私が聖女候補なんて世も末である。(見えない神より親子の絆の方が強い所を、とくとご覧あれ④)
いつも読んでいただきありがとうございます。次回は10/14(月)投稿予定です。
「・・・天井に立派な穴が開きましたねぇ。」
「嘘だ・・・素手でまさか投げ飛ばすなんて・・・。」
呆然と見上げるマルフェにパラパラと破壊された天井から資材の欠片が落ちて来る様を見つめているオーガはこれを直すのにどれだけの費用がかかるのか頭の中で計算する。
「修繕しようとすれば随分な額になりますねぇコレ。」
ぽそりと呟いたオーガの言葉にティリエスはハッと夢から醒めたように目が冴えると、彼らと同じように穴の開いた天井を見やる。
「・・・・・・・・・・・・。」
どうしよう・・・、もしかして事が終われば弁償するのは私の家なのか?借金せっかく順調に返済できていたのにそれは困る!!
「いや、それは無いでしょう。」
バレてもいいから修復魔法でなかった事にしたいと、心の中でムンクの叫びのように叫びながらどうすればいいか考えていたティリエスの耳にマルフェの言葉が届く。
「マルフェ司祭、それは無いというのは・・・。」
「このような事実があるんだから、この教会はもう閉鎖するはずだよ。それにここは聖女候補を見極める教会として長い歴史があったけれど、残したとしてもここには誰1人と生きていないだろうからね。」
魔石の影響か、先ほどよりも腐敗していく死体達に十字を斬りながらマルフェは祈りを捧げる。
「そうですか・・・それは仕方ない事ですね。」
ラッキー!借金チャラだ!よかった払えって言われなくて!!
神妙な面持ちで頷きながらも心の中では賠償金がなくなったことに小躍りしたくなるほど喜んでいると、祈りを終えたマルフェがこちらへ振り返る。
「でもそれには黒幕を倒さないと「そうですね、それいけません。早くイーチャ司祭も助けませんと!」君がそう言ってくれるとすごく心強いね、本当にありがとう。」
「人というのは時に都合よく解釈できて良いですよねぇ。私にはお嬢様の心が透けて見えてますけど。」
「良いじゃないですか、本人の都合の良い解釈をさせていても。それよりそろそろお聞かせ願いたい。今回のこの非人道的な行動、その黒幕はもしやブジョラ司祭でしょうか?」
「彼じゃないよ。」
マルフェは即答で答える。
「じゃぁ、やはり生前彼らが慕っていた聖女という存在で?」
「ある程度調べて知ってたんだ・・・そうだよ。僕たちはそいつを殺すためにここにやってきたんだ。ブジョラ司祭・・・彼は寧ろ彼女の元に囚われそれでも悲劇を食い止めようとしていた僕らの味方だ。でも、彼は長い間毒と洗脳を喰らい続けた身だ。いくら僕等が聖職の身であろうがあんな状態は・・・彼を助けられない。」
「毒に洗脳?・・・あ。」
ティリエスは思わず声を出しティリエスは開いた口を自分で塞ぐ。
その仕草をしている数秒、オーガはまさかとティリエスの方を見つめた。
「ティリエス嬢、貴女まさか既に何かしたので?」
「え?どういうこと?」
「この人のこの仕草、当事者達が困っている時には既に何か対策している時のやっちゃったな顔なんですよ。」
「やっちゃったな顔・・・。」
「いや・・・やっちゃったとかじゃなくて偶然なんですけど。」
ジッと見つめられるので思わずティリエスは反論する。
「確かに嫌なことを言うブジョラ司祭は嫌いです。でも一緒にお茶をした時何だかあの時ブジョラ司祭の顔色も悪いし、言動も何だか情緒不安定だったから、あげたんですよ、角砂糖。」
「角砂糖?」
「はい、毒とか呪いとか食べたら体外へ排出する角砂糖に見立てたお薬・・・。」
モニョモニョと最後は小さく話すティリエスに信じられないとマルフェはその場に膝をつき手で顔を覆う。
「信じられない・・・まさに神の奇跡じゃないか・・・。」
「え?そんな大袈裟な・・・」
「大袈裟なものか、本当に助からないと思っていたんだよ。君、本当に聖女じゃないの?こんな奇跡ないよ普通。」
「いや、それはあり得ないです。」
キッパリと言い切ると思わず壊れたようにそのまま笑い出したマルフェにティリエスはゲッと嫌な顔をする。
「マルフェ司祭が壊れた。」
「まぁまぁ、そんなことより早く進みましょうか。彼の援軍が来るまで時間がかかりそうですし・・・追っても来そうですし。」
複数の足音に気がつき、ここにいれば危ないと判断した一行はレイがこじ開けた祭壇の下の隠し通路を下へと降りて行った。
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