28 お前、私達に何か用でもあるのか?
「化け物だって。どうするの?」
「どうするも何も、遭遇したら倒すしかないじゃないですか」
メグとユズリは、ギルマスから化け物の話を聞いても、まったく動じていない。
まぁ、ここで怖じ気づいている様では冒険者は務まらない。
「お嬢さん達は豪気だな」
「おいおい、ギルマスよ。それは麗しい私に向かって言う言葉じゃないぞ」
「やや、これは失敬」
「あの二人には、何を言ってもいいけどな」
「ちょっと、テルアイラ! それどういう意味!?」
「なに自分だけ淑女ぶってるんですか!? 淑女から一番程遠いのは、テルアイラさんじゃないですか!」
まったく、こいつらはやかましいなぁ。
でも重苦しい空気は晴れてくれたので、良しとするか。
「ところで、この街に入るための検問の列はどうにかならないのか? お陰でエライ時間を食ったぞ」
ルーデンの街に入るために私達は、長時間行列に並んだのだ。
まったく、盗賊団騒ぎもいい迷惑だ。とんだ時間のロスだったよ。
「ん? この王都の冒険者ギルドからの手紙を検問の衛兵に見せれば、すぐに入れたぞ。もしかして、わざわざ並んだのか?」
「え……それマジ?」
「テルアイラ?」
「テルアイラさん?」
二人がジト目で睨みつけてくる。
何だよ、そんな事は聞いてないんだから、私が知る訳が無いだろう!
「ははは。お嬢さん達は仲が良くて、いいパーティーだな」
「そんな事は全然無いよ?」
「そうですよ! テルアイラさんとの相性は最低ですからね!!」
お前ら、そこは空気を読んで肯定してやれよ……。
そして一通り話も済んだので、私達はギルマスの部屋をおいとまする事にした。
「お嬢さん達が凄腕の冒険者だというのは承知しているが、気を付けてくれよ。危なくなったら絶対に無理をするな」
「ああ、そうだな。私達は無理をしないのがモットーだ」
「すぐに解決してくるから、期待しててね」
「お気遣い、ありがとうございます」
ギルマスの部屋から出て、冒険者達が集う広間に戻ってくると、何故か皆が目を逸らしてくる。
「ねえ、テルアイラ。何で他の冒険者たちが私達を避けるのかな?」
「メグ、そんな事も分からないのか? 私が美し過ぎて近寄り難いのだぞ」
「テルアイラさん、それ本気で言ってるんですか?」
ユズリにジト目で見られながら、手近な席に座る。
隣の席の奴らが席を離れて行くのだが、あからさま過ぎて失礼じゃないか?
ちなみに今夜は、ここで夕飯の予定だ。
「ねー、注文いいかな?」
「は、はい! ただいま伺います!!」
メグが声を掛けると、ウェイトレスの少女が引きつった表情で駆けつけてくる。
まったく、私達はバケモノ扱いかっての。
注文を取りに来た少女に適当に飲み物と食事を頼む。
少女は、一刻も早くこの場から立ち去りたいといった表情で、来た時と同じ様に駆け出して行った。
「あいつ、客に対する態度がなってないよな」
「テルアイラさん、私達がここで暴れたの忘れてませんよね?」
「え? なになに? 二人ともここで暴れたの!?」
「お恥ずかしながら、少し……」
「何だよ。最初はアイツらが手を出してきたんだぞ! 正当防衛だからな!」
どこかから、『あれのどこが正当防衛なんだ』とか聞こえて来たが、海より広い心の持ち主である私は、聞き流してやった。
そんな事を話していると、私達の前に一人の冒険者が立っていた。
「あ、あの、少しよろしいでしょうか……」
緊張した面持ちで話し掛けて来たそいつは、さっき私の頭に剣を叩き付けた若い女冒険者だ。
狼耳をぺたんと伏せているので、余程緊張しているんだろうな。
「まぁ、立ち話もなんだし、座れよ」
「は、はい!!」
私が促すと、素直に席に着いた。
それと同時に、先程のウェイトレスが飲み物を持って来る。
