まさかこんなことになるなんて誰が想像できますか?(大好きな皆に恩返ししよう、そうしよう。㊱)
ニーズヘッグの基本攻撃は口から吐く火球、毒の霧、そして最初にみせた光線で後は物理攻撃を行う。
魔法攻撃だろうが物理攻撃に変わろうが1つ1つの攻撃が致死確実なので気が抜けない。
姉様とニーズヘッグの戦いは始まるとこの辺り一帯には炎が包まれることとなるが、僕達は魔法壁に護られ熱波を感じることはなかった。
姉様に炎の球を当てようとするニーズヘッグの攻撃に彼女はひらりひらりとギリギリ避けては両手にある杖を相手に向けては魔法攻撃をタイミングよく放っては相手にダメージを負わす。
当たらないことに敵はだんだんイラついているようで遊びで蹂躙するつもりだった表情は既に見られずその表情には怒りの顔しか見られない。
そんな相手には目もくれず彼女はいつものように微笑んだまま的確に攻撃をし、そして相手の間合いをとり自分のダメージは最小限に抑える。
最初こそはらはらと見ていた彼らだったがだんだんと彼女の1つ1つの動きに対し無駄な動きのない戦い方に誰もが釘付けになっていった。
『羨ましいな。』
強敵を相手に怯まないその戦いを見ていた王はぽつりと言葉を漏らす。
近くに居たシナウスは王を見つめた。
『余は未だ幼子の身、戦いに出ることもままならない。対して姉上殿は勇んで戦う事が出来る力も能力も・・・そして敗れたところで死んでも彼女だけはそのまま生き返ることが出来る。痛みのない肉体故にこのように戦える姉上殿は余たちには到底できないこと。それがもしそんなことが初めからできていればと・・・羨ましくもあり不公平にも思ってしまう。』
『王・・・。』
総督は何も言えずに口を噤む。
どうしてそんなことも言ったのか、王の言葉に彼が何を想っているのかシナウスは理解する。
王の声に耳を傾け共感し戦ったこの戦争で、多くの仲間を死なせ、最愛の家族を死なせ、そしてこの箱庭では多くの時間を費やし、費やしても好転せずそれどころか死以上の苦痛や恐怖を味わわせてしまった事に。
彼はずっと悔やんで誰にもその内に思っていたそれをずっと言わなかった・・・いや、言えなかった。だけど彼女の強く勇ましく戦う姿に嫉妬に似た羨望がずっと心に留めていた王の苦悩を吐露させた。
シナウスはそんな王を見つめていたが、王の言葉を聞いて思ったことを言う為口を開く。
『いいえ王、僕は寧ろ今では痛みがあってよかったとそう思います。』
ゆるゆるとシナウスに顔を向けた王に続けてシナウスは口を開く。
『僕達が痛みがなく何度もこの戦いに挑める肉体であってもきっとただ時間だけが過ぎ本来の肉体も戻れずいずれは疲弊し、あのように戦う姉様みたいになることは出来なかったでしょう。ビエネケス王、僕達は何もできませんでした、けれど今は姉様という救世主に出会うために繋がったこの奇跡と今まで自分達が行った過去に無意味ではなく・・・意味を持ちませんか?』
多くの仲間や家族が死んだ悲しみも
自分達が子供にされ力を失った絶望も
何度も負う事になった痛みも
全てはただ平穏な世を望み、何よりただただ生きたいと望んだからだ。
死も想いも願いも僕達や先へ逝ってしまった者らが繋ぎ今までを積んできた結果今ここでこうしているのだ。
それをなかったことにして別のタラレバを思うという事は、こうして僕達を生かして先へ繋いでくれた仲間の行為に対して冒涜にも等しい行為だ。
『王、僕達は過去をやり直すことも忘れることもできません。けれど、一緒に前は見れます。姉様のお陰でまだ頑張れます。だから、今までの事に嘆かないでください。あと忘れないでください、僕達は僕達の意思でここに集まったんです。王がすべて背負う事ではありません。』
『ギャアァォォォォォッ!!!』
ドラゴンの咆哮に変化が生じ誰もがはっとして前を見つめる、そこには胸元にぱっくりと大きな傷を負ったニーズヘッグの姿があった。
ドロリと腐ったような臭いのする血が辺りに充満するが、誰もがそんな些細な事を気にせず驚愕する。
あのニーズヘッグをたった1人で!!!!
