まさかこんなことになるなんて誰が想像できますか?(考えよう、探してみよう、作ってみよう⑰)
目の前の人間の存在に驚いたティリエスは咄嗟に部屋に施してある魔法の痕跡を探る。
部屋の防衛魔法の作動はない。
危険信号の魔法の発動の痕跡もないし、破壊されてもいない。
この2つの魔法はその名の通り護る対象者、つまり私に危険や殺意を向けられた場合発動される魔法で、私の周りに防護魔法が展開され発動された場合は周りに配置している護衛騎士に知らせる事になる。
発動されていないという事は命の危険は取り敢えず無い。
無いのだが・・・何故私は知らないオニイサンに跨られているのでしょうか?
危機的な状況ではないというのは解るのだが、今の状況によく分かっていないティリエスはただただジッと目の前の青年を見つめる。
青年は青年でただただ群青色の瞳で私をジィっと見つめるだけで微動だにしない。
かなりのクールビューティーなイケメンですが、記憶を巡らしても聖戦のメンバーにこんな人はいない・・・となると?
「・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・あの、1つお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「・・・なんだ?」
おっと、イケメンは声までなんでこう無駄にセクシーなんだ・・・それは取り敢えず置いといて。
今一番聞きたい事を聞くため緊張の為ごくりと唾を飲み込んだ後、恐る恐る口を開いた。
「・・・貴方に足はありますか?」
幽霊だったら嫌なんです。
「ふふふ・・・どうだ?きちんと足はあるだろう?」
質問した途端青年は何がツボだったのか分からないがくつくつと笑った後、私の上から退くと素直に靴を脱いで生身の人間という証明で足を見せてきた。
白い足にを見て私は思わず過った不安が杞憂だったことにほっとして息を吐くと新たに座り直してその青年に顔を向ける。
来ているシャツからでも分かる引き締まった体躯に足を見た時から思っていた白磁のようなきめ細かい肌、そして艶やかな髪に美しい中性の美しい顔でありながら彼の周りには男の蠱惑的な魅力が滲みだしている。
アイルお兄様といい、シナウスといい・・・なぁんでこう、部屋に入ってくる男どもはこうもイケメンを連れてくるのっ!!
この部屋イケメンホイホイか!!
心の中で大きく声を大にして叫ぶように吐露する。
青年は少し不思議そうにして私の髪をいじり始める。
おい、いくら子供だからといってレディの髪を無遠慮に触るのはNGやぞオニイサン。
「不思議だな、寝室で知らない男を前にすれば大方の人間は取り乱し敵意を露わにする。だが・・・君は違うようだが・・・なぜだ?」
「・・・え?オニイサン悪い人なの?」
ついぽろりと言葉が転げ落ちる。
身なりからして泥棒というわけでもない部屋の防衛魔法の発動がないし、それ以前にこの人から敵意や嫌悪、負の感情といったものを全く感じないのでこうして対話していたのだが違ったのだろうか。
私の放ったその言葉に、今度は彼が目を見開き私の髪を弄っていた手を止め考えるような仕草をする。
何か私の言った言葉が引っ掛かったのだろうか?
「・・・いいや?まだどうこうする気はさらさらないな?」
するとニヤリと笑みを浮かべてこう返される。
恐らくその言葉に嘘偽りはないと思う・・・思うが。
だが、なんだろう?どうも時と場合によっては全く真逆の答えが返って来そうな気がする・・・なんていうかあの笑い方胡散臭い。
「そう言えば、どうしてここにやって来たのでしょうか?」
「・・・恐らく、それが一番確認すべきことだと思うが・・・ふふふ、今思い出すように言うとは。勇敢、又は何か問題ないという確認がとれているのか・・・それともただの危機管理能力がない無知な子供なのか、お前はよく分からない子だな。」
くすくすと笑いながらまた彼は機嫌よく私の髪を弄り始めながら歌うようにそう言うと、ニィッとこちらを見て笑う。
「ここには仕事で来ていてな。どうやら業を煮やした雇い主が俺を試すと言い出してな。」
「試す?」
「ああそうだ。所謂試験、ということらしい。」
成程?試験で夜中な時間にここに来たと。なんだ?夜間勤務もある仕事か?・・・あ、試験てもしかして?
ある事を思い出し、ティリエスは胸の前で軽くポンっと手を叩いた。
「もしかして、オニイサン従者の試験を受けているの?」
「・・・・・・・従者。」
あれ?やっぱり違った?