「飲み物の追加するけど、私達と同じでいいよな?」
「あ、ありがとうございます……」
女冒険者がうなずいたので、ウェイトレスの少女がまた駆け出して行った。
「先程は失礼しました」
女冒険者は、そう言ったきり黙り込んでしまう。
参ったな。この手合いは苦手なんだよな。
メグが困った顔で私を見てくる。こっち見んな。
ええい! 困った時はユズリに丸投げだ。
ユズリにアイコンタクトをすると、迷惑そうな顔をされた。
「それで、私達に何か用があるのですか? えっと……」
「あ、重ね重ね失礼しました! 私、リューミアといいます」
そう言って、立ち上がったリューミアが私達に頭を下げる。
「私は麗しきテルアイラ様だ」
「メグナーシャだよ」
「私はユズリです。テルアイラさんの事はスルーしてくださいね」
「は、はあ……」
しかし、こいつはテンション低いな。
何だか妙に思い詰めた顔してるし。
「改めて聞くけどさ。お前、私達に何か用でもあるのか?」
私がリューミアに尋ねると、彼女は意を決した様に私達に向き直る。
「お願いがあります。私を皆さんに同行させて下さい!」
「は?」
何言ってるんだこいつ。
メグとユズリもいきなりの事で戸惑っている。
「ねえ、何でリューミアはそんな事を言うの?」
「そうですよ。私達と行動を共にしたいって、何が目的ですか?」
「それは、皆さんが王都から派遣されてきた高ランクの冒険者だからです」
「何だ? 私達にくっ付いて、おこぼれをもらうつもりか?」
「違います! ……皆さんは、盗賊団討伐のクエストを受けているのですよね?」
確かヴォイド爺さんは、今回のクエストは他言無用とか言ってなかったか?
普通にバレてるじゃないかよ……。
まぁ、さっき冒険者達の前でギルマスと話をしてた時点で感付かれるのも当たり前だよな。
「だとしたら、どうするの?」
「私、妹がさらわれたのです。どうしてもあの子を取り返したくて……」
「リューミアさん。その話を詳しく聞かせてもらえませんか?」
「はい。私、妹と故郷を出てこの街で冒険者になりました。それからいくつかクエストもこなして、先日二人でDランクに昇格したのです」
「へえ、その若さでDランクは中々見所があるじゃんか」
リューミアは『ありがとうございます』と浮かない顔で答えた。
妹がさらわれたとなったら、素直に喜べる訳が無いか。
「妹は凄く真面目で、姉の私と一緒だと甘えてしまい成長出来ないと言って、私とは別のパーティーに所属したのです。ですが、妹のパーティーは商隊護衛のクエストの途中で盗賊団に襲われて……」
そう言って、リューミアは顔を伏せてしまった。
そんな時、ウェイトレスが追加の飲み物と料理を持ってきた。
まったく、空気読めよなぁ。
「それで、妹さんが連れ去られたと言うの?」
「はい。妹のパーティーは全滅。獣人以外のメンバーの遺体は発見されましたが、妹だけは見付からなかったのです」
「お気の毒です。何と言っていいものか……」
「それで、お前は私達と一緒に行動して妹を探したいと。そういう事か?」
「はい。私、何でもやります! どうか連れて行って下さい! お願いします!!」
リューミアがいきなり床に額をこすりつける。
その様子を他の冒険者たちが複雑な表情で見ていた。
これじゃ、私達が悪者みたいになってるじゃないかよ。
「テルアイラさん、どうしますか?」
「可哀想だから、連れて行ってあげようよ?」
「そうだなぁ。私達の邪魔をしないと約束するなら、連れて行ってやる」
「本当ですか!? ありがとうございます!!」
パッと顔を上げたリューミアが何度も頭を下げた。
やめろよ。こういうのは苦手なんだよ。
「ほら、飯が冷める。早く食おう。リューミアもだぞ」
「はい!」
そんなこんなで、ようやくリューミアが笑顔を見せてくれたのだった。




