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13 燃え尽き症候群って奴だな

 私達が村に来てから三日目、心配されていた魔狼の襲撃は起こらずその間は害獣退治に明け暮れていた。

 そんな中、集会所の部屋で最後の打ち合わせをする。


「結局、私達って畑荒らしの害獣退治ばかりしてましたね……」

「それでも村の人達に感謝されたのだからもっと胸を張ろうよ」


 既に疲れ切った表情でユズリがぼやき、疲れた様子など少しも見せないメグが答える。ご苦労なことだな。


「何でメグさんはそんなに元気なんですかねぇ……」

「まったくユズリはだらしないぞ。普段の鍛え方がなっちゃいないんじゃないか?」

「と言うかテルアイラさんはほとんど何もしていないで楽ばかりしてるじゃないですか! それよりも怪奇現象が起きたのを黙ってるなんてひどいですよ!!」

「そうだよ! テルアイラがあんな事を言うから私、あのあと一人で寝られなくなったんだからね!!」


 ユズリとメグが憤慨するのも仕方がない。

 あの恐怖現象が起きた翌朝、二人にあの晩の事を話したら最初は冗談だと思ってたみたいだが、私が必死に事実だと訴えると震えあがってしまったのだ。


「悪かったよ。でもお前らは直接見て遭遇してないだけいいじゃないか。直で見てしまった私の身にもなってくれよ。……でもまぁそれも今日までの辛抱だな」


 ようやくこの村ともおさらばだ。早く帰ってゆっくり寝たい。


「じゃあ私は村長さんに報告と挨拶してくるね」


 ひらひらと手を振ってメグが部屋から出て行った。


「私の方はギルドへ帰還の連絡をしておくか」


 冒険者ギルドから持たされた水晶版を操作しているとユズリが覗き込んできた。


「前から気になってたのですけど、それ何ですか?」

「最近この国で実用化され始めた魔導ネットワークだそうだ。この水晶版タブレットを介して遠方とやり取りが出来るとか何とか。便利な時代になったよな」

「はぁ、そうなんですか……」


 よく分かってなそうなユズリは適当な返事を返す。

 まぁ私も似た様なものだ。ちなみにこいつは異世界の技術が使われてるのではないかとにらんでいる。証拠はないけど。

 そして私達は村での最後の昼食をご馳走になり、王都へ帰還する時間になった。


「また何かあったら是非よろしくお願いします」

「随分と助かったよ姉ちゃん達」

「次に来る時はうんこに気を付けてくれよ!」


 村長や村人達が見送りに来てくれ、お土産を色々と渡してくれた。

 まぁこういうのも悪くはないよな。


「また来るからねー!!」

「正直、私はもう来たくないなぁ……」

「そうか? でも食事は美味しかったよな。素朴な味っていうか。王都の月花亭の食事も良いけどこちらも捨て難い」

「おおー。自称美食家のテルアイラが褒めるなんて余程だね」

「まぁ……そこはテルアイラさんに同意しますけど」


 何だよユズリの奴、最後ぐらい愛想良くすればいいのに。

 村人達に手を振りながら私達は村を後にした。

 帰路も最初に村に来た時と同じようにグリフォン型のゴーレムに騎乗して上空を飛ぶ。

 やっぱ空を飛べると楽だな。

 だが隣を見るとユズリが浮かない表情だ。


「ユズリはまだ何か不満なのか? 帰ったら何か甘い物でもおごってやるから元気だせよ」

「え? ……私そんな顔をしてましたか?」

「やったー! テルアイラのおごりでスイーツ食べ放題だ!!」

「お前にはおごらねえよ! 自腹で食えよ!!」


 私とメグが騒いでるのをユズリは疲れた顔で見ている。

 本当にこいつどうしてしまったんだろうな。


  ◆◆◆


「はい、依頼達成を確認いたしました。ではこちらにサインをお願いします」


 王都に戻ったその足で冒険者ギルドに向かったのだが、ギルドマスターの爺さんは不在で受付のサラが対応をしてくれた。


「それにしても他にも魔獣が出たのですね。みなさんにお願いする事が出来て本当に助かりました」

「それはそうとちゃんと退治した分の報酬は出るんだよな? ケチったら汚物をまくからな!」


 冗談で言ったつもりだったのだが、ギルド内にいる冒険者達が怯えてしまった。


「そんな事を言うの冗談でもやめてくださいよ! ちゃんと依頼主の冒険者予備校の方から報酬が支払われますから……」


 サラが青い顔をして怯えている。

 何だよー。そんな怖がらなくてもいいじゃんか。単なる冗談なのに。


「ほらユズリ、テルアイラのおごりだから好きな物を注文しちゃいなよ」


 メグの奴、事務手続きをこっちに丸投げした挙句に勝手に飲み食い始めやがったな!!


