まさかこんなことになるなんて誰が想像できますか?(考えよう、探してみよう、作ってみよう⑱)
口説いている・・・口説いていると言ったかこのオニイサン。
その言葉を理解し、思わずポカンと口を開けて呆然と見つめる。
齢4歳児に口説く・・・青年の上から下までゆっくりと見た後、ティエリスはある言葉が頭の中を過った。
こいつ・・・やべぇ奴や。
ど、どどうする?!取り敢えず変に刺激しない方が良いのでは?!
頭の中では【変態っ!幼女趣味の男を刺激させない方法。】を模索しながら愛想笑いを向ける。
すると相手は無表情だった顔をまたニヤリと笑みを浮かべた。
「このまま連れ出してしまおうか・・・。」
「は?あの・・・試験を受けていたのでは?」
待て待てまだ若いのに犯罪者になったらダメだろう。早まってはいけないぞ!
慌ててなんとか踏みとどまってもらうように私は口を開く。
「試験を途中で投げ出すのはいけませんし、あった瞬間に相手をどこかへ連れだしたいと思うほどの愛がこんな瞬間に生まれるわけないです。せいぜい愛玩動物程度の愛でどこかへ連れ出そうとするのはどうかお考え直し下さい。私には家族がいますからここを離れたくありませんし。」
「ふむ・・・愛玩動物というわけではない、が・・・・信用を得るには早計か。」
ぽつりと零した言葉に思わず反応してこめかみがピクリと動いた。
勿論この青年の横暴さにイラっとした為である。
早計も何も幼児を連れだすのは駄目だろうがっ!イケメンだから目を瞑ってもらえてたんだろうか?!
思考が危ない奴なのにイケメン狡いな!イケメンじゃないとは思わない・・・思わないが!私はお父様の方がイケメンだと思うけどね!!
「では・・・こうしようか。」
などと思っていると名案だというような嬉々とした声が聞こえた。
「俺はお前を連れて帰りたい。でもお前は嫌だという。なら1つゲームをしよう。」
「・・・どのような?」
「俺が驚いたら負けというゲームだ、チャンスは3回。1回でも驚くことがあればお前の勝ちだ。
俺が勝てばお前をここから連れていく。お前が勝てば今回は大人しく引き下がろう。」
「ん~・・・不公平。」
「何?」
不服を申し立てた声に微笑んでいた顔が眉間に皺が寄る。
「だって、今回はということは、その次もあるかもしれないという事ではないですか。それなら2度と現れないという勝利報酬をお願いいたします。」
「それは断る。」
透かさず不機嫌に言い返された。
「なぜです?」
「何故だと?当たり前だ。欲しいと思っている女に対して2度と触れられないどころか逢えないようにするなんて、残酷だろう。」
「う、う~ん・・・でも。」
「もう少し条件を緩めろ、それなら聞いてやる。それとも何か?ゲームなどやめて連れて行く方がいいか?」
ギロリと睨まれて私は言葉を詰まらせる。
確かに、彼はここへ侵入出来た事を鑑みてかなり凄いのだろう。
物音一つすらたてず、誰にも知られることなくここを出ていくことなど造作もないことは容易に想像できた。
お父様、確かに凄腕な方のようですが従者というよりは暗殺者スキルが凄そうですよ?
一体こんな人何処で見つけてきたんです?ギリアもそうだし王都・・・王都なのか?・・・都会って暗殺スキル持ちの従者が必須なほど物騒なの?
何時か赴くことがあるであろう王都に身を震わせつつティリエスは考える。
確かに2度と・・・は可哀想・・・ん?でも私だって連れて行ったらそれこそ2度と両親に逢わせてくれないんじゃ?だとしたら条件一緒じゃね??
でもこれ以上突けばもっと機嫌を損ねると思うし・・・よし。
「それでしたら、私が勝てば連れていくことを辞め正攻法で私の心を射止めて下さい。」
「正攻法・・・それはどういうことだ?」
よし、食いついた!