『おっしゃ、これでラスト!』
そう言って彼女は右手に納まる小ぶりな黄金の懐中時計を手に取るとその手で時計を握りしめ破壊した。
ぱりんっという音と共に彼女の頭上に出てきたのはドラゴンの頭上をすっぽり覆うほどの大きな魔法陣。
初めての見る魔法陣に誰もが息をのむ。
肌だけでもそれが大きな威力のある代物だと解る、ニーズヘッグ自身も危険を感じたのか悪あがきな攻撃を繰り広げる。踊るのを辞めた彼女に攻撃をする・・・けれど、彼女はその攻撃を腕で受け止める。
両手の装飾されている鏡がどんな魔法攻撃を吸収し、物理攻撃は彼女にダメージを与えることはなくはじかれてしまう。単調になった敵の攻撃にそれらの攻撃をものともしない、もう勝負は決まったようなものだった。
姉様の勝ちだ。
『チートな私にひれ伏せ、トカゲっ!!宇宙の爆発!!』
その言葉の直後ニーズヘッグの初めに見せた攻撃とは比べ物にならない衝撃波と光が現れる。その光に2度目の咄嗟な目を瞑った僕達はその場で蹲り暫くして次を見た時には、ニーズヘッグがその場にいた場所には大きな空洞が現れ、そして今まで存在していたドラゴンはその場に消失していた。
『うぇーい、完全勝利ぃ。流石課金アイテム!』
『早いわね。え?開始して20分ぐらいじゃん。』
姉様たちの声の後に、いつもの終了の鐘が鳴る。つまり今日のイベントはこれで終了したということだ。
『今日はこれにて終了。お腹減ったー、上手いご飯が食べれますぜ。』
『はい注文しておいた肉料理、今日は私の奢りよ。』
『マジか・・・なんと神!』
相変わらず軽口を叩きながら姉様の存在が遠のくといつもの休む時に使う姉様の自室へ行ったのだろう、器も拠点の中へ戻っていった。
その場に残された僕達はただ天災同等な戦いを間近に見て体が震えていた。
あんな戦いをもう間近で見たくないという恐怖も勿論あるが何より、勝てたことにより興奮の方が大きかった。
誰も何も言えずにいる・・・途端、ふわりと1つの光が自分達の頭上に舞い降りた。
『な、なんだこの光・・・?』
誰かが言った、それを皮切りにたくさんの光が自分達の周りにふわふわと舞い踊る。
魔物を倒すと霧散して終わるだけだが、光が舞い散る今回のような現象は初めてだった。
『あ、あぁ!』
『王ッ!!』
と、ふわふわと漂っていた光が急に吸い寄せられるように王の周りにその沢山の光が纏わりつく。付着した光を払おうと誰もが手を伸ばすが先に彼の姿を舞っていた光が埋め尽くすのが早く一度強く発光した。
光がおさまるとそこに現れたのはかつての威厳が溢れる王がそこに居た。
『王の姿が元に!』
『余の身体が元に・・・戻った?』
王の以前の姿に、誰もがその姿に喜びが沸き上がる。
と今度は少し離れた場所、ある一ヶ所にまた沢山の光が集まり始める。大きく膨らんだその光がまた強く発光して実のようにポンっと光がはじくと、見ればそこから多くの人間が倒れたまま現れた。
誰もが呆然としていたが、王がその人だかりを見て驚愕で目を見開くとダッと駆け出した。
制止しようとする自分達に構わず王は倒れている人達、一番真正面にいる人物を迷うことなく抱きかかえた。
『ヘルメネ!!』
そこにはぐったりとしている女性、ビエネケス王の妻ヘルメネ王妃が横たわっていた。
いつも読んで頂きありがとうございます。
裏設定:今回ドラゴンを敵にした理由は勿論絶対な力の権化としてイメージできたのもありますが、実は西洋と東洋でのドラゴン又は龍の扱いが全く違います。神話でよく出てくるんですが東洋だと吉兆や神の化身、守護する獣という神々しいイメージですが、西洋だとその逆で悪魔の近しい存在、天災な化け物として扱われているので全く正反対のイメージです。西洋ファンタジーで強い敵の魔物としてドラゴンにされるのはそのせいかな?なんて書いてて思ったりしてました。