如何にして私はここにやってきたのか(本人だってよくわかっていない。)⑥
そろ~りと洞窟の中を覗き込むと2人はまだ深い眠りの中だったようで、全くその場から動く気配がない。
彼らに近づいて彼の顔を覗き込むと顔色は少し悪そうだが規則的に呼吸をしている。
どうやら良い方向に回復しているようだ、よかったよかった。
それを確認した私はふわりと馬の前までいき馬の鼻を触る。
ただいまー、お留守番ありがとうね。
礼を言うと馬は少し目を細めて少し前にみせたドヤ顔になる。
それに笑いながら、収納からおがくずが入った袋を取り出す。
彼らから少し離れた場所にたっぷり撒くように敷いていくと、馬もそこに座り込むと横になって寝始めた。
馬も疲れていたらしい。
よしよし、よくやったね。さぁて2人が寝ている間にしてしまおう。
私は彼らの周りの重力をかえてふわりと浮かせると、収納からシーツを引き敷布団の代用品を取り出して敷いて枕に彼らの頭をのせて寝かせる。
上から毛皮をかぶせてラベンダーに似た香りのする花も見つけていたので彼らの頭の上に並べた。
殆ど匂わないけど初めての毛皮加工だしいい香りでごまかしておこう。
歪ながらも布団一式セットに2人を寝かせて満足した後、次へ取り掛かる。
彼女が用意した囲炉裏の前に立つ。
石がそのまま赤く燃えている不思議な光景をどんな原理で燃えているのかしげしげと見ていたが、まぁ薪の代わりに石が燃えていると解釈するしかない。
まぁ後で時間が出来た時にでも鑑定してみよう、今は2人が休んでいる間にご飯作っておきたいし。
新たに収納から道具と食材を取り出す、とその前に近くのよさそうな石を使って錬成する。
つるりと磨かれたような光沢を放つ低めの机が目の前に現れる。そして鉱石を取り出してこれも錬成する。
火における鉄製のスタンド、所謂よくアウトドアで使われるダッチオーブンスタンドを火の場所にセットする。
必要なものを取り出した後は調理だ。
まず氷と一緒に取ってきた魚に目を向け、水面近くの氷だけを切り取り鍋に6分目ぐらいまでの量を入れた後、鳥の骨、鶏ガラをいれ火にかけておく。
ふわふわ飛びながら一度外に行き自然薯みたく少し長めの芋を取り出し、水魔法で洗っていく。
次にニンジンもどきや香草も軽く水で洗うと、指先に風の刃を纏わせ芋は皮をむき一口大に切り、ニンジンは乱切り、キノコ類は割くように小さくし、香草は少し細かく風を起こして刻む。
そのまま中へ入り鍋にニンジンもどきとキノコを入れる。続いてもも肉の部分を取り出し、ぶつ切りにすると一緒に鍋に入れる。香草の中にローリエのような葉もあり肉の臭みを消してくれるのでこれを入れる。沸騰するまで蓋をする。
次に魚の周りにある氷を溶かし、4匹の魚のお腹に切り込みを入れ内臓を取り出す。
放置すれば臭いがひどくなるし獣やら魔物やら呼び寄せるので高温の炎を出し一瞬にして灰にする。捌いた魚を水で綺麗にした後、女性の鞄の中を拝借し塩を程よく振りかけて鉄の串にさしていき火から少し離れた場へ刺していこうとした。
あ、串が刺せない・・・・。
むき出しの岩にある火元をみて初めてミスを発見する。
一瞬だけ動きを止める。がしかし、そこは便利な魔法。土の魔法で火元の周りを岩から砂へと変える。
ぐるりと一周砂に変えるとあたらめてそこに刺していく。ちょうどよいところに火が魚に当たりちょうどよい火加減でじっくりと焼いていく。
ヤバイ、美味しそうだ。
思わずよだれが出そうになるが、ここで鍋のフタに合図があったので慌ててそちらをみて蓋を開けた。
くつくつと煮込んでいる音にニンマリしながら、ここで出汁のためにいれた鶏ガラをとりだす。
すごいなこの鶏!短時間でこの出汁の量ときたら!
血抜きが予想以上に上手くいったのか灰汁が出ずスープは黄色みがかかり出汁の濃さがわかる。
もっと長い時間煮込めばこれ以上の出汁が出る可能性に少し躊躇したがここは諦めて鶏ガラを処分した。
くすん、滅多に凝った料理が出来ないだけに残念・・・・・・・。
泣く泣く先ほどみたく炭にすると、今度はひと口大に切った芋を入れる。
自然薯ほどの粘りはなく煮込めばジャガイモのようなほくほくした食感らしい。それと一緒に味を調える程度の塩をいれる。
鑑定の能力を使いながら料理をすると味見できなくてもベストな味付けにたどり着けるので本当便利。
ひと煮立ちすればもう完成である。
胸肉やささみ、手羽先に手羽元を綺麗に部分解体をしているが、これは収納に戻した。
思ったより量が多かったからだ。
魚もいい具合に焼けてきた。目覚めるまで焦がさないようにしないと。
石火を鑑定すると魔力で火が調節できることを知り、魔力をその石から少々抜き取る。
中火だった火の勢いを弱めてとろ火にする。
さて2人とも気に入ってくれるだろうか、いや、この料理なら絶対うまいはずだ。
確信めいた自身に私はフフフと不気味に笑いながら、机に食器をおくと最後においしそうなニンジンもどきを与えるため馬の元へと向かったのだった。
そして、30分が経過したのだが・・・・・。
「こ、ここから早く逃げた方がよいのでしょうか?」
不安げな声でいう女性に私は頭を抱えていた。
2人は15分ほど前から目を覚ましていた。
2人とも初めの頃より疲れや受けた傷の状態もましになっているようで戻ってきた時よりも顔色も良くなっているのがわかる・・・・・・・が。
ヤバイ・・・・やり過ぎた。
寝床に寝かされて、目の前に料理が作られてたらそりゃ普通警戒するに決まってるじゃん!