「メグふざけんなよ!! 何を勝手に私抜きで始めてるんだよ!!」

「だってテルアイラが遅いんだもん」

「仕事を人に押し付けて楽しやがって……」

「それをテルアイラが言うの? 村での魔獣退治は私とユズリがほとんどしていたじゃない」

「なにおう!!」


 そんな私達の応酬をユズリは梅酒をちびちび飲みながら黙って見つめている。


「ねぇ、ユズリ本当に大丈夫?」

「お前今日はずっと変だぞ。悩みがあったら遠慮なく言えよ?」


 まったく、普段から小うるさいのが急に静かになると何とも調子が狂うよ。

 心配する私達をしばらく見つめていたユズリがようやく口を開いた。


「ええっと、悩みと言うか……私達って何をやってるんですかね」

「何って、依頼を受けて達成してきたじゃない?」

「そうだな。冒険者として困った人達を助けるために真っ当な生活を送っているじゃないか」

「……そうじゃないんです」


 ユズリは溜息を吐いた。

 おい待て。ちょっといい事言った風の私へのツッコミは無しか?

 何かマジで言っちゃったみたいで恥ずかしくなってきたんだけど!!


「じゃあどうしたの? 何でも相談してよ。私達仲間だよね」

「……私達って魔王を倒しましたよね。こう言っては何だけど、もう強い敵がいなくて張り合いが無くなってしまったと言うか……」


 メグが固まってしまったようだ。

 まさかこんな答えが返ってくるとはな。


「あー、これはアレだな。燃え尽き症候群って奴だな」

「テルアイラさん、何ですかそれ」


 梅酒で酔ってるのかユズリは赤い顔で若干目が据わっている。


「何か大きな事をやり遂げた者が目標を見失って生じる物だ」

「へー。そんな事があるんだね。でも目標なんて見付けようと思えばいくらでもあるのにね」

「メグ、誰もがお前みたいに単純じゃないんだよ」

「目標ですか……確かにそうかも知れませんね」


 勇者パーティーに見いだされ、魔王を倒す事だけを目標としてきたユズリにとって魔王討伐後は勇者に養ってもらって悠々自適に暮らすつもりだったんだろう。

 それも叶わなくなって今後の目標を見失ってしまっている……大方そんな感じか?


「お前さあ、魔王を倒して自分達が世界最強だと思ってるのか? それは自惚うぬぼれだぞ。この世界にはお前が知らないだけで魔王なんか相手にならないぐらいヤバい存在はいる。私は遭遇したくないけどな」

「え、そんな凄い相手がいるの? 是非手合わせしてみたいんだけど」


 嬉々とした表情でメグが身を乗り出してきた。

 お前は自重してくれ。そんなヤバい奴と戦ったら命がいくつあっても足らないから!


「もうメグは黙ってろよ。……だからさ、もっと別の目標とか趣味とかを見付けてみろよ。何だかんだ言ってお前は真面目過ぎるんだよ」

「……何だか今日のテルアイラさんは凄く『お姉さん』って感じですね。今までにこんな風に誰かに助言した事があるんですか?」

「そうだな。少し手の掛かる親戚の子がいてな。似た様な事を言ったかも知れないな……」

「ふーん」


 ユズリの表情が若干柔らかくなった。

 私の言葉が少しは届いたのかな。


  ◆◆◆


「ただいまー!!」

「またお世話になります」

「疲れたーもう風呂入って寝たい」


 第二の我が家である月花亭へ帰還の挨拶だ。

 看板娘のレンファがパタパタと足音を立てて駆け寄ってくる。


「お帰りなさーい!! ちゃんとお仕事は成功しましたか?」

「もちろん!! しっかり困ってる人達を助けてきたよ」


 メグが胸を張るのをレンファが憧れの眼差しで見ている。

 私にもこんな純粋な頃はあったんだよな……って今も純粋だからな!!


「そうだ。レンファ、お前に土産があるぞ」

「ええ!? テルアイラがちゃんとお土産を用意しているなんて……」

「本当ですね。明日雪が降るんじゃないですか?」


 まったくお前ら私を何だと思ってるんだよ。


「わぁ! ありがとうございます!! この袋何かな? ここで開けてもいいですか?」

「ああ構わんぞ。新鮮なうちに楽しんでくれ」

「何が入ってるのかなぁ…………って臭っ!! 何ですかこれ!! 凄い臭いんですけど!!」

「それは牧場で見つけた新鮮なうんこだ。どうだ臭いだろう?」

「こんな物いりませんよ!!」


 いきなりレンファが袋を投げつけてきた。

 まさか投げてくるとは思わなかったので反応が遅れてしまった。

 そして袋の中身が私の顔面を襲う。


「ギャー!! くっさっっっ!!!」


 何てことだ!! うんこが私の美しい顔に!!!


「やっぱりテルアイラってバカだよね」

「テルアイラさんを見ていたら何だか自分の悩みが馬鹿らしくなってきましたよ」


 くそ! 清掃魔法を覚えておけば良かったよこんちくしょう!!

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