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27 真の平等主義者と呼んでくれ

「さて、ルーデンの街に入ったのはいいが、まずは冒険者ギルドに行くべきか、宿を決めるべきか。二人ともどうするよ?」


「うーん。私は、もう疲れたから宿に行きたいなぁ」


「駄目ですよ、メグさん。ここはまずギルドで情報収集がお約束ですよ」


「やだよー。お腹空いた! 疲れたー!」


「ちょっと、往来で子供みたいな事を言わないでくださいよ!!」


 まったく、こいつらは世話を焼かせるなっての。


「じゃあ、こうしよう。メグ、お前は宿を決めてきてくれ。そんで、私とユズリでギルドへ向かう。メグは後からギルドで合流な。そこで飯にしよう」


「分かった! 宿選びは任せてね!!」


 そう言うなり、メグは走り出して行った。

 相変わらず現金な奴だなぁ。


「ねえ、テルアイラさん。メグさんに宿選びを任せて本当に良かったんですか?」


「やめろよ、そういう事を言うのは! 何か急に不安になってきただろ!!」


 まぁ、金が無い訳じゃないから、木賃きちん宿なんか選ばないとは思うけど……。

 今更、気に病んでも仕方ない。こちらは当初の目的通りに情報収集だ。



  ◆◆◆



「頼もー!!」

「お邪魔します」


 冒険者ギルドの扉を開くと、冒険者達の活気に溢れていた。

 やっぱりギルドは、こうでなくっちゃな。


「いらっしゃいませ。当ギルドへは、ご依頼ですか? ご登録ですか?」


「いんや、王都のギルドからの使いで来た」


 にこやかに話し掛けてくる受付嬢に、ヴォイド爺さんから預かった手紙を手渡すと、周囲がざわついた。

 これは王都ギルドとの関係がよろしくないのか、はたまた重要案件を抱えてると思われてるのか。

 まぁ、実際に重要案件を抱えてるんだけどな。


「しょ、少々お待ちください! 確認して参ります!!」


 受付嬢が慌てて奥に行ってしまった。

 何だか、いつもこんなパターンで芸が無いよな。

 こう、もっとアクロバティックな対応でもしてくれないだろうか。


 例えば、いきなり平手打ちをしてきて、『べ、別にアンタのために確認するんじゃないんだからね!!』とか言ってきたり。

 まあ、そんな対応されたらギルドごと吹っ飛ばすけどな。



「テルアイラさん、大丈夫でしょうか?」


「ん? 大丈夫じゃないか? 別に私達は、悪い事してないだろ?」


「いえ、そうではなくて周囲が……」


「周囲?」


 ユズリに促されて周囲を見回すと、ニヤついた冒険者の男共に囲まれていた。

 女冒険者達は、呆れながら遠巻きで見ているので、こんなのはよくある光景なのだろう。


「なあ、姉ちゃん達は王都のギルドから来たのかい?」


「そうだが?」


「あんな弱っちい奴らじゃ満足してないだろ? 俺達が相手してやるよ」


「こっちの小さいけど、胸の大きい嬢ちゃんは俺が手取り足取り色々と教えてあげるからな」


 そう言って、下卑た笑いを浮かべた男達がにじり寄って来る。

 まったく、どこのギルドも何故こんな奴らばかりなのだろうか。

 私が美し過ぎるのも罪なのだろうな。きっと。


 とか思ってたら、男がいきなり私の尻を触って来たので頭突きをお見舞いして吹っ飛ばしてやった。


「汚い手で私に触るな!」


「勝手に胸を触らないで下さい! セクハラで訴えますよ!!」


 ユズリの方も男を殴り飛ばしている。

 早速、男達の目つきが変わった。

 さーて、これは収拾がつかなくなってきたぞー。



「お前ら……こっちが下手に出ていれば、調子に乗りやがって……」


「ユズリ、こいつらどうする?」


「どうするって、もうやるしかないですよ!」


 ユズリは、すっかりプンスカ状態だ。

 こいつらを精神魔法で全員眠らせてもいいけど、たまには体を動かすのも大事だよな。

 という事で、目の前の男を殴り飛ばす。


「へえ。テルアイラさんもいいパンチしてるじゃないですか! 私も負けてませんからね!」


 そう言いながら、ユズリはコークスクリューパンチをお見舞いしている。

 こいつ、メグがいないと熱くなるタイプだな。


「お前ら、絶対に許さねえ!! やっちまえ!!」

「俺達の恐ろしさを身体に教え込んでやろうじゃないか!!

