18 でも重さがちょっと足りないかな?
「メグ、お前も調子に乗るんじゃない!!」
「え~、いいじゃない。あんなの見たら私だって戦いたいよう」
まったくこいつも子供かっての。
指をくわえて上目遣いで見ても駄目だからな!!
「えっと、ボクが挑戦してみたいんだけど……駄目かな?」
そう言ってメグの誘いに栗毛の可愛らしい子が名乗りを上げてきた。
華奢な感じだが大丈夫なのか?
「キミが? 私としてはそっちの男の子の方が楽しませてくれそうなんだけど……」
メグが少年の方をチラリと見ると、少年は「無理無理!」といった感じで首を横に振ってる。
確かにそれが賢明だ。このアホの相手をしていたら命がいくつあっても足らないぞ。
「まぁボクも自分がどこまで通用するかの腕試しがしたいだけなので、お姉さんに付き合ってもらえると嬉しいかなってね」
そう言うと栗毛の子が一瞬眩い光に包まれたと思うと銀髪になっていて、全身に魔力をまとっているのを感じる。
おいおいおい。こいつも普通じゃないのかよ。
「……なるほど。外見だけのハッタリじゃなさそうだね」
メグが猫耳をピコピコと動かして不敵な笑みを浮かべる。
あーあ。私もう知らないからな。
「どういたしまして、かな。ボクはピアリ。お姉さんは?」
「私はメグナーシャ。メグと呼んでね♪」
二人は拳をぶつけ合うとそのまま対峙した。
「なぁ、ロワ。お前の友人達は一体何者なんだよ?」
「うーん。私も最近は驚いてばかりだからあんまり気にしないでね?」
考えるのを放棄しろって事かい。
まったく最近の若者は……って私はまだそんな歳じゃないからな!!
「それじゃあ、行くよ!!」
メグがピアリと名乗った銀髪の子との距離を一気に詰めて殴り掛かる。
まずは様子見の一発だな。
相手もそれが分かっているのか、最低限の動きでそれをかわしてカウンターで膝蹴りを繰り出す。
メグと相手するぐらいだからこの子も口だけじゃないって事か。
「やるねっ!!」
メグが蹴りをかわすが逆に間合いを詰められ、そのまま拳を数発叩きこまれた。
結構早い。ガードする間も与えないか。
「……でも重さがちょっと足りないかな?」
メグが楽しそうに笑いながら薙ぎ払う様にピアリの胴に回し蹴りを放つ。
ピアリは慌ててかわすが、かすったらしく顔をしかめている。
「いてて。かすめただけでこの威力って、お姉さんは化け物なの?」
「それは変身したキミに言われたくないなぁ」
少しムッとしたメグが拳を突き出す。
それをピアリは身を翻して避けるが、それを狙ったかのようなメグの掌打をまともに食らって吹っ飛んだ。
あれは痛いぞ……。
受け身を取って立ち上がるも案の定ダメージが大きく既にふらついている。
これは早々に勝負ありか?
「いててて……。本当にどんな力だよまったく」
「おい、無理はするなよ!」
少年が心配そうに声を掛けている。
まぁ見てるこっちも心配になるよ。
「大丈夫だよ。これからだから見てて」
少年に心配させまいと頑張るのか。健気だなぁ。
ちょっと妬けるぞ。
「メグ、お前も少しは加減してやれよ。あんな子に大怪我させたら洒落にならんからな」
「いや、下手に手加減出来る相手じゃないよ。……ユズリは分かるよね?」
「そうですね。彼女達を普通の学生と思っていたら逆にこっちが痛い目を見ますよ」
ユズリが大真面目な顔でうなずいている。
「マジかよ……」
この街の冒険者ギルドは大したことの無い奴らばかりの集まりだったが、学生にこんなのがいるとはまったく油断ならないな。
「さて、ボクの今の限界も分かったので本気状態を試させてもうらうね」
そう言うとピアリが再び眩い光に包まれ、光が収まると彼女の背に透明な羽が生えていた。
あいつ妖精の力を使うのか!?
本当にこいつらは何者なんだよ!!
「何それ――」
メグが言い終わらないうちに殴り飛ばされていた。
転がるメグにピアリが魔力で発生させた光刃を数発放って追い打ちを掛ける。
それら全てをまともに食らったメグだが、何事も無かった様に立ち上がって憤慨している。
「もう頭にきたぞ!!」
「ええー! これ効かないの!?」
あれはメグだから通じないだけで、普通の奴だったら今ので終わってるだろ。
「妖精の力を使う奴なんて一体どこから連れて来たんだよ。なぁ、ロワ聞いてるのか?」
「人には事情が色々あるんだよ。気になるならそこの彼に聞いて」
ロワが投げやりに少年を指差した。
少年は私の視線から露骨に目を逸らす。恐らく言えない事があるのだろう。
それにしてもあの少年自体も色々謎なんだよな。相変わらず妙な気配を感じるし。
考えるだけで頭が痛くなってくるよ。
「いやぁ、楽しいね! 私も本気を出したくなっちゃったよ」
「お姉さんの本気を見せて下さいよ!!」
ピアリの放つ光刃を避けながらメグがニヤリと笑う。
するとその瞳がネコ科そのもの縦長の瞳孔になると同時に尻尾が二股になった。
こいつも大人気ない。だがそこまで追い詰められたって事か。
「もう手加減出来ないからね!!」
メグが距離を取っているピアリの元へ一気に跳躍する。そして渾身の一撃を叩きこむがそれをピアリが上手く受け流す。
後は双方の物理的な殴り合いの応酬だ。
パワータイプのメグが優勢に見えるが、速さで勝るピアリもカウンター狙いで負けていない。
「キミは魔力を乗せて攻撃するタイプなんだね。でもそれじゃ相手が魔力無効化のアイテムを装備していたら攻撃が通じないよ?」
「それはお姉さんだって同じじゃないですか!」
「ふふん。私は魔力だけじゃないから! 『気』の流れも乗せてるんだよ」
「意味が分からないですよ!」
こいつらは戦いの最中に何を喋ってるんだか。
そうした応酬で一瞬の隙を突いてピアリの拳がメグの左肩にクリーンヒットしたようだ。
「いったぁ!!」
あれは骨までいったな……。
だが痛みに顔を歪めながら肉を切らせて骨を断つとばかりにメグは攻撃の手を緩めず、右手でピアリの胸ぐらを掴んで引き寄せると胴に膝蹴りを入れた。
まともに食らったメグの蹴りに耐えきれずにピアリは吹っ飛ばされて転がり、そのままピクリともしない。
……これちょっとやり過ぎじゃないか?
