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20 めちゃくちゃになった私の人生の責任を取ってほしい

「なんと言う屈辱……。父上の仇からこんな仕打ち受けてまで生きながらえるなんて……」


 薄紫色の髪の少女が悔しそうに拳を握り締めテーブルを叩き、大粒の涙をこぼしている。


「どうでもいいけど泣くか喋るか食べるかどれか一つにしろよ」


 一晩明けて目を覚ましてからずっとこんな感じだ。

 腹が減ってるのなら素直に食べてればいいのに。

 空腹だと大抵ろくな思考にならないからな。

 私が思わず大きなため息を吐くと、少女は黙って用意した朝食を食べ始めた。


「結局はお腹が空いていたんだよね」

「……なんと言う屈辱」


 メグの言葉に少女が食事の手を止めて睨みつけてくる。


「もうそう言うのはいいですから早く食べて下さいよ!」

「…………」


 ユズリが文句を言うとまた黙って悔しそうに食べ始めた。

 まったく忙しい奴だな。


 翌朝、空腹で倒れた少女が目を覚ましたので店内で食事を与える事にしたのだが先程からこんな調子だった。


「あぁ……仇敵からほどこしを受けてしまうなんて。もう父上に会わす顔がありません……」


 少女は食べ終わったと思ったら突然膝から崩れ落ちて床に手を突いて嘆きだした。


「さっきから見てると本当にこいつ面倒くさい奴だな……」

「きっと本来は感情が豊かな子なんだよ」

「そうですか? 何だかもうわざとやってるとしか思えなくなってきたのですけど……」


 私達が好き勝手言うのを横目にレンファが少女に優しく声をかける。


「大丈夫ですか? まだお腹が空いていたら沢山食べていいですからね」

「ああ……何と親切な人でしょう。ありがとうございます。この恩は一生忘れません」


 そう言って少女がレンファの手を握ってぶんぶんと振っている。


「……やっぱこいつ面倒だわ。おい、お前は私達に用があるんだろう? 詳しく話してみろ」


 私がそう話し掛けると少女の表情が険しくなった。

 レンファの手前、流石に店の中で暴れる気は無さそうだな。

 それに武器を取り上げられて丸腰では何も出来ないだろう。

 しかし何かを言おうとしてためらっているのか、隣にいるレンファを気にしている様だ。


「レンファさん、すみませんがこの場を外してもらえませんか? 彼女も話しにくいみたいですので……」

「そうですか……。分かりました。用がありましたらすぐに呼んでくださいね」


 気を利かしたユズリがレンファをこの場所から外させた。


「ねぇ、あなたの名前はなんていうのかな?」

「……私はミラ、ミラエリン。あなた達に倒された魔王の娘だ」


 怒りに満ちた目で少女……ミラがメグを睨む。


「あなた、ミラって言うんだね。私はメグ。でこっちがテルアイラにユズリだよ」


 ミラに睨まれてもお構いなしのマイペースでメグが自己紹介をする。


「……お前本当に魔王の娘なのか? 髪は闇の如く漆黒ではないし、そもそも角すら生えてないじゃないか。本当に魔族なのか?」

「失礼な! 私はれっきとした魔族です! その証拠にほら、ここに角が生えているじゃないですか!!」


 私の疑いの目に対してミラが前髪を上げて額を見せてくる。


「ええっと……どこに角があるんですか?」


 ユズリがミラの額を一生懸命に探すのだが、角らしい物は見付からないみたいだ。

 うん。私にも見付からないぞ。


「どうせ厨二病の出まかせなんじゃないか?」

「ちょっとテルアイラ、それは可哀想だよ!」


 私とメグの言葉にミラがムッとした表情になる。

 でもなあ、私もこいつぐらいの年齢の時は右目にこの世ならざるものが見える!とか言って眼帯をしていたりしてたしなあ。

 そんで本気で心配した母親が……それはまあいいか。


「ちゃんと見てください! ほら、ここに角が少し生えているじゃないですか!!」


 ミラが指差す場所にポツっと何か吹き出物みたいなのがあった。


「え……マジかよ。これが角なのか?」

「これニキビと間違えてないかな?」

「随分と可愛らしい角ですね。ミラさん」


 みるみるうちにミラの顔が赤く染まっていく。

 あーあ、こりゃまた怒るぞ。


「ふざけないで!! 揃いも揃って私の事をバカにして!! 元はと言えばあなた達が父上を……」


 目に涙を溜めたミラが悔しさで一杯になったのか言葉に詰まってしまった。


「……あの、その事なんだけどさ、本当は魔王を打ち倒したのは私達じゃなくて勇者なんだよね」


 メグがためらいがちに伝える。

 何だか言い訳がましいが、それは事実だ。


「それは知ってます。ここに来る前に勇者に会ってきました」

