私が聖女候補なんて世も末である。(真相を究明しようとすれば、きっと誰かは泣く羽目になる。㊿と6)
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微笑んでいるエルパに対し、無表情のままこちらを見ているブジョラは微動だにせず腰に短刀を携えたままイーチャを見下ろしていた。心許ない蝋燭の火でも分かるほど彼の顔色は青白く見え顔色が悪い事にイーチャは眉を顰めた。
「息子に・・・何をした。」
「この子も私と一緒にこの女性に助けられていたの。正直焦ったわ、私が目覚めた時には彼もうすでに起きていたの。でもね、その時なんの悪戯かこの子、記憶がその時曖昧で私の事を覚えていなかったの。あの時は本当に神に感謝したわ。」
表情を変えないエルパのその口から言葉が紡ぎ出されていくのをイーチャは黙ったまま聞いていたが、その目に冷たいものが宿るのをイーチャ自身感じていた。イーチャの胸を内に対し、何も思ってはいないエルパは喋り続ける。
「だから、記憶が戻る前に少し彼の頭をいじったの。私が上司で部下だという記憶を魔法で植えつけた。実際この子はよく働いてくれたわ、私が驚くほどに。でも、何年かして記憶が時々蘇るようになってきた。それに私は気がつき今度はここの修道女達みたいに洗脳していった。今はもうほら、抵抗もないでしょう?」
するりとブジョラの頬を撫でた後エルパは顔を手で額から顎、下へとずらしながら手を下ろしていく。
今まで微笑んでいた表情が真顔になった。
「相変わらず、表情は作らないと駄目なようですね。」
「そうね・・・でも不便だと思ったことはないわ。私は人ではないもの。」
「あの時、もし貴女が生きていればこのまま儂は貴女は逃げると思っていた、でも再び教会に顔を出したのは・・・何故じゃ。息子を見れば儂らに勘繰られるのは分かっていた筈じゃ。」
「あぁ、それはこの子の案よ。」
ブジョラを指差し、エルパはすぐさま答える。
「居場所を突き止められたところで私の組織の基盤である過激派は教会に根付いた・・・であれば、中立も穏健も表立っての行動はそうそう出来ないと。だって自分達で誓約を結んだんでしょう?供に神に使えるものとして個の主張を尊重し断罪しないという誓約が。」
そう、どんな思想を持っていようがそれは神に使える同士として平等である。その事をしたため、無闇に争いを起こさない誓約を交わした。それによって、議会で衝突する事になっても武力行使はしない事になっている。あの時、聖女との諍いの後、貴族離れの援助の断ち切りで教会が財政も立場としても弱体化していたのは事実。あの時はそうするしか教会を守れなかった。
「成程・・・それでブジョラがあの場に来たんじゃな。」
昔の事を思い出し、イーチャはエルパを見やる。
「そう、確かにそのような誓約を結び、今の教会を作った。残念じゃが・・・膿は出し尽くせんかった、我らの落ち度じゃ。でも、だからこそじゃ。」
「?何がだからこそなの?」
エルパは心が乱れることがないイーチャを不可解だと感じながらも彼に問いかける。
「だからじゃ、おぬしにはもう未来がないんじゃよ。」
イーチャの言葉を聞き終わる前に、横からの攻撃に咄嗟に避け数歩後ろへと下がる。
左頬に避けきれなかった切り傷が出来たのが分かったが、エルパは構わず攻撃した相手を見つめかした。
「何故?攻撃したのブジョラ。」
「決まっているだろう、私は貴様の事を憎んでいるからだ。」
短剣を持ったままエルパを睨むブジョラを見てエルパは首を傾げた。
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