私が3年間領地から出られないつまり出禁状態だったあれやこれやそれ。(何故彼らがここにいるのか順を追って説明しよう!)
いつも読んでいただきありがとうございます。今回から新章の始まりです。次回は1/15(水)投稿予定です。
レイア歴1016年7月、その日の気候は普段より暑い日であった。
「ーーーで。結論から言うと何じゃ?」
大きな声でもなく、ただなんとなく言ったという体で声をかけられた男は背中にヒヤリとしたものを感じる。
とある国での会議、中央にいる女性以外大の男達一同は内心恐怖で震える身体を押し殺し会議の椅子へ座っていた。その中の1人であるこの国の宰相である彼は、己に声をかけてきたこの国の皇妃の顔色を窺う。
つまらなそうに己の顔を手鏡で見ている王妃の表情を見るに、怒りの表情はない。
その事に心の奥底で安堵しながらも、宰相は皇妃の問いかけに思案する。
「恐れながら、奴隷である契約労働者の脱走者が多く少々魔石の発掘に遅れが生じている模様です。」
「へぇ?・・・じゃぁ何か?妾の欲しい魔石を我慢せよと言うのか?」
「い、いえ!そういうわけではっ!」
焦ったように宰相は彼女の言葉に首を横に振る。
「ど、奴隷だった労働者を捕まえて拷問をしております。見せしめにすれば逃げようという気は起きないかと。」
「ふーん、随分とこの国も生ぬるくなったのぉ。」
その言葉に心臓の音が大きくなる。宰相は思わず胸を押さえそうになったが、なんとか堪えて頭を下げる。
「も、申し訳ございません!ですが、人員を増やし必ず期日までに魔石は掘り起こさせます!」
「・・・そうか、そうか!其方に言っておけば大丈夫じゃろう。」
王妃はそう言って椅子から立ち上がると、一斉に彼らも即座に椅子から立ち頭を深々下げる。
「では頼むぞ!病で伏せっておる皇帝も其方の働きに満足するじゃろう。」
そう言って彼女はその場から出ていく。彼女が会議室から出て数秒たった今でも宰相は頭を下げたまま苦しげに顔を歪ませる。
このままでは帝国はーーー。
皇妃である彼女を誰1人逆らえない。頼みであった皇帝は随分前から病床であり、皇子はまだ幼く発言権も無い。今現在皇紀である彼女を止められる者はいない。
皇紀の命令に反対し進言した有能な者達は皆奴隷として身を落とされ強制労働を強いられ、何人かは脱走して消息不明となり何人かは亡くなったという報告を見た。
皇帝が右腕として置いていた平民上がりだった将軍も奴隷となり今は消息不明・・・いくら彼でも生きてはいないだろう。逃げた奴隷達はここ1、2年過酷な魔石発掘の現場から逃げている。
皇妃にはあぁ言ったが、見せしめに捕まえたところで殆ど虫の息だ。死ぬ確率の方が高い、それでも彼らは逃げようとする。
奴隷達も生きるか死ぬかという過酷な中で選択し脱走を試みている。それだけそこが地獄だということ。逃げていない奴隷は殆ど逃げる気力のない遅かれ早かれ死ぬ者ばかりだ。そんな者達に見せしめをした所で彼らは逃げることはない。
次々と友がいなくなり彼らのためにもと、宰相は自分はまだここにいなければと心に誓う。
まだ、帝国は表面上平和に見えるが、宰相という地位に就いている自分は後数年で帝国は大きく傾くことを分かっている。それまでになんとかこの状況を変えるように努めなければ、せめて予定よりも長く帝国を維持しなければ。
「宰相・・・どうなされるおつもりで。」
隣にいた貴族が戸惑いがちに声をかける。
とにかく、どうにかして魔石を掘る労働者を集めなければ。
「納税を怠った市民は即座に奴隷階級へ落とし、強制労働をさせる。」
「そ、それはあまりにも!」
宰相の言葉に思わず反論した貴族もいたが、宰相は撤回しなかった。
「最早、滞納者達の救済処置もままならない状態だ。強制労働ではあるが魔石を掘れば滞納税は免除となると御触れを出せば問題はない。」
宰相は乾いた喉が不快に感じ隣に置いてあった水差しの水をコップに注ぎ込み一気に煽るように飲み干す。
「皇妃様の言われる量さえ掘れば大丈夫だ・・・大丈夫。」
己なのか誰に言い聞かせているのか宰相は顔を手で覆い隠しながら呟くその姿に周りの貴族達は顔色悪くしたまま見つめていた。
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