「何だって!? あのクソ勇者に本当に会ったのかお前!!」


 思わずミラの肩を掴んで揺さぶってしまった。


「だから何だって言うんですか。それであなた達の事を聞いてここまで探しに来たんです」

「……それで、勇者はどうしたんですか? まさかっちゃったんですか!?」


 興奮してユズリも身を乗り出してきた。


「あ、いや……あまりにもみすぼらしかったのでそのままにしてきました」


 グイグイ来るユズリの勢いにミラが若干引いてしまっている。


「みすぼらしい? 勇者って魔王を倒した後にお姫様と結婚したって言ってたよね? 何でそんな状況になってるの?」


 メグが怪訝な表情で首をかしげている。

 そうだ。あの後、クソ勇者はこともあろうか解放した国の姫と結婚するとか言って、そのまま追放モノの如く私達を邪魔扱いして追い出したのだった。

 もちろんその後すぐにボコってやったけどな。主にメグが。


「そんなの私は知りません。ただ、『姫に装備一式を奪われて捨てられた』とか言っていた気がする。泣いて命乞いする姿があまりにも情けなかったので見逃してやりました」

「……それで私達の所へやってきたと言う事か。あのクソ勇者め、私達を売りやがったな」

「それにしても捨てられたって穏やかな話じゃありませんよね……」

「結局、あなたは私達にどうしてほしいの?」


 メグがミラの目を真っすぐに見るが、それに対してミラは目を逸らしてうつむいてしまった。


「……めちゃくちゃになった私の人生の責任を取ってほしい」


 ミラは消え入るような声で呟いた。


「責任を取れって……。そもそもミラさんは魔王城にいましたか? 一応それなりに魔王の身内も調べましたけど、あなたの事は記憶にありませんよ?」


 ユズリが眉根を寄せて記憶の糸を手繰っているが、やはりそれでもミラの事は心当たりが無いみたいだ。


「私と母は城には住まわせてもらえませんでした。……その、母が使用人だったので」

「あー、そういう事ね。それは色々と面倒くさい話になりそうだ。お前、魔王の他の子供達に会ったか?」


 まったくよくある話過ぎて目眩がしてきた。思わず額を押さえて天井を仰ぎたくなるよ。


「父が倒された後に会いに行きました。でも長男と名乗る男に『お前にはこれといった能力やスキルも無いから不要だ』と言われ、少しのお金を渡されて体よく追い返されてしまいました。あの人達は血も涙もない魔族です」


 ミラが悔しそうに拳を握り締めて体を震わせている。


「ねぇ、魔王の家族って今は知識奴隷とかで働かされてるんだよね? ミラの話だと、お金を渡して上手く逃がしてくれたって事なんじゃ……」


 メグからそんな推測を聞くとは思わなかったぞ。

 今日のお前は冴えているな。


「ところでお前の荷物を調べさせてもらったぞ。その中で手紙を見付けた。あれはなんの手紙なんだ?」

「この手紙は母宛ての父上からの手紙です。この手紙とあの短剣が唯一の父上との繋がりです……」


 ミラが自分の荷物から手紙を取り出すと大切そうに胸に抱いた。

 唯一の父親との繋がりか。思えばこいつも可哀想な奴だな。


「その手紙、読ませてもらっていいですか?」

「好きにしてください」


 そう言ってミラはユズリに手紙を渡した。


「ええっと何々……『お前の子供は認知しない。金を同封するから我の前に二度と姿を見せるな』……」


 手紙の内容に私達は絶句した。

 流石にこんな内容は予想していなかったぞ。


「うわぁ、まさに魔王らしい所業だな! こんちくしょうめ!」

「何だか魔王のスケールが一気に小さくなったね!!」

「これじゃミラさんが可哀想すぎますよ!」


 ミラは無言で俯いたままだ。


「あのね、確かに私達は魔王城に攻め入って魔王を打ち倒したよ。でもミラの人生には関わっていないと思うんだよね……」


 メグが困った様な表情を浮かべる。

 これまた言い訳がましいが、だが事実だ。


「じゃあ私はどうすればいいの!? 母からはこの手紙と短剣だけを押し付けられて家から追い出されるし、もうどこにも頼るあてが無いのに!!」


 ミラが大粒の涙をこぼしながら感情に任せて訴えてくる。

 何とも朝から胸糞悪い展開だよ。


「そんな事を言われてもなぁ」

「私達に出来る事はミラさんを役所に連れて行くだけですよね……」

「それは可哀想だよ。どうにかならないの?」


 ミラに掛けてやる言葉が見付からない私達は立ち尽くすばかりだった。


「——だったら、うちで働きませんか?」


 いつの間にか近くに来ていたレンファがニッコリとミラに笑い掛けた。

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