3 その後にみんな来たんだよね?
宿屋「月花亭」に併設している食堂のオープンテラスで今日も相変わらず私達は駄弁っている。
魔王を倒してからずっと長旅だったんだ。少しぐらいだらけた生活を送っても問題は無いだろう。
そう言えばあの後ムカついてボコった勇者はどうなったんだろうな。
殺してはいないから私達はお尋ね者にはなっていないはずだ。多分。
「……急に思い出したのですけど、子供の頃に成金の子が地元に住んでいましてね」
いきなりユズリは何を言い出すんだ?
まぁ暇なのでそのまま話に耳を傾ける。
「うん、それでそれで?」
メグはわざわざ相槌打ってやるなんて良い奴だな。
私には到底真似出来ない。
「その子って親が金持ちだから友達とかをお金で釣っていたんですよね。例えば駄菓子屋でうんまい棒をみんなに振るまったりとか……」
あーそう言う話聞いた事あるな。親から小遣いを沢山もらってるのをいい事に菓子とかで取り巻きを作るんだよな。
集まる奴らも金品目当てだからロクでもない奴らばかりだったりするのがお約束だ。
「へー。お菓子配ると友達が集まるんだ……不思議だな。私も知っていればやったのに」
相変わらずメグはどこかずれているが今はスルーだ。
ユズリも困った顔をしているし。
「それでその成金の子供がどうしたんだ?」
「そんな子だから結構ワガママでしてね。人が持っている物でも気に入ったら取り上げてしまったり。でも普段からみんなお菓子とかもらってるので強く文句が言えないんですよね」
「……何か感じ悪いねその子」
流石のメグも不快感を示すか。
そういう奴が将来権力を握るとロクでもない圧政者とかになるのがお約束だ。
「そんなある日、その子からみんなに誕生日会の招待状が届いたんですよ。みんなは調子良く参加するって言ってたのですけど……」
急にユズリが歯切れ悪くなる。
何か言いづらい事なのだろうか。
「お前はその誕生日会に参加したのか?」
「はい。みんな参加すると言ってましたので。なけなしのお小遣いでプレゼントを買ってその子の家に行きました……」
何だかこの先はあまり聞きたくない気がするのは気のせいだろうか。
「それじゃあみんなが集まって賑やかな誕生日会だったんだろうね」
まったくメグはおめでたい奴だ。この話の流れでそんな楽しい誕生日会なんてあるわけが無い。どうせ二、三人しか集まらなかったのだろう。
「私も内心そうだったらいいなと思ってたんです。その子に家の中に案内されて入ると客間には大きなケーキと沢山のご馳走が並んでいました。出来合いの物じゃなくて、ちゃんと手作りの料理です。……でも誕生日会に来ていたのは私一人でした」
ぐあぁ! それはキツイ!!
嫌でも情景が目に浮かんでしまう。
「え……でもその後にみんな来たんだよね? そうだよね?」
メグよ。悲しくなるからもう聞くな。
「いいえ。結局来たのは私だけでした。その子とケーキや並べられた沢山の料理を頂いていると、その子のお母さんがやってきて『この子の誕生日に来てくれてありがとうね』と少し悲しそうな表情で言うんですよ。もう私、耐えられなくて……」
もう止めてくれ!!
聞いている私も辛い!!
「えっと……その後はどうしたの?」
「その子と部屋で少し遊んでそのまま帰りました。あの大量に残ったケーキや料理があの後どうなったのかは分かりません……」
私とメグは思わず顔を手で覆ってしまった。
何で真昼間からこんなにも暗い気持ちにならなければならないのだ。
心が痛い。
「……それでユズリよ。その子とはその後どうなったのだ?」
せめてその子が改心してみんなと本当の意味で友人になれていればいいのだが……。
「特に変わりません。私はその後すぐに進学で引っ越しましたし、もう付き合いも無いから今はどうしてるのか知りません……」
くそう! こんな陰鬱な気分で今日と言う日を過ごしたくない!!
ここは話題を変えなければ!
「仕方がない。口直しに私が遭遇したとっておきの野グソの話をしてやろう——」
「そんな汚い話を飲食店でしないでください!!」
いきなり現れたレンファにお盆で頭を殴られてしまった。
世の中は理不尽極まりない。こんちくしょう。