しかも、如何にも追われて逃亡の最中だってのに・・・・目覚めたらびっくりするよなぁ。
なので2人が起きてから警戒して辺りを見渡して探っている、しかも女性の方は未だ怯えたままである。
怯えさせて滅茶苦茶可哀そうじゃんか。
その姿に私は唸り声をあげなから頭を抱えた。
馬を使ってどうにか大丈夫だと伝わらないもんかね・・・・・無理か。
と、今まで周りを見ていたアドルフがゆっくりとまた作った簡易ベッドに腰を落ち着ける。
「リリス・・・・・。」
彼女の名前はリリスというらしい。
彼女はアドルフのケガを気にしながら隣に座ると彼の次の言葉を待つ。
「俺にもよく理解はできてないが・・・・・ここは大丈夫だと思う。」
・・・・・お!
彼の言葉に私はぱっと彼を見る。
彼はいまだ周りを見ていたが彼女を落ち着かせるように手を握りながら言葉を続けた。
「この場所の周りにかけて上位魔法結界が掛けられている、敵に認識できないよう幻影のようなものに魔法や攻撃もはねのける結界魔法と多重に組まれている。それに、俺のスキルに反応もなく危険に敏感なラニングが穏やかだ。だからここは大丈夫なようだ。」
そういうと、食事をすでに終えて眠りについている馬を見て彼がそういうと彼女は戸惑いながらも口を開く。
「ほ、本当ですか・・・・?」
「ああ、俺がこういうことに関して外れたことがないだろう?だから信じていい。」
「そう・・・・なのですね。」
アドルフの断言する言葉にようやく彼女リリスはここは安全だと理解したようで身体の力を抜く。
と安心した反動でか今度は急に泣き出した。
何度も彼が死ぬのではないかと逃げながら必死に耐えていたらしい。何度も助かってよかったと泣きながら話していた。
アドルフはそんな彼女をぎゅっと抱き締めて、リリスを助けられてよかったと怖い思いをさせてすまないと謝っては安心させるように彼女の背をさすり続ける。
私はそんな美男美女な2人の様子にロマンス映画を見ているようにうっとりとした。
うんうん、よかったねぇ・・・・・・まぁなんで追われていたのかはよくわかってないけど!
「でも、不思議です。アドルフ様の傷もあんなにひどかったのにもう殆どよくなっているなんて・・・・・まるで奇跡としか言えません。」
暫くして、涙も気持ちも落ち着いたリリスはアドルフの傷口を見てそうつぶやく。
血がこびりついていて痛々しく見えるがすべてが血痕のみで傷口から新たに血が流れている様子はない。
アドルフも傷口の張っている薬用の葉を触る。
「結界魔法といいこの傷といいこんな大掛かりなことが出来る者を私は知らない。エルフか魔人なら・・・・・・いや、閉鎖的な彼らが他領土に好き好んでくるわけがない。何より俺たちを助ける理由も思いつかない。」
へぇ~他種族もいるんだ、まぁ魔法使える時点でファンタジーだよね。
そんなことよりご飯食べてほしいなぁ、結構自信作なんだよね。スープも温かいままだし魚も脂のっていい具合に香ばしく焼けたし・・・・・・ね、ね!お腹すくよね!?
料理好きな私、だけど仕事が忙しくて最近はコンビニ弁当の日々を送っていた私にとって久しぶりに充実した料理の数々。この場所で結構力作なものをつくれたのでいい加減2人に食べてほしかったのでやきもきしている。けれどそんな私を他所に彼らは全くと言っていいほど食べてくれない。
まだ警戒をしているんだろうか?夢なのになんだこの焦らされる光景・・・解せぬ。
「この食事もなんでしょうか?でも一体どうして・・・・。」
・・・・・・・ええい!じれったい!早く装って食べてよ!お腹すいてるでしょ!
一向に手に付けない2人に業を煮やした私はとろ火の火にかけていた鍋の中にあるお玉を持ち深い皿に装う。
ほらほらいい匂いがするでしょう?ほら!召し上がれ!
具材も良いバランスで装ったお皿を彼らの前に差し出した、とここで私も止まった。
2人の驚いた顔と目が合ったからである。
・・・・・・・・あれ?見えてる?
なんとか投稿できました。読んでいただきありがとうございます。
裏設定:実はリリスとアドルフさん、最初の夜会からだいぶ遅い再会です。実は彼からハンカチを借りていたのですがハンカチを返そうにも身分の違いで自分が返すのは気後れしてしまい誰が伝手を頼りに返そうとしていましたが、それをさせる前にアドルフさんが彼女の家に押しかけています。そこから彼がぐいぐいいって今の関係にまでこぎつけてます。もう夜会の時には俺の嫁ロックオンだったんでしょうね。ハンカチを渡している、なんて・・・もう一度会うための口実じゃん、なんてあざとい!