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2 誰も胸の話なんてしていないじゃないですか!

「もう五日目だけど、ここの料理は飽きなくていいよね」


 相変わらずアホ面の猫耳メグナーシャことメグが日替わりランチの白身魚のフライを美味しそうに頬張っている。


「あちこち食べに行きましたけど結局ここが一番でしたね」


 おっぱい星人の狸耳ユズリがメグに同意する。


「本当ですか? 嬉しい事を言って下さいますね。父が聞いたら喜びますよ」


 水のお代わりを注ぎに来た宿屋の看板娘、レンファが笑顔を見せた。

 この宿屋、月花亭はレンファの父親が宿で出す料理全般を取り仕切っているみたいだ。

 以前は別の食堂で働いていて、一念発起して自分の店を持ったと言えば聞こえは良いが、単に宿を経営する妻の家に婿入りしただけの話らしい。

 まぁ、他人の家の事情なんて私が知ってても意味が無いんだけど。


「ところで私達はいつもこのオープンテラスの席に案内されるのだが、それはやはり私が美しいからだろ? こういう外から見える席は、外見が良い客を敢えて座らせるなんて聞いた事があるからな」


 こんなに美人な私がここにいれば集客率も物凄い事になっているだろう。

 もっと感謝してくれてもいいんだぞ、レンファよ。


「あはは、そうですね……」

「実際はテルアイラが店内で下品な話ばかりするから外に追い出されただけなんだよね」

「本当ですよ。とんだとばっちりですよ私達」


 何かメグとユズリがこそこそ話しているが、私の美しさに嫉妬でもしているのかな。面と向かって褒めてくれてもいいのに。


「ところでさ、通りを歩いてる子達でお揃いの可愛い服を着ている子が多いよね。あれは何なの?」


 メグが不思議そうに通りを歩くお揃いの服を着た少女達を目で追っている。

 あまり見掛けないタイプの服だな。


「あれはこの王都にある冒険者予備校の制服ですよ。最近デザインが変わったらしいとか」


「冒険者予備校ですかぁ……。私が通っていた所はそもそも制服なんてなかったですよ。いいなぁ。私も着てみたい」


 ユズリが頬杖をついて羨ましそうに見ている。

 そんなに制服がいいものかねぇ……。


「ふん。私ぐらいになると何を着ても似合い過ぎて皆から羨望の眼差しを受けるぞ」


「テルアイラさんはよく恥ずかしげもなくそんな事を言えますよね」

「何だとう! ユズリめ、少しぐらい胸があるからって私の事をバカにすると許さないぞ! こうしてやる!!」


 奴の無駄にでかい胸を突っついてやった。

 その感触に余計に腹が立つ。

 

「止めて下さいよ! 誰も胸の話なんてしていないじゃないですか!」


「私は仕事に戻りますね。それじゃごゆっくり……」


 私達のやり取りを呆れ顔で見ていたレンファが店内に戻って行ってしまった。

 あいつあんな歳で忙しそうだな。

 私もあのくらいの年齢の時は……まぁいいか。


「ところで服と言えばさ、この王都の店は凄かったね。既製品の服があんなにたくさんでしかもサイズも色々あるなんて初めて見たよね」


 通りを歩く人達が何故かこちらを見て微笑むので、メグが笑顔で手を振って応える。

 まぁ大方、私が美しすぎるので思わず微笑んでしまうのだろう。


「確かにそうだな。あの既製品の品揃えと手頃な価格には驚いた。思わず私もこのTシャツとやらを買ってしまったよ」


 手頃な価格だったので何枚も買ってしまった。普段着には丁度いいな。


「……だからって三人が同じ服で被るのはどうかと思いますよ。しかも何ですか? 絵柄まで同じってウケを狙った私がバカみたいじゃないですか」


 同じくTシャツを着たユズリがグチる。

 私達三人が同じTシャツを着ていて、胸の所には「Iラブ王都」と印刷してある。

 思いっきり観光客丸出しの格好であった。


「もしかして通りすがりの人に笑われてたのってこれのせい?」


 メグがそう言って自分のTシャツを凝視する。

 そんな訳ないだろう……。

 

「今更気付いたんですか? 知ってて着ているのかと思いましたよ」


 ユズリが呆れ顔で脱力する。

 え? それマジなのか!?


「まさかこの私まで笑われていたなんて……許せぬこの屈辱!!」


 ムカついたのでこちらを見て笑う通行人に中指を立ててやる。


「ちょっと! 何やってるんですか!! あぁ、すみません。この人ちょっと頭が残念なだけですので気にしないで下さい」

「誰の頭が残念なんだコラ! このおっぱい女!!」

「勝手に揉まないでくださいよ! このセクハラエルフ!」


「二人とも元気だねぇ」

「てめぇ、メグ! なに一人でプリンなんて食べてるんだよ!!」


「元気だねぇじゃないですよ!! 少しは大人しくしていてください! 宿から追い出しますよ!!」


 レンファに叱られて私達は謝る羽目になった。こんちくしょう。

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