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23 責任を取ってもらうつもりです

 ミラが店で働きだしてから数日経ったある日、夕飯のまかない料理を食べていたミラが遠慮がちに口を開いた。


「ねえ、レンファ。このお店に住み込みで働かせてもらってるけど、私の寝る場所はどうなるのかな? 今日も客間を使わせてもらうのは少し気が引けるのだけど……」

「しばらくは客間を使う予定もないので、ミラさんがそのまま使っててもいいですよ?」

「そう言う訳にはいかない。働き口を用意してくれただけでも私にはありがたい事なのでこれ以上甘えるのは心苦しいし……」


 そう言ってミラがうつむいてしまった。

 こいつも変なところで遠慮する奴だな。使っていいって言ってるんだから堂々と使えば良いのに。

 と言うかむしろ私に客間を使わせろ。


「ミラは真面目だねぇ。それだったら私達の部屋に来る? 四人部屋だから丁度一つベッドが余ってたんだよね。レンファも構わないよね?」


 メグが妙案だとばかりに身を乗り出した。

 おいおい、こいつバカなのか? わざわざ部屋を狭くする事もないだろ。

 ユズリも私と同感なのか、それともメグの事で心配しているのか微妙な表情を浮かべている。


「そうですね。部屋代を皆さんが支払ってくれてる分には問題ないですよ。でも私としてはあまりおすすめ出来ないというか……」


 レンファがメグの顔を見ながら歯切れ悪く答える。

 当のメグは何の事か分かってないみたいだ。


「いいのですか!? 是非メグさん達のお部屋に泊まらせてください。お金が貯まったら部屋代はちゃんとお返ししますから」

「お金の事は別にいいよ。私達も三人だけで飽きてきたし。ユズリとテルアイラもいいよね?」

「まあ、私は別に構いませんけど……ミラさん、本当にいいんですか?」

「そうだぞ。考え直すのなら今のうちだぞ。取り返しの付かない事になっても私は責任を取れないからな」

「ちょっと、お二人とも! ミラさんを怖がらせるような事を言わないであげてくださいよ!」

「人聞きの悪い事を言うなよレンファ! 私達はただこいつのために親切で言ってるだけだぞ」


 結局、私とユズリの説得はミラに通じず、彼女は何の事か分からないのかキョトンとしてしまっている。


「よく分からないのですが、皆さんはずっと相部屋暮らしで仲が良いんですね」

「うーん、最初は個室を借りようと思ったら空きが無くて、そのままなし崩し的に相部屋住まいになっちゃってるんだよね」

「そうですね。私もメグさんの対処法に慣れて被害も無くなりましたので、意外に快適です」

「メグのあしらい方さえ覚えれば、まぁ同室でも何とかやっていけるけどな……。あのさ、今夜は私が客間を使っていいか?」

「あ、テルアイラさんズルいです! じゃあ私も客間で寝ます!」


 ユズリめ、お前も逃げるのかよ……。

 ミラが襲われるかもしれないのを分かってて逃げるのは若干心苦しいが、私達と同室で暮らすと言うのなら現実を知っておくべきだ。


「え? なになに? 今夜は私とミラで部屋を使っていいの?」


 自覚の無いメグが部屋を広く使える事に喜んでいる。。

 すまん、ミラよ。夜中にメグに襲われるって事を正直に言えなかった私達を許してくれ。


「これは私にはどうにも出来ません。ご武運を祈ります、ミラさん」


 そんな私達を横目にレンファが小声で呟いていた。


  ◆◆◆


 翌日の朝、ユズリと朝食を食べに向かうとメグにミラが密着していた。

 一体どうしたというのだ……。


「あの……何でミラさんがメグさんにべったりなんですか?」


 メグの腕をミラが抱き抱えて離れようとしない光景を見てユズリが目を丸くしている。

 朝食を運んで来たレンファは既にあきらめ顔だ。


「いやぁ、夜中に無意識で襲っちゃったみたいで……」

「はい。襲われてしまいました。あんな事をされたら私はもうお嫁にいけません。ですからメグさんには、私のお姉様になってもらって責任を取ってもらうつもりです」


 ミラが真面目な顔でしれっと答えるのを見て私達は絶句してしまった。


「……まさか本当に初日で襲うとは思いませんでしたね」

「でも当の本人は満更でもなさそうだし、案外これで良かったんじゃないか?」


 本人が満足してるのなら私達がもう口を出す事じゃない。

 後はメグに責任を取ってもらおう。

 そうして私達の生活にミラが加わり、新たな一日が始まろうとしていた矢先だった。


「レンファちゃん、助けて!!」


 まだ開店していない店に一人の少女が飛び込んで来るなり、床に倒れ込んでしまう。


「メリア!! 一体どうしたの!?」


 レンファが倒れ込んだ少女に慌てて駆け寄って抱き起こす。

 私達はそれぞれ店の外に飛び出して警戒するが、不審者の姿や気配は感じられなかった。

