本当だ。魔力攻撃は通じないね。『気』の方は通じるみたいだから、こっちで攻撃するよ」


 そのままメグは、襲って来た数人を殴り飛ばしている。

 くやしいけど、魔法が通じない相手だと私の出番は無さそうだ

 今回は素直にメグに任せよう。



「我に加護を!!」


「何だよそれ! 魔力じゃないのかよ!!」


「神の御業です!」


 そんな事を言いながら、ユズリがメイスで男を殴りつけている。

 あいつの場合は、魔力強化ではなく、力任せの単純物理攻撃だと思う。

 殴りつけられて悲鳴を上げる男の腕が、曲がってはいけない方向に曲がっているのは、気にしないでおこう。


「私も負けませんから!!」


「くそ、こっちの女も結構やるぞ!」


 リューミアが鋭い剣さばきで、盗賊団の男を切り伏せている。

 何だ、こいつも普通に戦えるじゃないか。


 ……戦いの場にはそぐわない、フリフリのミニスカートに何故かイラっとするけど。


「無傷で捕らえるのは、あきらめた! 五体満足じゃなくても生きてれば構わん! やっちまえ!!」


 リーダー格のモヒカン男がそう指示すると、残っていた十人程の男達が一斉に襲い掛かってきた。

 まったく、典型的過ぎるマヌケな悪党で悲しくなってくるな。

 そんな男達も、メグとユズリが簡単に撃退してしまう。


 リューミアも果敢に戦ったおかげで、ようやく男達は自分達が劣勢だというのを自覚したみたいだ。

 たった三人の女達に、こうもボロボロにされるとは、予想もしていなかったのだろう。


「ねえ、テルアイラ。こいつらどうする?」


「適当に誰か捕まえて、隠れ家を吐かせましょうか?」


 メグとユズリがそう言いだした時だった。

 モヒカンの男が、獣人の若い女を右腕で抱き抱え、人質にしているのが見えた。

 そうすれば、私達の戦意を削げると思っているのだろうか。


 獣人の女は猿ぐつわをされていて、思う様に声が出せないみたいだ。

 それでも必死に助けを求めているのが分かる。

 見ているだけで、胸くそが悪くなってくる光景だよ。


 ……この女もさらわれて、隠れ家に連れて行かれる途中だったのだろうか。


「ねえ、それ何の真似? 私、そういうの凄く嫌いなんだけど」


 メグが目を細めてモヒカン男に声を掛ける。

 声に感情がこもっていない。

 これは相当に怒っているな。確かに私も人質を取る輩には腹が立つ。


「お前ら、もうぶっ殺してやる!!」


 お約束のセリフを吐きながら、男は小さな筒みたいな物を左手に構えている。

 あれは武器だろうか……?

 そんな物で一体、何をするつもりなのだろうと見ていると、突然男が獣人の女の左腕にその小さな筒を突き立てた。


 呆気に取られている私達の前で、女の左腕が醜く膨れ上がり、それが一気に全身に広がって行く。

 そして、そのまま悲鳴とも咆哮ともつかぬ叫び声を上げながら、その女は醜く変わって行った。

 その変貌した姿は、鋭い爪の生えた四本の腕を持つ巨大な獣の化け物としか思えない物だった。



「テルアイラさん、これって、ギルドマスターが言っていた『化け物』じゃないですか!?」


 ユズリの言葉は冗談だと思いたかったが、実際こうして目の前にすると、信じる他ない。

 その時、突如リューミアが苦しそうに頭を抱えながら、しゃがみ込んでしまった。


「おい、どうした!? しっかりしろ!!」


「あの子……助けてって言っています! 苦しい、誰か助けてって……!」


 息も絶え絶えにリューミアが私達に訴える。

 こいつ、あの化け物の言葉が分かるのか!?

 確かに、化け物が苦しそうな唸り声を上げている。


 人としての意識が残っているとしたら、残酷としか言い様がない。



「さあ、化け物よ! あいつらを食い殺してやれ!!」


 男がそう命じると、唸り声を上げ、獣人の女だった化け物が、途中で倒れている男達を踏みつぶしながら私達の方に近付いてくる。

 ……あの男達はもう助からないだろうな。

 ほんの少しだけ、同情してしまった。


 その化け物が一気に迫り、四本の腕で襲い掛かって来た。

 メグとユズリが攻撃を受け止めるが、戸惑う二人は防戦一方だ。


「テルアイラ、どうしよう。これさっきの女の子だったんだよね? 私、そんな子と戦いたくないよ!」


「テルアイラさん! どうにかしてこの人を助けられないんですか!?」


 二人からそんな事を言われても、私だってこんなのは初めて見たんだ。

 これは薬を飲ませてどうにかなる様な状態では無い。

 そして、化け物の助けを求める声が聞こえるのか、リューミアは頭を抱えて苦しんでいる。


 一体、どうすればいいんだよ!!



「無駄だ、無駄無駄! 一度化け物になったら二度と元に戻る方法は無いぞ! 相手が死ぬまで攻撃する狂戦士だ! 大人しくそいつに食い殺されてしまえ!!」


 モヒカン男が高らかに笑っている。

 こんな残酷な事をしやがって、あいつだけは絶対に許せない。



「悪く思わないでくれよ……」


 私は鋭い氷柱を作り出し、せめて苦しまない様にと、化け物の胸を貫いた。

 胸を貫かれた化け物は動きを止め、そのまま肉塊となってにバラバラと崩れ落ちる。



「ひ、ひいっ!! 化け物だ!!」


 その状況を見て、男が叫びながら森の中へと逃げ出して行った。

 くそ、誰が化け物だ。化け物はお前だろうが!



「あの……テルアイラ、ごめんね」


「すみません。テルアイラさん……」


 メグとユズリが泣きそうな顔で私のそばに寄って来る。

 そんな顔するなよ。余計に気分が滅入る。


「何でお前らが謝るんだよ」


「だって、私が戦いたくないって言ったから……」


「嫌な役目を押し付けてしまいました」


「別にいいさ。あのままだと、あいつも余計に苦しんだだろうし」


 私は、うつむく二人から化け物だった肉塊に目を向ける。

 そこには肉塊に混じって、砕けた魔石が散らばっていた。

 あの若い女は身体を魔物化されてしまったのだろうか。

 一体、どんな方法で……?


「テルアイラ、さっきのあいつを追わなくていいの?」


「森の中に逃げられてしまいましたが……」


 二人が遠慮がちに聞いてくる。

 流石に早く追おうとか言い出せないか。

 でも、そんな風に気遣ってくれる奴らで少し嬉しくなった。


「大丈夫だ。この先には隠れ家に使える建物があるはずだ。そこへ向かったに違いない」


「じゃあ、そこに向かうんだね」


「もしかしたら、他に捕まっている人がいるかもしれませんね」


「そうだな。だとしたら、早く助けてやらないとな。……おい、リューミア。立てるか?」


「ええ、何とか……」


 私達は放心していたリューミアを助け起こし、暗い森の中へと足を進めるのだった。

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