数秒の沈黙にティリエスは読みが外れたと理解して更に質問を投げかけようとしたその時、今度はニヤリと笑ったまま青年がゆったりと口を開いた。
「ほぅ・・・誰がその事を?」
お?もしや当たりか?マジで?
「えっと・・・私の従者が一度決まったんですが残念なことに解雇されてしまいまして。今再度従者の方を決めているとお父様がおっしゃっていたんです。でも、お父様も忙しいので中々決まらないそうで・・・とうとうこのような夜更けに試験をされたのかとそう思ったのですが。」
イヤでも待てよ?
もしこれが従者を決める試験ということならこんな夜更けに試験てお父様、少々といわずかなり横暴なのではないのか?
いくら早く見つけたいからって従者候補者の人に無茶させすぎだと思うわ~。
ブラック企業だと思われちゃうじゃん!屋敷のお仕事本当はホワイトなのよ!だってきちんと交代制のお休み制度3食のお食事、お仕事中の休憩に里帰りの長期休みだって設けているんですから!
こんな横暴な試験させられてこのオニイサンが文句言っても可笑しくないんだよ!
「成程・・・従者か・・・。」
「ん?何かおっしゃいましたか?」
何かを呟いた青年の声が耳を拾ったが聞き取れず聞き返したが、彼は首を横に振って何でもないといってまた髪の毛を弄る。
イヤだから、オニイサンレディの髪弄りすぎだよ。
というか雇用主の娘にする所業ではないんじゃないかい?
「あのオニイサン、レディの髪をあまりこのように触ってはいけませんよ?」
「そうなのか?」
おっとー、まさかのマナーを知らなかったというのか!
・・・マジか、駄目だよオニイサンその辺ちゃんとしとかないと数多の女性の涙を流してしまうじゃん。
思わず半眼で彼を見つめていると青年は特に慌てる様子もなく未だに髪を触る。
「俺が触るのは気に入らないか?」
「いやあの、気に入る気に入らない以前に初対面の異性にするのはあまり感心しません。私は子供ですから良いですけど、年頃の女性には普通ならいけません。」
「そうか・・・まぁ、正直耳障りな女は嫌いだ、・・・誰彼構わずするわけではないんだがな。」
まった嘘くさい事を。なんかこう1日に何人も引っかけてそうな雰囲気醸し出しているのに、正直信じられん。
心の中でティリエスはそう呟きながら小さくため息をする。
「だがそうか・・・お前は嫌悪を抱かないんだな。」
・・・・ん?
その言葉に何処か含みを感じ頭を上げて彼を見つめると、どこか何かを理解したような青年は益々笑みを深めてこちらをじぃっと見つめてきた。
「・・・いいなぁ、お前が・・・俄然、欲しくなった。」
「ん?」
彼が言葉にした瞬間、どろりとした何かが身体に纏わりついたような感覚にティリエスは無意識に両腕を交差し腕を擦った。
・・・なんだろう?寒気?
先程と変った周りの空気に首を傾げながらも、彼の言葉に私は口を開いた。
「欲しいって、まるで女性を口説くような言い方ですね?」
「・・・・・・。」
笑ってそう言うと彼は急に顔を真顔にした。
すぐに変化した表情に「やべ。」と小さく声を出し先ほどの言葉が失言だったことを理解し、胸にひやりとしたものがするりと滑り落ちる。
4歳時に → 4歳児を 口説いている、なんてまぁありえないことを笑いながら言った言葉でどうやら機嫌が悪くなったようだ。
イケメンの真顔はやはり怖いぐらいの迫力がある、今のうちに謝るべきだろう。
と、考えていたら顎に指を添えられ顔を上げさせられた・・・所謂、顎くいであった。
え?と思った瞬間にはズイッと青年の顔が目の前にあったので思わず固まっていると、彼は一連の動作と打って代わってゆったりと口を開いた。
「口説いている・・・正しくその通りだが?」
「・・・え?」
その言葉に頭がフリーズした。
いつも読んでいただきありがとうございます。
裏設定:今回はここには実はこんな意味がありました編を3つほど。
前回の話しで夢の中で彼女の着ていた白いワンピースの意味→夢占いでは恋愛の訪れという意味
白い(銀)の狼→これも夢占いでは狼は危険が訪れる兆候。けれど白い(今回は銀色と表現)狼はトラブル発生した際助けてくれる人が現れるというトラブルが起こるが助かる・回避できるという吉夢の意味があります。
最期に青年がティエリスの髪を弄っていた理由→ただ単に彼女の気を引きたい男心。(ルル村から彼ロックオンしてました、逃げて主人公!)