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1 お食事とご宿泊どちらもです!!

読みやすく行間等を調整しました。

今後、ボチボチと調整していくかもしれません。

 ある日の昼下がり、王都レトアデールの門を三人の旅人がくぐった。

 それぞれが旅慣れている様子で、目深に被ったフードから覗く顔は三人とも若い女性である。




「やっと王都に着いた……。ちゃんとした宿に泊まって、風呂に入りたい!!」


 ここ最近ずっと移動の日々だったので、私達はロクに風呂も入れなくて最悪だった。

 もしかしたらにおってるのかもしれないな。私は違うけど。


「へぇ〜ここが王都かぁ。ここって古代遺跡が多い国なんだよね!」


「ちょっとメグさん! お上りさんみたいで恥ずかしいですからあんまりキョロキョロしないでくださいよ!」


 この二人は相変わらず落ち着きがない。もっと私のエレガントさを見習うといいのに。

 ちなみにアホっぽい猫耳がメグで、小うるさい狸耳の方がユズリだ。

 そしてエルフにこの人ありとまで言われ、誰もがこの美貌に目が眩んでしまう罪作りな女がこの私、テルアイラだ。


 何の因果か、女三人で西方からこのレイデンシア王国まではるばるやってきたのだ。


「しかし、王都と言う割にはそこまで大きくないな。今まで私達がいた城塞都市の方が余程大きかったな」


「そう? テルアイラの記憶は結構適当だから話半分に聞いておくよ」


「そうですね。テルアイラさんっていつも話を膨らますから素直に信じられません」


 こいつらはいつも失礼だ。

 どうして毎回私にケチを付けてくるのだろう。

 やはり私が美人過ぎてモテモテなのがいけないのだろうか……。


「さて、ユズリにテルアイラのお二方。王都を満喫する前にこれから私達の滞在する宿を決めなくちゃいけない。でも、私はお腹が空いたよ。ご飯が食べたい! さあどちらにする?」


 そんな私の悩みを無視するかのように、メグが猫耳を忙しなくピコピコ動かしながら問い掛けてくる。


「どちらにするって……それはわざわざ選択しなければいけない事ですか?」


「普通に宿を決めてから食事にすればいいじゃないか。お前はバカなのか?」


 まあ、私としては落ち着ける綺麗な部屋の宿だったら、どこでも文句はないのだが。


「んー、取り敢えず聞いてみただけだよ。それじゃ宿探しと行きますか!」


 そう言ってメグが無駄に元気よく歩いて行く。

 こいつの辞書に疲れという文字はないのだろうか。


 商店も連なる宿場街を見て歩いていると、ユズリが声を上げた。


「ねえ二人とも、この宿がいいんじゃないですか? 『宿泊は女性客限定』ですって」


 ほほう。ユズリのくせして意外とセンスがいいじゃないか。

 飲食店を兼ねている宿屋だ。

 特にこのオープンテラス席が気に入った。


 こんなところに座って、アンニュイな雰囲気をまとってお茶でもしていたらとても絵になるな。


「私は別に構わないぞ」


「よし。じゃあここにしよう!」



「いらっしゃいませー! お食事ですか? ご宿泊ですか?」


 宿の受付カウンターの呼び鈴を押すと、営業スマイルが眩しいこれぞ看板娘というエプロン姿の少女がパタパタと走ってきた。

 こんな歳でもう働いているのか。偉いな。


 私はこの子ぐらいの年齢の時は何をしてたっけ。

 確か集落のムカつく奴を肥溜めに叩き落としたら、滅茶苦茶叱られたっけかなぁ……。



「お食事とご宿泊どちらも!!」


 メグよ。なぜお前はそこでそんなにドヤ顔になれるのだ。


「ええっと、まずお部屋は空いていますか? 出来ればそれぞれ個室を希望したいのですが……」


「申し訳ありません。あいにく個室は一部屋しかご用意できなくて……相部屋ならすぐにご用意できますよ」


「ならば、その個室は私が使わせてもらおう。メグとユズリは相部屋を使え」


 私ぐらいの高貴な生まれになると、相部屋なんてとんでもない。二人はせいぜい相部屋がお似合いだ。


「ちょっと待って下さいテルアイラさん! お願いだから、私とメグさんを二人にしないで下さいよう!!」


 ユズリが泣きそうな顔でしがみついてくる。

 そんな顔をしても個室は譲れないからな。


「そんなのは知らん。ユズリは仲良くメグと一緒に寝ろよ」


「嫌ですよう! どれだけ私が被害に遭ってるのか知ってるでしょ!?」


 必死にしがみついてくるのだが、私の腕にいちいちユズリの胸が当たるのがイラっとする。

 なんですかね。巨乳アピールですかね。このおっぱい星人め!