 ひと通り確認して店内に戻ると、ミラがメリアと呼ばれた少女に水を手渡しているところだった。


「あ、ありがとうございます……」


 水を一気に飲み干した少女がお礼を言う。

 見た目にはレンファと同世代ぐらいの犬耳の大人しそうな女の子だ。


「メリア、何があったの? この人達は冒険者だから安心して」


 レンファの言葉にメリアが私達の顔を恐々と見回している。

 そんなメリアにメグがしゃがみ込んで微笑みかける。

 こいつは意外に子供受けがいいんだよな。

 私と何が違うのだろう。私の方が絶対に包容力があるはずなのに。


「もう外には怪しい奴はいなかったよ。安心してね」

「その様子だと何者かに追われていたみたいですね」

「お前の身は私達が守ってやるから安心してお姉さん達に話すがいいぞ」


 ようやく人心地がついたのか、メリアが恐る恐る口を開いた。


「あの……私、新聞配達をしてます。今朝もいつも通りに配達をしていたのですが、最後の配達を終えた直後に突然『こんにちは』って後ろから男の人に声を掛けられて振り向いたら……」


 そこでメリアが口をつぐんでしまった。


「朝なのに『こんにちは』って変じゃないですか?」


 ミラが小首をかしげる。

 言われてみれば確かにそうだな。


「それで……どうしたの?」


 レンファが先を促すと、メリアが黙って俯いてしまう。

 余程何か怖い思いをしたのだろうか。


「……私、見ちゃったんです」


 涙を浮かべたメリアが絞り出すように小声で答えた。


「何を……ってまさか!?」


 察してしまったのか、ユズリが口元を手で覆う。

 他のみんなも同じ気持ちみたいだ。

 もう情けなくて溜息しか出ないよ。


「まったく、どこの街にもその手の輩がいるんだな……」


  ◆◆◆


「近所で聞き込みしてきたよー。何だか最近現れるようになったらしいね」


 再び外の様子を見に行ったメグがウンザリした顔をしている。

 余程、下らない話を聞いてきたんだろうな。

 みなまで言わなくても想像出来る。


「『こんにちはおじさん』ですか……。全く理解不能ですね」

「少女を見掛けると『こんにちは』と声を掛けて股間を見せ付けると言う、露出狂とはこれまた厄介な奴だな」


 メグから説明を聞いた私とユズリは渋面になった。

 本当に下らなすぎて泣けてくる。


「何ですかそれ!? そんなのがうろついてたら外を歩けないですよ!! 早い所ブチのめして切断しちゃって下さい、メグ姉様!」

「ミラ落ち着いて。相手は何をしてくるか分からないんだから、不用意に手を出しちゃダメだよ」


 興奮するミラをメグがなだめている。

 と言うか地味に今のミラの発言はヤバくないか?


「メリア、もう落ち着いた?」

「うん。ありがとうレンファちゃん。でも明日から配達どうしよう。また出たらと思うと怖くて……」

「そうだよね……。新聞配達はメリアの大事な仕事だよね」


 少女が二人、沈痛な表情を浮かべてうなだれてしまっている。

 そんな子達を放っては置けない。


「あー、お前らそんな顔をするなよ。私達が何とかしてやるって」


 私は前髪をくしゃくしゃにかき上げながら大きく溜息を吐いた。

 何だってこんな面倒な事をしなきゃならんのだ。くそ!


「何だかんだ言ってテルアイラは優しいね」

「素直じゃない所が彼女らしいですけど」

「そこの二人、うるさいぞ!」


 さて、その露出狂をどう捕まえるか考えないとな……。

 それから店が開店する前の時間を使って即席の『こんにちはおじさん』対策室が発足した。


「まずは対処法としてはおとり捜査だな」

「はい、質問があります」


 私が説明を始めるとミラが手を挙げて質問してきた。


「何だミラ?」

「おとり捜査とは何ですか?」

「ふむ、そうだな。早い話がそこのメリアに扮した誰かを歩かせて、ド変態が現れたら捕まえるって寸法だ」

「それじゃあ皆でメリアの真似して新聞配達してみる?」

「メグさん、全員で行ったら相手が警戒しちゃいますよ」

「あ、それもそうか。ユズリは頭いいね」


 メグよ、それはお前が考えて無さすぎなだけだ。


「そうだな。メリアに扮するのは誰か一人だ。そして大事な点がもう一つ。奴は少女にしか興味を持たないみたいだ。超絶美人で大人の色気ムンムンの私では無理なのだ」

「そうすると私は駄目かなぁ……。レンファとミラには危ないから任せられないし、若く見えるユズリが適任じゃない?」

「……あれ、スルーしちゃうのか?」

「何か色々と不本意ですけど、やっぱり私がやるしかありませんか……」

「あの、よろしくお願いしますね。ユズリさん」

「ええ任せて。ちゃんとあなたの事を守ってあげるからね」

「ねえ、私のギャグはスルーなのか?」


 結局誰も突っ込んでくれなかった……。

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