私が聖女候補なんて世も末である。(真相を究明しようとすれば、きっと誰かは泣く羽目になる。㊿と4)
いつも読んでいただきありがとうございます。次回は9/22(日)投稿予定です。
肩の痛みを堪え、私とマルフェ達で奥の通路、教会の建物の扉から繋がっている神の聖域とも言われる銀の洞窟へと躊躇なく入り聖女と息子を追う。
息子の魔法は教会の中でも随一ではある。だが、あの威力の魔法を放った後でも平然としている姉ーーー姉だった者の方が強い。
息子1人では同行できるような相手ではないことを自分を含め、駆け出し彼らに追いつこうと必死になっている者達皆そう思っていた。
向かう先のすぐ近くで大きな何かが叩きつけられる音が聞こえる。
はやる気持を抑え音のした方へ向かえば、神の池の前にある大きく開けた場所で自分の腹を抑え佇む聖女に壁に叩きつけられたのか壁に蹲る息子の姿があった。
迷わず息子へ駆け寄った私は彼を抱き抱え名前を呼びながら安否を確認する。
“っゴホッ!・・・だい・・・じょうぶです。背中を叩きつけられただけです。”
大きな重傷を負っていないことにイーチャはホッと胸を撫で下ろしていると、聖女の呻き声が聞こえた。
“な、なんだっ?”
“皆さん油断しないでください。”
彼女の唸り声に怯んだ神官にまだ幼さが残るマルフェが冷静さを取り戻すように声をかけ細い剣を抜き先導する。
彼の姿に一瞬だけ狼狽えた仲間の神官はそんな彼を見て、冷静になり同じように彼女を警戒した。
彼女の外見には特に目立った外傷はない、何が一体始まるのかと誰もが彼女との距離をジリジリ詰め寄る。
“うううう・・・ギャァぁあぁぁあぁぁあぁぁぁ!!!!”
するどいきなり聖女は断末魔をあげ、誰もがその声に顔を歪め耳を抑える。
その金切り声はまるでここにいる人間を呪うようなソレに聞こえた。
血反吐を吐くようなその断末魔がぴたりと止むと同時にべちゃりと何かが彼女の下から出てくる。
たったまま肩で息をする聖女はその場から一歩下がるとその彼女から出てきたものを拾い上げる。
彼女の両手に収まるその黒く小さいものは形を保ってはおらず不規則に動く、まるで魔物のスライムのような見た目をしていた。
“あら・・・失敗ね。”
掬い上げたソレをマジマジと見ていた聖女から漏れ出た言葉にイーチャは反応する。
“あぁ、これはね。私と法王の愛の結晶よ。”
“なっ?!”
なんてことはないと思っているのだろう、彼女の言葉には重みはなく、イーチャ達は彼女をおぞましい目で見た。
愛の結晶から程遠い形をしている胎児であろうそれは確かに己の力で蠢き生きていた。
“魔石を取り込ませた後、法王様と頑張って励んでみたんだけど・・・正直これは使えないわね。”
そう言って聖女は後ろを振り返ることなく、ソレを後ろへ放り投げる。
咄嗟に動くが胎児であるソレは後ろの谷底へと落ち吸い込まれるように落ちていった先の川の中にぽちゃんと音を立てて沈んでいった。
“落ちていったモノに先の未来などないだろう・・・だが、なんと酷い仕打ち。”
イーチャは怒りのまま立ち上がる。
息子も自力で立ち上がった。
“ここで全てを終わらせる。”
“勇ましいですね、イーチャ。でも、私を倒したところで無駄ですよ。私は不滅です。”
“そんなものやってみないと分からないよ。”
今まで黙っていたマルフェが行動する。
聖女の胸にはマルフェの持っていた剣が突き刺さっており、彼女も一瞬分からなかったのか呆然と胸の剣を見つめた。
“なんてこと・・・”
彼女は口元を抑え、よろりと一歩後ろへ下がる。
彼女が弱まった!今なら!
イーチャは魔力を込め始める。
ここで姉を殺さなくてはいけない。
イーチャの脳裏にまだ姉だった頃の思い出が走馬灯のように蘇る。
僕が好きだった姉の笑顔・・・それを頭に思い浮かべた途端、イーチャの指先はぴくりと微かに動いた。
“父さん”
不意に呼ばれたイーチャは隣にいる息子の顔を見た。
息子のその澄み切った顔を見てイーチャは一瞬、なんでそのような顔をしているのか分からないでいた。
“今まで、ありがとう。”
そう言って息子は駆け出す。何をするつもりなのかわかったイーチャは魔力を遮断し息子の後を追ったが、間に合わなかった。
駆け出した勢いのまま彼は彼女の胸にある剣を深く刺し進み、イーチャは息子の服を掴もうと血まみれになっている腕を伸ばすが届かず彼ら2人は谷底へと落ちていった。
息子の名を叫びながら彼らが落ちていく途中、聖女が口から手を退かし見せた笑みがイーチャの目に焼き付いた。
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