10 油断するとうんこ踏むから気をつけろよ
お食事中の方に不適切な表現が少々あります
「サクッと片付けてやるから村の場所を教えてくれ。面倒な事はとっとと済ませたい」
こういった事は、勢いが大事だ。
考えるより、まず動けってな。
「こちらが村までの地図です。今すぐ発たれるとなると、馬車の手配もありますので少しお待ちいただけますか?」
「馬車は不要だ。自前のがあるからそっちを使う」
「自前の馬車をお持ちなのですか?」
「ああ、もっとも馬車とは少し違うけどな」
「……?」
サラが怪訝な顔をしてるが、まぁ口で説明しても分からんだろ。
「テルアイラさん、それは秘密にしておかなきゃ駄目ですよ。見られたら色々面倒な事になるんですからね」
すぐに小うるさいユズリが注意をしてくる。
まったく、変なところで真面目な奴だな。
「ユズリも気にし過ぎだよ。まあ、バレたらバレたでいいんじゃないかなぁ」
メグは気にしなさ過ぎだと思うが、でもこいつのこういう部分は私は嫌いじゃないぞ。
「ほっほっほっほ。お嬢さん方は謎が多くてミステリアスだのう」
「ヴォイドの爺さんよ、いい女ってのは謎が多いもんだぞ」
このセリフを一回言ってみたかったんだよな。
「自分でいい女とか言ってる時点で駄目じゃないですかね」
「テルアイラの場合は、謎というより粗が多いよね」
「そこの二人うるせえよ!!」
そんなやり取りをしていると、サラが遠慮がちに書類を差し出して来た。
「ええと、依頼書を含めてこちらが今回の契約内容です。ちゃんと目を通しておいてくださいね」
「分かりました。道中で読んでおきますね」
サラから書類一式をユズリが受け取る。
こういうのは、こいつに任せておけば問題ないはずだ。
決して丸投げじゃないからな。
「それじゃ行って来るぞ」
「しっかりクエスト任務を果たしてきますね」
「大船に乗ったつもりで安心してね〜」
「頼むぞお嬢さん方。実はこのクエストは見切り発車で、冒険者予備校側には既に冒険者が現地に向かっていると伝えてしまっておるから急いでくれ」
「は? ふざけんなジジイ!! 何を勝手な事やってんだよ!!」
「ごめんね! てへぺろ!」
「コノヤロウ!!」
「ちょっとテルアイラさん落ち着いて下さい!!」
「そうだよ。おじいちゃんには優しくしないと駄目だよー」
「ええい離せ!!! あのジジイ絶対殴ってやる!!」
そんな私達をサラが呆れ顔で見ていた。
◆◆◆
……出発前から一悶着してしまった。
あのくそジジイ、これで私達がクエストを引き受けてなかったらどうするつもりだったんだよ。怪我してる学生だっているってのに。後で覚えておけよこんちくしょうめ。
「取り敢えず、日用品と着替えとかは手持ちので大丈夫だよね?」
メグが歩きながらアイテム袋の中身を確認をしている。
私達は、準備のために一旦宿に戻ることにしたのだが、足りない物があればついでに買って帰ろうって話になった。
「私は新しいTシャツが欲しいです。依頼書に少し目を通しましたが、現地で二、三日は過ごすみたいですよ」
「おいユズリ、急ぎの依頼だって言ってただろ。そんな物を買い物してる余裕は無いから手持ちので我慢しろ」
「え……。テルアイラさんがまともな事を言っている」
「何だかんだ言って、テルアイラも怪我した学生の子達の事が気になるんだよ」
「無駄口叩くな。早く行くぞ」
まったく、この二人はつまらない事ばかり言いやがって……。
「お帰りなさーい。って、随分と早い戻りですね。仕事はありましたか? ドブさらいとか言わないでくださいよね」
「ああ。急ぎの依頼を受けたぞ。これから現地に向かうからな」
「一応、これはお部屋の維持費って事で受け取って下さいね」
「という事で、今日はお昼と晩御飯はいらないからよろしくねー」
「え……ちょっと! こんな大金は受け取れませんよぉ!!」
レンファの戸惑いの声を無視して私達は荷造りを始める。
ついこの間まで旅をしていたんだ。二、三日分の支度なんてあっという間だ。
そもそもアイテム袋も持ってるから、あんまり関係ないんだけどな。
「じゃあ行って来るからな。多分二、三日部屋を空けると思う」
「留守をよろしくお願いしますね」
「お土産持って帰ってくるからねー」
「いってらっしゃい……って、ちゃんとした仕事があったんですね」
「お前なぁ。私達の事を何だと思ってたんだよ……」
そんな呆れ顔のレンファに見送られながら、私達は宿を発った。
「さて、この辺りで良いんじゃない?」
メグが周囲を大きく見渡す。
