私が聖女候補なんて世も末である。(真相を究明しようとすれば、きっと誰かは泣く羽目になる。㊿と5)
いつも読んでいただきありがとうございます。次回は9/24(火)投稿予定です。
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「・・・全く、随分嫌な記憶を見てしもうたわい。」
意識が浮上したイーチャは痛みを堪えながら殆ど暗闇の空間を見渡しながら己の今の状況を確認する。
柱に括りつけられたか・・・指は動くが体が動かん・・・自力に立ち上がることも無理じゃな。
イーチャは自分の身体を順に力を込めたり動かせないか確認しながら己が今縄で縛られ身動きができない状態だと悟る。
魔力で焼き切れるか?・・・やはり無理か。罪人に使う魔力を通さない特殊な縄で縛られたか。
縛られた状態で目覚めたイーチャであったが、そこにはどこにも焦りはなくただただこの部屋の天井を見やる。
窓一つ無く光が遮られているこの空間で、唯一の光である蝋燭の火で照らされている天井の絵は廃れ分からない場所も所々あるが、イーチャにとって馴染み深い絵だと理解する。
「ここは・・・礼拝堂かの。」
「えぇ、そうよ。もっとも、ここは今使われていない地下の礼拝堂だけどね。」
コツコツと靴の音を響かせながら石造りの階段から降りてくる人物に目をやる。
イーチャはそれが誰かのかすぐに分かった。
「お久しぶりですな・・・姉上。」
階段を下り切る前に自分の事を呼んだイーチャに視線を落とす。
「あら?私が分かるのですね、イーチャ。私の弟。でも、爪が甘かったですね・・・私を殺すつもりが私の修道女達に返り討ちにあうなんて。」
数時間前に、彼女の居場所を突き止めたイーチャは本来の目的を果たそうと、悟られず彼女を殺す機会を伺っていたが背後にいた彼女の部下に気がつくのが遅れ頭を打たれ気を失い囚われたというわけだ。
「確かに油断しましたな。それと貴女にとって疑問に思われたようですが・・・分かりますとも。たとえどんな姿に変えようと貴女の本質そのものが変わることはない、私が見間違うことはあり得ないですよ。」
「そう本質・・・流石ね。見た目に騙されないなんて、そうね確か前にここに来た聖女が貴方のことを言っていたわ。今じゃ教会の枢機卿の1人だって、私を必ず討ち滅ぼすとそう言って焼かれて死んじゃったわ・・・まぁでも、地位が高くなろうとも同時に老いたわね。私より老けたのではなくて?」
「年を追うということは人、生き物の証です。私はその当たり前を歩んでいるだけじゃ。」
「力が衰えることに哀れだと感じてしまうけれどね。」
そう言って靴の音を鳴らしながらゆっくりと階段を下り始め、そして下りきった彼女はイーチャが居る柱の側までやって来る。被っていたフードを取り去り微笑んだ表情でイーチャを見下ろした。
「今はここでエルパと名乗っているの、よろしくね。」
蝋燭に照らされた女、エルパを見てイーチャは後ろに括り付けられた両手を握りしめる。
微笑え佇むその女性は己の姉の姿とは違う容姿をしていた。
それにあの教会の騒動から10年以上の月日が流れている。自分より10も違う姉が自分より老いていない筈はなかった。
「そのお姿はどうされた。」
「マルフェに刺された剣が思いの外痛かったの。だから、すぐにこの人に乗り替えた。岸辺で見つけた瀕死な状態だった私を介抱してくれた優しい女性だったわ。戦争で夫も子供も亡くして独りきりだったそうなの。本音を言えば新しい肉体に代えるなら若い肉体の方が良かったけど。あの時はそんな余裕はなかったから。」
「やはり・・・あの時儂が差し違えても貴女を止めるべきだった。」
イーチャは彼女から目を逸らさずそう告げると、もう1人誰かが入って来るのが見えた。迷わず下り彼女の隣に立つ。
「そういえば貴方にとって、感動の再会ですね。死んだと思っていた息子との再会はどうです?」
そう言って蝋燭に照らされたブジョラの姿をイーチャは静かに見つめ返した。
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