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30 動揺するな。向こうに気取られる

 再び落ち合った私達は、冒険者ギルドで遅い昼食を食べながら各々が集めた情報を交換する。


「——と、私達の方は、概ねこんな感じでした」


「そうか。ユズリ達もご苦労だったな」


 やはり、盗賊団の被害は西部に集中しているそうだ。

 とすると、西方面に行けば盗賊団と遭遇する可能性がありそうだな。

 こういう時に探知魔法とかあれば便利なのだが、レアな魔法なので流石の私も使えない。


「それと少し気になったんだけど、私達が街で情報を集めている時に、何だか嫌な視線というか、気配を感じたんだよね。特別襲ってくるって訳じゃないから無視していたんだけど」


 メグが辺りを窺う様に声を潜める。

 予想通りだ。

 奴らめ、早速食い付いてきたな。


「メグさん、そんな大事な事をどうして途中で言ってくれなかったのですか!?」


「大丈夫そうだから言わなかったんだよ。それにリューミアが怯えちゃうでしょ」


「え!? い、いえ、私は平気ですよ……!」


 急に話を振られたリューミアが狼狽うろたえてしまっているが、メグの判断は正しい。


「いや、それでいい。その後、その気配はどうした?」


「うん。途中でいなくなったよ」


「そうか。私の方は、やつらの隠れ家らしい場所をいくつか見繕ってきた」


「じゃあ、その隠れ家を急襲するんですね!」


 ユズリが嬉々としてテーブルを叩く。

 こいつ、こんなにアグレッシブだったっけ?


「ユズリ、お前はバカか?」


「テルアイラさんにバカって言われた……」


 両手で顔を覆って、大袈裟に泣き崩れる真似をしているユズリを見て、リューミアが唖然としている。

 まったく、ユズリも場の空気が暗くならない様に気を使ってるんだろう。

 そんな気を回さなくてもいいってのに。


「いいか、あくまでも私達は『何も知らない無謀な冒険者』を演じる。こっちが向こうの動きを読んでいると知られたら、逃げられる可能性もあるからな」


「じゃあ、どうするの?」


 メグが眉根を寄せている。

 こいつも、さっさと襲撃したいタイプなのだろう。


「まあ、落ち着け。まずは、隠れ家方面の街道に向かう。そこでわざと襲われれば、後はこっちの物だ」


「返り討ちにしてから、情報を吐き出させるって事だね」


「拷……尋問は任せて下さい!」


 メグとユズリがうなずく。

 それにしても、ユズリの奴、拷問って言い掛けたよな?


「それで、妹の居場所が分かるんですよね!」


「ああ……多分な……」


「私も頑張りますから!!」


 新しい装備を身にまとい、無駄に瞳をキラキラさせているリューミアの期待が重い。

 どうにか無事でいてくれよ、妹。


「それにしても、リューミア。お前の装備って無駄に可愛くないか?」


「そ、そうですか? 実を言うと、私も少し恥ずかしいのですが、店主に勧められまして……」


「リューミアさん、こういう可愛らしいのが似合うと思いますよ」


「うん。女の子っぽくていいよね」


「ユズリさんもメグさんも、ありがとうございます!」


 最初に装備していた実用一点張りのダサい防具から一転、割と露出が多い防具になっている。

 いくら下にスパッツを履いているからといって、そのヒラヒラフリルのミニスカートはどうかと思うぞ。

 灰色の髪にパステルカラーの色合いが上手くマッチしていて、気のせいなのか、周囲の冒険者の男共の視線が集まっているし。


 しかも、ユズリ程では無いが、あのけしからん胸は何なのだ!

 物理・魔力防御効果が付与されている装備みたいだが、わざわざ露出を多くして見せ付ける必要があるのか!?