「それじゃ三人相部屋でお願いね。取り敢えず一週間分でお金はこれで足りる?」


 は? 三人相部屋だって……?


「おいこらメグお前! 何を勝手に決めてるんだよ! 私はお前と同室だなんて許さないぞ!!」


「テルアイラさん、我慢してください。私だってメグさんと同室は本当に嫌なんですからね!」


 嫌がってる割には安堵の表情だな。

 被害に遭う確率が下がった事で、安心しやがったなこいつ……。


「本当に相部屋で大丈夫ですか? それにしても、何でそんなにお仲間で相部屋が嫌なんですか?」


 看板娘が不思議そうな顔で小首をかしげる。

 こればかりは、当事者にならないと分からない事なのだ。


「全然記憶が無いんだけどさ、私って寝ぼけていると時々近くにいる女の子を襲っちゃうらしいんだよね。……性的に」


 いきなりとんでもない発言をするメグから、引きつった笑顔の看板娘が距離を取った。

 うん。普通はそうだよな。

 だけどそういうのが差別だと叩かれかねないご時世なので、あからさまに態度に出してはいけないぞ。


「起きている時はそんな事は無いから大丈夫だよ? そもそも私はノーマルだからね」


 メグが優しく微笑んで『怖くないよ〜』と看板娘においでおいでと手招きをしている。

 そんなカミングアウトして素直に寄って来る奴がいるか。


「あの顔に最初はみんな騙されるんですよね……思い出すだけで恐ろしいです」


 ユズリが見た目より大きな胸を隠すように腕を身体の前で組む。

 私が同じ事をしても、ただの腕組だ。こんちくしょうめ。



「被害に遭うのは、お前が一番多かったからな。素直に同情するよ」


「あの、それならばこちらの方に個室を使ってもらって、お二人が相部屋というのはどうでしょうか?」


 ん? メグが個室になるのか?

 考え様によっては、これでいいんじゃないのか?


「良い提案だ! 何故今まで思いつかなかったんだろうと思うぐらいだな」


「そうですね。それなら私達も安心できますね」


 これで私達の平穏は守られる……はずだった。


「私は嫌だよ。だって寂しいじゃん」


 そんなの知らねえよ。

 悲しいかな、結局私達は三人同室となってしまった。



「……あれれ? このお金って、西方銀貨じゃないですか!?」


 突然、看板娘が声を上げる。

 精巧な図柄が刻印された銀貨を手にして、まじまじと見ている。

 西方銀貨は、こっちの国で流通している銀貨より銀の純度が高く、三割増しぐらいの価値がある銀貨なのだ。


「お客さん達って、西方からやってきたんですか? ……失礼しました。私はこの宿の主人の娘でレンファと申します」


 レンファと名乗った看板娘が襟を正して挨拶をする。

 まだ若いのに意外と礼儀正しい子じゃないか。

 私がこの子ぐらいの年齢の時は何してたかなぁ。

 確か集落の塀に『テルアイラ参上』って大きく落書きして滅茶苦茶叱られたっけかなぁ。


「そうだよ。私達は西の城塞都市から国境を越えてこの王都まで旅をしてきたんだ。凄いでしょ?」


 またメグはどうでもいい事でドヤ顔してるな。

 何でいつもこいつは自信満々なんだろうな。


「このアホっぽい猫耳がメグ、こっちのけしからん胸がユズリ、そしてこの絶世の美女が私、テルアイラだ。よろしく頼むぞレンファ」


 名乗られたからには、こちらも名乗るのが礼儀ってやつだな。


「ちょっと! けしからん胸って何ですか! それに自分で絶世の美女とか言ってて恥ずかしくないんですか!?」


「美しいものに美しいと言って何が悪い? このおっぱい星人め」


「……お、おっぱい星人って何なんですか!? セクハラですよ!!」


「セクハラだって? お前は存在自体が環境型セクハラじゃないか」


「何ですって!! 自分の胸が小さいから僻むなんて最低です!!」


「何だとう!! やるか!? 表に出ろ!!」


「望む所です!!」


「そんな事より早く食事にしようよ〜。私、超お腹空いてるんだけど……」


 こうして、早々にレンファから呆れられた私達の王都での初日は過ぎて行ったのだった。

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