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29 最悪の事態を想定しておいた方がいいと思う

「ちょっと意外でした。テルアイラさんが、リューミアさんの同行を認めるなんて」


「何だよ。お前らは最初から同行させるつもりだったんだろ?」


「旅は人数が多いほど楽しいからね」


 宿のベッドの上に寝ころびながら、ユズリとメグがニヤニヤしている。

 成り行きとは言え、リューミアを同行させる事になってしまった。

 正直言うと、足手まといになる奴は連れて行きたくないんだけどなぁ。


「メグ、これは遊びの旅じゃないんだぞ。……それはそうと、何で宿が相部屋なんだよ!? せっかく個室でゆっくりしようと思ったのに、バカじゃないのか、お前!?」


「それについては、私もテルアイラさんと同意見ですね」


「ええー? だって、宿選びは私に任せたよね? 文句を言われる筋合いはないよ?」


 くそう、これに関しては完全に私の判断ミスだ。

 次からは、メグには任せてはいけないと反省する。


「それはさておいて、テルアイラさんは、どう思いますか?」


「何がだ? ユズリ」


「リューミアさんの妹さんですよ」


「その事か。……正直、最悪の事態を想定しておいた方がいいと思う」


 私がそう答えると、二人は黙り込んでしまった。


「お前達も聞いただろ? リューミアの妹が所属していたパーティーは皆殺しにされてしまったと。そんな残虐な奴らに連れ去られたリューミアの妹が無事とは考えにくい」


 噂通りの獣人を狙う盗賊団ならば、既に隣国に連れ去られているかもしれない。

 仮にそうじゃない場合でも、もう殺されてしまっているか、生きていたとしても慰み者にされてしまっているだろう。


 どちらにしても、リューミアには辛い現実が待っている。


「私達、彼女に残酷な事実を突きつけてしまう事になってしまうのですね……」


「テルアイラはその事が分かっていて、リューミアの同行を許したの?」


 なんかすっかり、お通夜みたいな空気になってしまったよ。

 こんな空気で安眠出来るかっての。


「二人とも、あくまでも最悪の事態を想定しておけって事だ。盗賊団が獣人を隣国に連れ去るのなら、その前に取り返せば済む話だ。幸いと言っていいのか分からんがリューミアの妹が連れ去られたのは、つい先日みたいだしな」


「そう……ですよね。まだ間に合うのなら、助け出せばいいんですよね!」


「あのさ、今まで黙ってたんだけど、ミラから聞いたんだよね。連れ去られた獣人の子が何かの実験に使われるって」


 突然、メグがとんでもない事を言い出した。

 何かの実験って、人体実験でもしているのか?