「調教して奴隷堕ちさせてや——おぶっ!!」


 とんでもない事を言い出した奴がいたので、顔面ストレートをお見舞いしてやる。

 健全じゃないよな。うん。

 結局、男共はあっさりと全滅し、それを見た女冒険者達が怯えた表情で固まってしまっていた。


「次は、お前らの番だからな」


「ひいっ! わ、私達、何もしてないじゃない!?」


「確かに、何もしてないな……」


「そうよ! だから、私達には関係無いわよ!!」


「でも、男共を黙って見てるだけで、何もしなかったよな? それって同罪だぞ」


 女冒険者達の顔が真っ青になった。

 私は男女平等をモットーにしているのだ。


「うわぁ、テルアイラさんって容赦無いんですね」


「まあな。真の平等主義者と呼んでくれ」


 多分、間違ってるけど。


「くそ! こうなったらやられる前にやれだよ!!」


「ファイアーボール!!」

「アイスジャベリン!!」


 建物内で魔法を撃って来るとは、なんて奴らだ。

 だが、そのまま魔力障壁でかき消してやる。


「魔法が効かないなんて!?」

「だったら、物理攻撃!!」


 鞘から抜いていない剣を正眼に構えていた狼耳の若い女が、上段から斬りつけて来た。

 いい機会だ。

 通信講座でマスターした極東に伝わると言われる、とっておきの技を披露してやろうじゃないか。



「真剣白刃取り!!」


 直後、頭に衝撃が走った。


「えっと……テルアイラさん、大丈夫ですか?」


 ユズリが心配そうに私を見ている。

 女の剣が、私の手をすり抜けて頭に直撃したのだ。

 流石にこれは痛い。


「この野郎! ぶっ殺してやる!!」


「ギャー!!」


 狼耳の女に頭突きを食らわせて吹っ飛ばしてやった。

 面倒なので、他の奴らもまとめて頭突きで吹っ飛ばしてやろうと逃げる女冒険者共を追い掛け回していると怒声が響いた。


「おい! これは一体何の騒ぎだ!!」


 ギルドの奥から、大柄の男が現れたのだ。

 ようやくギルドマスターのお出ましか。

 ギルマスは周囲の惨状を見渡して絶句している。

 まあ、なんだ。これ以上面倒な事にならないと良いのだけどな。



  ◆◆◆



「いや、本当に申し訳なかった!! この通り」


 そう言って、アルバスと名乗ったギルドマスターが私達に頭を下げた。

 隠れて見ていたギルド職員の説明で、私達に非が無い事が証明されたのだ。


「本当にとんでもない目に遭ったぞ。こいつらは王都からの冒険者を何だと思ってるんだ?」


「面目ない。大変言いにくいのだが、王都の冒険者は、その……レベルが低いので、こいつらも下に見ているところがあってな。後で厳しく指導しておく」


 ギルマスが冒険者達を睨むと、彼らは縮こまってしまった。

 こっちのギルマスは威厳があって羨ましいな。

 しかもよく見ると品もあるし。案外、どこぞの貴族の家の生まれだったりしてな。


「それと、言い訳では無いのだが、彼らも最近の事件で気が立っているのだ。どうか大目に見てやってくれ」


「それって、盗賊団の事ですか?」


 ユズリが尋ねると、ギルマスは無言でうなずく。


「こいつらの中にも家族や仲間が襲われ、犠牲になったり、連れ去られた者もいる。理解してやって欲しい」


 彼の言葉に、私の頭に剣を叩き付けた狼耳の女が、悔しそうに唇を噛んで肩を震わせている。

 あいつも今回の事件の被害者なのだろうか……。

 そんな時、大扉が開いて能天気な顔をした奴が顔を出した。


「えっと、こんばんはー。テルアイラとユズリはいる?」


 相変わらず空気を読まないメグだった。


「お前なー。タイミングが良いのか、悪いのか分からねえよ!」


「えー、どっちなんだよう」


 メグの能天気な声に、場の空気が少しだけ軽くなった気がした。少しだけ。


「まあ、詳しい話は俺の部屋で続けようか」


 ギルマスの部屋に案内され、改めて自己紹介を兼ねた挨拶をする。



「王都からはるばるルーデンにお越し頂いて感謝する。俺はここのギルドマスターのアルバスだ」


「私はテルアイラだ」


「ユズリです。よろしくお願いします」


「私はメグナーシャと申します。どうぞお見知りおきを」


 またもやメグが、元王族らしい優雅な挨拶をする。

 一応、相手に対して敬意を表しているのだろう。


「これは……失礼いたしました。お嬢様」


 ギルマスの方も立ち上がり、どことなく騎士を思わせる挨拶で返す。

 中々どうして様になっている。

 やっぱりこの男も、ただの平民の生まれではないのだろうな。


 そんなギルマスを見て、お茶を運んで来た受付嬢は目を丸くしていた。



「ヴォイド爺さんからの手紙は読ませてもらった。ルーデンの冒険者ギルドは、総力を挙げて貴女達に協力をさせてもらおう」


「それは助かる。まずは、現時点で分かっている事を教えてもらいたい。とにかく私達には、情報が必要だ」


 それから、私達は盗賊団についての情報をギルドから提供してもらった。

 現状、分かっている事は、盗賊団は少なくとも三グループはいる事、被害は王国西部に集中している事だった。

 それ以外は、あくまでも噂話の類だが、見た事も無い化け物を引き連れているそうだ。


「その話に関しては何の確証もない。そもそも、化け物に遭遇したら生きて帰れないからな」


「おいおい。じゃあ、何でそんな化け物がいるって話が伝わってるんだよ。誰か見て帰って来たから、そんな話が出たんだろ?」


 私が茶化すと、彼は難しい顔で黙り込んでしまった。


「化け物の話を伝えた者は、それを言い残して死んだからな」


 ……くそ、聞かなきゃ良かったよ。

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