私が聖女候補なんて世も末である。(見えない神より親子の絆の方が強い所を、とくとご覧あれ㉘)
いつも読んでいただきありがとうございます。次回は12/13(金)投稿予定です。
ティリエス達の後ろ姿を見届けたあと、アドルフは後ろを振り返る。
未だうつ伏せに倒れているエルパを見下ろしているイーチャの姿があった。
アドルフは無言のままイーチャの傍へ寄り、同じくエルパを見下ろした。
まだ死ねないのか、彼女は小さく呻きながら受けた攻撃のせいか身体を震わせていた。
「・・・ウッ・・・グゥ・・・。」
「イーチャ司祭早くここから逃げましょう。ここもそう持たない。」
アドルフの言葉にイーチャは反応しなかったがエルパが動く。
ずり・・・ずり・・・と身体をそのまま僅かにだがアドルフ達の方へと前進させる。
「なぜ・・・。」
エルパは前進させながらも話しかける。
「何故・・・私を崇めない・・・どうして。」
「まだ言うか。お前のような奴をどうして崇めるんだ。」
「だって、・・・・私を・・・・作った・・・のは、・・・お前・・・達では・・・ないか。」
咳き込んだ拍子に吐血したのか顔の周りの床は赤く滲む。
最早喋る事も動くことも無理なはずなのにそれでもエルパは辞めない。
「お前・・・達が、私に、聖女・・・だと、教えた・・・では、ないか。だから・・・その、・・・役目を・・・。辛い・・・世に・・・絶望・・・しないように。」
その言葉を聞いて、イーチャの身体が震え目を閉じ何かに耐えている様を見ていたアドルフだったが、エルパに目を向け睨む。
「だからってあのような化け物を作ったと?許されるわけが無いだろうそんなこと。」
「頼・・・む。私を・・・・ここから、連れ出して・・・くれ。」
「!イーチャ司祭!」
いつの間にか前進していたエルパがイーチャの司祭服に掴めるまでの位置にまで来ていた。
エルパの掴んだ右手を見てアドルフはイーチャに離れるように言ったがイーチャは動かないままだった。
「・・・お願い・・・ここは・・・苦しいの・・・。」
顔を上げたエルパはイーチャを見上げ懇願する。
必死に懇願している表情の彼女に何を思ったのかイーチャはその場に腰を下ろし、彼女を見つめる。
イーチャの行動にエルパは左手を伸ばす。
「助けて・・・イーチャ・・・。」
「・・・あ「私の・・・お兄ちゃん」・・・。」
彼女の言葉にイーチャは言いかけた言葉を止める。
彼女は見上げていた顔のままイーチャを見つめていたが、彼が行動を止めたことで何かに気がついたのかまた口を開く。
「違うわ・・・貴方は私の旦那様・・・いえ、友人?・・・恋人だったわ。」
イーチャに向かって間柄をコロコロ変えながら話すエルパに、アドルフは思わずイーチャを見た。
「・・・そうじゃったか・・・お前は誰かの大切な人間になりすまし擦り寄っていたんじゃな・・・。」
イーチャはすくっと立ち上がるとそのままエルパから離れる。
服を掴まれていた右手もするりと抜ける。
「ま・・・待て。」
「もういいかイーチャ司祭。」
「あぁ・・・もういいんじゃ。」
その言葉を聞いて、アドルフは迷いなく剣を引き抜きエルパの前へ一歩進む。
彼女の静止させる声が出る間もなく、そのまま剣を振り下ろし彼女の首を刎ねた。
「・・・・・・・・・・・・・・。」
ぴくりと動かなくなった彼女の亡骸を見つめるイーチャに剣を一振りしたあと収めたアドルフはイーチャの元へ向かう。
「・・・・言っておきますが、貴方を見殺しはしませんよ。」
その言葉にイーチャはようやく顔を上げアドルフを見る。自分がどうするつもりなのか全てわかっている目でアドルフは自分を見ていることに気がついた。
「貴方の罪は生きて償ってください。私は娘と約束したんです貴方をおぶってここを出ていくと。それに貴方を慕っている人に、ましてや息子さんに私を見殺しの犯人にさせないでください。」
その言葉にイーチャはハッとする。そんな彼の言葉を待たずしてアドルフは周囲を見渡し、そしてさっとイーチャを背負う。
「いい加減そろそろここを出ますよ。」
それだけ言って、アドルフは振り返る事なく走り出し、そんな彼の背に押されるようにイーチャも振り返ることはせず、彼の背にしっかりしがみついた。
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