「おい、メグ。その話は本当なのか?」


「知らないよ。ミラの冗談だと思っていたし……」


「ミラさんって確か西方からやって来たので、途中でそんな話を耳にしたって事も考えられますよね?」


「あり得ない話じゃないな……」


 ……駄目だ。眠くて考えがまとまらん。

 今日はさっさと寝て明日考えよう。


「難しい事を今考えても仕方ない。明日は早いからもう寝るぞ」


「そうですね」


「じゃあ、部屋の明かりを消すねー」


 明日はリューミアと待ち合わせをしてるのだ。

 流石に遅れたら格好がつかない。

 ベッドに潜り込むと、すぐに睡魔がやってきた。




「ほら、テルアイラさん、起きて下さい! もう朝ですよ」


「もう少し寝かせてくれよう〜」


「まったく、自分から日の出と共に出発するぞ、とか言ってて、この有様ですか。……メグさん、やっちゃって下さい」


「りょーかい!」


 やけに陽気なメグの声が聞こえた様な気がしたその時だった。

 私の腹に凄まじい衝撃が走り、呼吸が一瞬止まって、目が覚めた。

 何事かと思って見ると、メグが私の腹にエルボーを叩き込んでいたのだ。


「このクソメグ! ケンカ売ってるのか!?」


「だって、全然起きないテルアイラが悪いんだよ? ほら」


 メグが窓の外を指差す。

 うーん。朝日が眩しいなぁ。今日も一日、いい天気になりそうだ。


 ……また違う意味で目が覚めた。


「やっべ! リューミアと待ち合わせしてたんだっけ!! 急ぐぞ二人とも!!」


「ええっと、おはようございます……」


 遠慮がちに挨拶してくるのは、リューミアだった。


「何で、お前がそこにいるんだ?」


「テルアイラさんが全然起きてくれないから、私が彼女を迎えに行ってきたんですよ」


 なんですと。

 と言うと、なんだ。

 私の可愛らしい寝顔諸々をこいつに見られてしまったと言うのか!?


「キャッ! 恥ずかしい!!」


「恥ずかしがってシーツにくるまっても、全然可愛くないからね? テルアイラ」


 うるせえよ、クソメグ。



  ◆◆◆



「それで、今日はどうするの?」


「リューミアさんの妹さんを探すあては、あるのですか?」


 私達は急いで朝食を食べ終え、ルーデンの街へ繰り出す。

 こういう場合は、闇雲に動くのは良くない。


「まずは、情報集めだな」


「テルアイラ、そんな悠長な事を言っていていいの?」


「そうですよ。さっさと街道でも歩いて、盗賊団をおびき寄せればいいんですよ」


「こういう時こそ焦るな。考えてもみろ。仮に奴らがさらった獣人を隣国に連れ去るのなら一旦どこかに集め、それからまとめて連れて行くはずだ。どこかに隠れ家がある可能性がある。それを調べる」


 メグとユズリは目からウロコって感じのアホ面だ。

 まったく、こいつらは……。


「あ、あの、テルアイラさん! 妹は隣国に連れ去られてしまうのですか!?」


「落ち着けリューミア、これはあくまでも仮定の話だ。私達がお前の妹を探してやるから安心しろ」


「そ、そうですか……」


 ホッと胸を撫で下ろすリューミアを見て、自身の胸が痛む。

 お前の妹が無事でいる可能性は、どれだけあるのだろうか……。


「よし、今日は別行動で動くぞ。ユズリとメグはリューミアを連れて盗賊団に関する情報を集めてくれ。特に被害が起きやすい場所だ」


「分かりました」


「テルアイラは、どうするの?」


「私はこの街にある『裏の冒険者ギルド』って区域で情報を集めてくる」


「あ、そこは私も知っています。魔法使い系の人じゃないと入れない区域なのですよね」


「リューミアさん、そんな場所があるのですか?」


「私は入った事が無いのですが、魔法を得意としていた妹は、よく足を運んでいたみたいです」


 そう言って、リューミアが目を伏せる。

 こいつの妹は魔法使いだったのか。姉妹揃って剣を振り回していたと思ってたよ。


「魔法関連だと、私は無理そうかなぁー」


「メグ、お前はリューミアの装備も新調してやってくれ」


「分かった! それじゃ行くよ、リューミア」


「あ、待ってください!!」


 メグがリューミアの手を引っ張って行ってしまった。


「じゃあ、ユズリ。そっちは頼んだ。私は奴らの隠れ家の情報を集めてくる」


「それでは、後程ここに集合ですね」


 私は、ユズリ達と別れて『裏の冒険者ギルド』へ足を向ける。

 街であいつらが情報集めをしていたら、それなりに目立つだろう。

 私ほどじゃないが、あいつらも見た目はそれなりに良いからな。


 そうすれば、この街に潜んでいるであろう盗賊団の手先によって、情報が流される。

 そんな中、私達がノコノコとこの街から出れば、奴らが真っ先に狙って来るに違いない。

 実際、そう上手くいく話かどうか分からんが、相手が馬鹿なのを願おう。


 それから私は、裏の冒険者ギルドと呼ばれる雑多な区域に入り、情報を集めた。

 決して、買い食いを楽しんでたとかじゃないからな。

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