「いったあーい! 肋骨折れたみたいだよー!!」
良かった。叫ぶ元気はあるので命には別状はないようだ。
「まだまだこれからだよ!!」
そう言って、悶絶しているピアリにメグが飛び掛かろうとする。
「待て待て! もう終わりだって!! 正気に戻れ馬鹿メグ!!」
「ギニャア!!」
さらに追い打ちを掛けようとしたメグを風魔法で吹っ飛ばして地面に叩き付けた。
この戦闘馬鹿は加減を覚えろよまったく。
「はいはい終了~!! 二人とも超頑張りました!! もう終わりだから戻って下さ~い!!」
今回も多少強引だが終了宣言を出す。
このままじゃメグがあの子を再起不能にしかねない。
「いやぁ、キミやるねぇ。久々に熱くなれたよ!!」
「こちらこそ。お姉さんみたいな人に自分の実力を試す事が出来て良かったです」
メグとピアリがお互い健闘を称え合って握手を交わす。
何か青春だな。私には無縁な物だったけど。
「それにしてもそこの君、助かったよ。いい回復薬をありがとな。おかげでメグの怪我も回復したみたいだ」
メグに治療薬をくれたゆるふわ系の少女にお礼を言う。
確か先日冒険者ギルドで少年と一緒にいた子だ。
「いえいえ。自作の拙い物ですがお役に立てて何よりですの」
「謙遜しなくていいよ。十分店に出せるレベルだ。それに元はと言えばうちの僧侶職が回復魔法が苦手なのがいけないんだけどな」
「人には向き不向きがあるんですー」
ミサキとも和解したのか、何やら話し込んでいたユズリが開き直ったように口を尖らす。
しかしこいつは本当に僧侶の資格を持っているのだろうか。
「それで次はお主がわらわとやり合うか?」
小柄なウサギ耳の獣人の少女と一緒に成り行きを見守っていた黒髪の少女が突然私に問い掛けて来た。
「冗談言うな! 私は遠慮しておくぞ。戦う前から己の力量を見極められないと命なんていくつあっても足りんからな!!」
冗談にしても笑えないっての!
こんな奴とやり合いたくない。何でこの子達は平気な顔してこんなのと一緒にいられるのだろうか。それが不思議で仕方がない。
「何だつまらん」
「つまらなくて結構!! おい、お前らももう帰るぞ! ロワもまた今度な!」
「何ですか急に。仕方ないですね。……では皆さんまたの機会に」
「そうだよ。まだ話の途中だったのに。それじゃまたね~!!」
◆◆◆
「何で逃げる様に別れたんですか?」
ユズリが不思議そうな顔で尋ねてくる。
「あの黒髪の少女、と言っていい存在か分からんがあれは多分……魔人の生き残りだ」
「魔人って竜族と共に遥か昔に表舞台から姿を消したって種族?」
メグが目を丸くして私の顔を覗き込んできた。
「恐らくな。だから関わっても面倒な事になるから忘れた方がいいぞ」
「でも、テルアイラさんのご親戚の子? 彼女は普通に接してましたけど……」
「そうだよね。それにあの子達もただの学生じゃなかったよね」
「それが悩みの種なんだよ。まったくアイツはどんな交友関係を築いてるんだか。これ以上危ない事に首を突っ込まなければいいのだけど」
思わずこめかみを押さえる。
先日の魔狼討伐の後始末の際、時の精霊を介してロワが大怪我をした事を知ったから余計に心配になるんだよ。
そう悩んでるうちにいつの間にか常宿である月花亭の前に着いていた。
「――その三人はどこにいるのですか!!」
「だからさっきから言っているじゃないですか、外出中なんですよ! とにかく落ち着いてくださいってば!!」
何だか店の前でレンファが誰かと揉めているようだ。
相手をよく見ると先程の少女達より少し年下だろうか。薄紫色の髪が印象的な少女だった。
「おーい、何を揉めているんだ?」
「あ、テルアイラさん丁度いいところに!! この人が皆さんに用があるみたいなのですが……」
困り切った表情のレンファの顔がパッと明るくなる。
反対にレンファと揉めていた少女が憤怒の形相でこちらを睨みつけてくる。
「どうしたんだろうね」
「厄介事はご遠慮願いたいですね」
メグとユズリが怪訝な表情を浮かべる。
そんな私達のところへ少女がやって来た。
「父上の仇、ここで取らせてもらいます!!」
そう言って突然少女が懐から短刀を抜き放って斬りかかって来たのだった。