 そもそも、あの装備が誰の趣味で作られたんだよ。


「お前は冒険者をなめている! こうしてやる!!」


「ちょっと、止めて下さいって! 胸を揉まないでくださいよう!!」


「テルアイラさんの悪い癖が始まってしまいましたね」


「まったく、いつも飽きないよねぇ」


 二人に見守られながら、気が済むまでリューミアを揉み終えると、私は地図をテーブルの上に広げた。

 リューミアは放心しているみたいだが、放置しておこう。


 心なしか、女冒険者達が私から距離を取っているのは、何故だろうか。



「これが私が目星を付けた地点だ。ここいら一帯は、地図には載っていない貴族の別荘跡が点在しているらしい。それを盗賊達が隠れ家にしている可能性が高い」


「そうすると、この街道周辺を歩く感じですか?」


「人通りが多いと、襲ってこないんじゃない?」


「わざと街道から外れてみせたり、休憩したりして隙を見せる。やり方はいくらでもあるぞ」


 幸いな事にリューミアが目立ってくれている。

 これなら男共は放って置かないだろう。

 ……なんか悔しいけど。


「さて、日が沈む前に行くとするか。今からなら、歩いてでも間に合うだろ」


「ほら、リューミアさん。行きますよ」


「来ないと置いて行っちゃうよー?」


「へ? ああ、待ってください!!」


 放心していたリューミアが、慌てて私達の後を追い掛けてくる。

 これで盗賊団が一発で食い付いてくれれば、いいのだけどな。



  ◆◆◆



「疲れた……。素直に最初からグリフォン型のゴーレムに乗れば良かったかな……」


 馬鹿正直に、三時間程歩いてから気付いたのだ。

 日が沈みかけ、周囲はすっかり人通りが途絶えている。


「でも、そんな事をしたら悪い意味で目立っちゃいますよ」


「ユズリの言う通りだよ。それにほら、多分、私達の後をつけてきているのがいるよ。私達が歩いていたのを見付けて、追って来たんだと思うよ」


「え? ど、どこにいるのですか!?」


 途端にリューミアが不安そうに周囲をキョロキョロと見渡す。


「バカ! 動揺するな。向こうに気取られる」


「す、すみません……」


 探知魔法とまではいかないが、メグの野生の勘は随分と助けられる。


「それで、どのくらいの人数か分かるか?」


「ちょっと、そこまでは……。でも大人数ではないよ」


「だとすると、それは偵察かもしれませんね」


 ユズリの言う通りだと、この近くに本隊がいるって事になるな……。


「よし、今日はこの辺りで野営にするぞ」


「りょーかい!」


「分かりました」


「ええ!? 本気でここで野営にするんですか!?」


 リューミアが目を大きく見開いて唖然としている。

 こんな事で驚かないでくれ。


「これも作戦だぞ。リューミア、お前は外套を脱いで、そのヒラヒラミニスカート姿でテントを張れ」


「ええ!? そんなの目立っちゃうじゃないですか!」


「これも作戦だ。お前、何でもするって言ったよな?」


「うう……、分かりましたよう」


 私達は、それぞれアイテム袋から野営道具を取り出す。

 本当に便利だよな、このアイテム袋。

 異世界の技術とやら万々歳だ。



「……ふう。何とかテントを張り終えました!」


 しばらくして、額の汗を拭いながらリューミアが報告してくる。

 その時だった。


「テルアイラ、周囲を囲まれているよ」


 メグが険しい表情で耳打ちしてきた。

 ついに盗賊団のお出ましか。


「メグは戦闘準備を、ユズリはリューミアを頼む!」


「りょーかい!」


「リューミアさん、こっちへ来てください」


「は、はい!」


 すっり暗くなった周囲を照らすため、特大の照明魔法を打ち上げると、周囲を取り囲む男達の集団が浮かび上がった。

 全員が私達をなめまわす様な視線を向けてくる。

 この上なく不快だ。それはメグ達も同じみたいで、尻尾の毛が逆立っている。



「姉ちゃん達、こんなところで野営なんて不用心だぜ?」


 まったく、よく言うよ。

 口を開いたモヒカン頭の男に小さな火炎弾を撃ち込んでやった。

 まあ、これで死にはしないだろうし、あくまでも牽制けんせいのつもりだ。


 火炎弾が男に直撃して吹っ飛んだ、と思ったのだが……。



「あっぶねえな! いきなり何すんだよ!!」


 男に直撃した火炎弾は、火花が散るみたいにして霧散してしまったのだ。

 まさか、アンチマジックの魔道具でも持っているのか?


「やっぱりエルフは駄目だな。おい、お前ら! 今度の獣人の女達は上玉だ。無傷で捕らえろ。このエルフは殺してもいい。好きにしろ!」


 モヒカン頭が周囲の男達に呼び掛けると、気勢が上がる。

 いかにもって感じの盗賊団だ。


「ヒャッハー! ちょうど女に飢えていたんだよ!」

「獣人の女には手を出すなって言われてたからな!」

「少し年増みたいだが、今夜はこいつで我慢してやる!」


 ……ブチン。

 私の中で何かがキレる音がした。

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