私が3年間領地から出られないつまり出禁状態だったあれやこれやそれ。(第一村人達候補はどう考えても訳ありです⑲)
いつも読んでいただきありがとうございます。次回は5/19(月)投稿予定です。
「と、とにかくエルアル様、そろそろ起きませんか?お昼前ですしこうしていても埒があきませんし。何かお飲み物持ってきますね!」
ティキも彼のただならぬ様子に何かを感じ取ったのか、努めて明るくそう言って一旦部屋を出ていく。
その間にもなんとも言えない空気の中取り残された残りのメンバーは黙りエルアルは何かぶつぶつ言っている。
断片的にではあるが、自分は才能ないアホ人間、みたいな事を言っているのが聞こえる。
・・・よっぽど今回の出来が気に入らないんだろうな。
「でもさ、こんな見た目が本物に近い作り物の手なんてそうそう作れないって!エルアルすげぇじゃん!何をそんなに落ち込んでんだよ?」
いや、あんたさっきしょぼい付与みたいな事言ってたよね?
あまりの沈黙の重さに耐えかねてか、さっきとは打って変わり彼の作り出した物に対して良いところを伝えるグリップに思わずジト目になったが、それよりもエルアルが義足を徐に装着し、のそりとソファから降りてこっちにやってきたのでエルアルの方を見た。
エルアルは何を思ったのか机の上にある義手を一つ手に取りジッと見つめる。
魔石を外すと不自然に窪んだ手の甲の穴をそっと撫でる。
「上手くいくと思ってたんだよ・・・でも、やっぱりディオス様のようには、あの人みたいに天才な発想はできない。」
「エルアル卿・・・。」
「あの人を超えるのは正直無理だしそんな事思ったこともないけどさ。あの人の元で磨いてきた技術を上手く作り出せていない自分に腹立つわけ。・・・はぁ、やっぱり俺1人じゃ無理ってことなんだろうな。」
いかん、ナーバス状態。どうにかして気力をあげないと。
体格の良い背中が丸くなっている姿にティリエスは本気でどうにかしないといけないのではと思っていた・・・その時だった。
「へぇ?じゃぁ分かってるんだったら次すれば良いじゃん。」
またもやそこでグリップの場違いな言葉が飛び出し誰もがグリップを見る。
それはエルアルも同様だった。
「は?」
「いや、だから。1人では無理で、この義手に通しての付与効果もイマイチって分かったんだろ?なら次を考えれば良いんじゃねぇの?」
「そんなあっけらかんに・・・いや。」
言われた事に一瞬だけイラついたエルアルだったが、グリップの言葉に何か思う事があったのか言葉を止める。
「言われてみれば、そうかもしれない。」
お、ちょっと気力が上がった?
先ほどのどんよりとした空気がそこにはない事に気がつきティリエスは成り行きを見守る。
エルアルの呟きにグリップが同意する。
「だろ?それに1人じゃ分からなかったら誰かに聞けば良いじゃん。なんか良いアイデアあるかもしれないし。」
「そうですよエルアル卿。貴方1人で抱え込む必要はありませんよ?」
グリップの後にシナウスも同意する。それを聞いてか、それとも思い立ったのか彼の表情には先ほどの情けない表情はなくいつもの表情になっていた。
「だよな・・・なんか忙しかったせいか、通常運転ができてなかったな・・・俺。悪い、もう大丈夫だ。」
立ち直ったエルアルはバツが悪そうな顔をして頭を乱暴にかく。
「でも本当にこれ、どうすっかなぁ・・・認識阻害魔法の付与がどうしてもできねぇんだよ。」
うーん魔法付与か・・・確かに属性付与ならともかく義手にかけても・・・あ。
「一つ思ったんですけど。」
ティリエスは義手から取り出した魔石を摘むと自分の耳にそれをあてる。
「ここに顔の近くの肌に触れることで魔法付与効果っていけません?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
誰もがジッとティリエスに注目し、当事者であるエルアルはジッと固まったままティリエスを見つめそしてティリエスの方へふらりと歩き彼女の顔をそのままぐわしと掴んだ。
思ったよりも強い力にティリエスは驚いたまま上を向かされた。
「ふべっ!」
「これだ!これだよ!お前やっぱ冴えてんな!」
・・・お前やっぱ私の事公爵家の人間って忘れてるだろう?
解決策を見つけ無邪気に笑うエルアルに対しティリエスは死んだ目でジッと彼を見つめた。
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