王都の門を出てからしばらく歩き、街道から外れた人気のない場所に私達はいた。
「そうですね。ここなら誰にも見られなさそうですね」
「じゃあ、さっさと行くか」
私達はアイテム袋の中から、それぞれ魔獣のグリフォンを象った人形を取り出した。
このアイテム袋は異世界の技術が使われてる物らしい、というのは魔王討伐の際に魔王から強奪してきたので、詳しい事はよく分からないのだ。
まぁ普通に便利だから、ありがたく使わせてもらってるんだけどな。
そして、このグリフォンの人形も魔王から入手した物である。
「ええっと、こいつに魔力を込めて……と」
このグリフォンの人形は、魔力を込めると巨大化して騎乗する事が出来る。
早い話、ゴーレムみたいなものだ。
これも異世界の技術なのか分からないが、便利なので活用している。
「私、何度乗ってもこれは苦手ですよ……」
ユズリは既に青い顔をしてゲンナリしている。
頑張って慣れてくれ。
「何言ってるんだよ。その辺の馬なんかより遥かに早くて便利じゃないか」
本当にこいつは便利だ。
このグリフォン型のゴーレムは空を飛べる。
こんな代物は、古代魔法王国の時代でも実用化されていないだろう。
「それじゃあ、私が先に行くね」
グリフォン型ゴーレムに騎乗したメグが颯爽と空へ駆け上がる。
「ああっ! 待ってくださいよう! 地図は私が持ってるんですからね!!」
ユズリがふらつきながら、何とか飛び立ったのに続いて私も空に上がった。
空高く駆け上がった三騎のグリフォンが翼をはためかせる。
「いやぁ、高い所は気持ちいいね!」
明るい金色の髪を風になびかせてメグが笑う。
まったく、子供みたいな無邪気な顔をしやがって。
「見ろ! まるで人がゴミのようだ!!」
眼下には商隊の列が見えると、思わずそんな言葉を口走ってしまう。
「何ですか? そのセリフ」
ユズリがジト目で見てきた。
「いや……何となく言ってみたかっただけだから、気にすんな」
そんな優雅(?)な空の旅もあっと言う間に終わりだ。
「目的地はあの村みたいですよ」
ユズリが前方に見えて来た村を指差した。
「よし、この辺で降りるか」
「このまま村に降りた方が早くないかな?」
メグが不思議そうな顔をする。
「お前はアホか! こんな物に乗ってそのまま村に入ったら村中パニックになるわ!!」
「おお、言われてみればそうだね!」
メグは目を丸くして手をポンと打つ。
こいつ本当に大丈夫かなぁ。
「アホな事言ってないで、さっさと降りるぞ」
「うん、分かった」
「二人とも待ってくださいよう!」
◆◆◆
「あれが目的の村なの? 随分とのどかな場所だね」
アイテム袋にグリフォン型ゴーレムを収納したメグが、物珍しそうに周囲を見渡す。
「何というか……牧歌的ですね」
ユズリもキョロキョロと辺りをうかがっている。
「そりゃそうだ。ここは牧畜が主産業みたいだからな。油断するとうんこ踏むから気をつけろよ」
ネチャァ。
何だ? この足元の妙な感触は。
しかも、そこはかとなく臭いんだけど。
「……もしかして、うんち踏んじゃった?」
メグが私の顔をのぞきこんでくる。
この私がうんこを踏んだだと!?
そんな事は有り得ない!!
でもこの感触は……。
「えー!? テルアイラさん自分で注意しろと言っておきながらウンコ踏んじゃったんだー!! ウケるー!!」
ユズリの奴! この私に指を指して笑いやがったな。
絶対に許さん。
「食らえユズリ!!」
うんこを踏んだ足でユズリに蹴りを入れてやった。
「ギャー!! 何するんですか!! 服にウンコ付いちゃったじゃないですか!!」
「良かったじゃないか。うんこが付いて運も付くんじゃないか? ついでにその無駄にでかいおっぱいにもうんこ付けてやろうか?」
「この人でなし!! ウンコと運を掛けても面白くないですよ!! もう今日という今日は我慢が出来ません!!」
「望む所だ!! 相手になってやる!!」
「あ……二人ともその辺にしておいた方が……」
「邪魔するんじゃないぞメグ!!」
「そうですよ! メグさんは手出ししないで下さい!!」
ネチャア……。
「「あ」」
二人してうんこを踏んでしまった。どうしよう。
顔を見合わせた私達はそうっと足を上げようとするも、お互い掴み合っていたのでバランスを崩してしまった。
ズルッ!!
べチャア!!
「「ギャー!!!」」
うんこを踏んで滑った私達は、そのまま別のうんこにダイブしてしまった。
「だから言ったのに……」
そんな私達を見てメグが呆れ果てていたのだった。