「貴方は確かに外見も良くとても優秀な方とお見えます。ですが、私は・・・私が夫として選ぶ条件をあげるなら、私の気持ちも当然ながらまずは両親が私を幸せにしてくれると信じられる職に就き誠意をもって両親に向き合って私と共に歩むことを伝える男性が望ましいですわ。」
「職・・・稼ぎが良くても駄目だというのか。」
「私は公爵令嬢です。私の家は他の貴族に比べ確かに恋愛結婚も認められています・・・ですがだからといってそうそうお気持ちだけで動くことはかないません。真っ当な職で素性の知れた方でないと父も首を縦に振ることはありませんし母も心配します。育ててくれた両親に顔向けできない男性の元へ行くのは私も嫌ですし、それに今貴方は試験中だと言いましたね?ということは職を探している真っ最中ということ。試験を放棄してふらふらされ収入不安定な貴方に残念ながら私の心は動きません。将来増えるかもしれない家族の為にもある程度稼いでもらわねば不安ですわ。」
黙った彼に更に畳みかけるように話しを続ける。
「私の信頼が欲しいというのであれば、まずはそこの筋を通すのが男、なのではありませんか?」
まぁそんな事言うと前世の両親の事を悪く言っているようで心苦しくなるし、駆け落ちでしか結ばれない恋だってあるとは理解している部分がある。
あくまで私の理想だ。それにあながち間違いでもない、私の今の肩書は公爵令嬢なのだ。ただの村娘を連れていくのとはわけが違うのだ。
「分かった。」
数秒の静寂の後に彼は一言そう言い、私は瞬いた。
「お前の気持ちも理解した。連れて帰るのもゲームもやめよう。」
突然の申し出に驚く。
「なんだ?してほしかったのか?」
「いえ・・・そういうわけでは・・・でも、どうして?」
「・・・さぁな。ただの気まぐれだ。」
先程とは打って変わり不機嫌もなりを潜め大人しくなった彼を見て、なんだか不貞腐れているように見えた。
取り敢えず、私の言い分を尊重してくれる姿勢だから傲慢な人ではないらしい。
なんだか・・・どっと疲れた・・・あ。
急に訪れた疲労感に私はある物を思い出す。
枕の下で空間収納を開きそれを取り出して、目の前の青年にそれを見せた。
「なんだそれは?」
「これは私が食べようと思っていた物です。」
そう言って上の蓋をポンっと開けるとオニイサンにそれを傾ける。
「手をこちらに。」
言われるまま彼は手の平を向けると私はそこに1つころりと落とす。
そこには漆黒の飴が転がっていた。
「後で歯を磨かないといけないんですけど疲れた時に良いですよ。」
「・・・・・・・。」
しげしげとそれを摘まんでみている彼にそう言って私も1つ口の中へ放り込む。
頬を片方だけ膨らませ、コロコロ転がすように舐めていると彼もそれに習って口の中へ放り込む。
「・・・・・・っ!!」
途端驚いた顔になり心なしか瞳もきらりと輝いたように見える。
どうやらお気に召したようだ。
「実はこれまだ誰も食べたことはないので一番乗りなんですよ。」
コロコロと転がしながら堪能する彼にそう言うと彼はじっとこちらを見つめた。
「俺が初めてだと?」
「はい、そうですね。」
「・・・・・。」
そこで何を思ったのかだんまりになった彼に首を傾げる。
と、またニヤリと笑った。
もしかして1番乗りが嬉しかったのかな?優越感みたいな。
と、急に彼が立ち上がるので私は見上げる。
彼はスッと私に指さす。
指さした先は私が両手で抱えるように持った飴の入った入れ物だった。
「これをくれるか?」
「え?う~ん・・・。」
また試作段階とはいえこれを他の人に見られるとちょっと困るなぁ・・・。
どう返答すべきかあぐねいていると、彼の表情が曇っていくのが見えた。
「・・・くれないのか?」
「うっ・・・。」
先程とは打って変わりしおらしくお願いされ、言葉が詰まる。
まぁ、夜中の妙なテンションに疲れてつい取り出した私の非でもあるから・・・よし。
私は瓶の蓋をし、ずいっと彼の前に差し出した。
「貴方にあげます。けどこれはまだ世に出したくないものなので他の人には内密にしてもらえますか?
それを守ってくれるなら構いません。」
「・・・わかった、約束を守ろう。」
じっと見つめた瞳に嘘はないようなので私は笑って彼に渡す。
受け取ると、彼は大事そうにそれを抱え持つと初めて柔らかく微笑み、不覚にも胸がときめいたのだった。
「ま、まぁ・・・試験頑張って・・・あれ?」
恥ずかしくなって視線を外してまた彼の方を見やると、そこに彼は既に居なかったのだった。
いつも読んでいただきありがとうございます。




