私が聖女候補なんて世も末である。(真相を究明しようとすれば、きっと誰かは泣く羽目になる。㊾)
いつも読んでいただきありがとうございます。次回は申し訳ありませんが予定が重なったため9/9(月)投稿予定でよろしくお願いします。
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法王が床に伏せて8年という月日が経った。私は法王は死ぬことなく聖女に依存しまるで寄生虫のように生き存えるその醜悪さ、姉が聖女として君臨している不穏さ、そしてそれらに利益を見出し群がる信徒を見ることに何も考えないようになっていた。けれど付き纏う恐怖に逃げようと思ったことは一度や二度ではない・・・だが私は、甥と逃げようと思えば逃げれていたのに、あの頃の私はそうしなかった。
今まで何があっても己と甥を守る為見て見ぬふりを貫いてきた。なら甥が成長した今逃げることは容易いことだったはずなのに、何故教会から逃げようと思わなかったのか、分からぬまま私はそのまま教会で過ごしいていた。
“駄目だよ”
ある日、私の背後に立って言葉を投げかけられた。
私に声をかける人間は甥ぐらいだったので驚いて振り向くとそこには小さな子供らがそこにいた。
月日はあれから経っていたが数年前甥の妹にあたる女性が産んだ子供だとすぐ分かり、私は2人並んでこちらを見ている彼らの前に行きしゃがみ込む。
1人は微笑みもう1人は無表情でこちらを見つめる目に、私は思わず目を背けたくなったが無表情の子供がそれをさせなかった。
“ねぇ、いい加減にしようよ。”
その言葉にどきりと心臓が大きく音を立てる。
“わかっているんでしょ?あれが怪物だって。”
“何を言って・・・。”
8歳児の見た目なのに大人の口調で子供は話す。
“あれを野放しにしちゃだめだ、法王は人から化け物へ成り下がり聖女は怪物。だから止めないといけない。”
“君は・・・どうしてそれを”
“僕や姉を産んだ母親達が言っていた。僕達が生まれる前からずっとそう言っていたよ”
彼が言うには生まれるずっと前、母親の胎の中で繰り返し言われ続けられたそうだ。
それを彼らはずっと覚えていた。
あいつらは怪物。
怪物は殺さないといけない。
私達のような生贄を出してはいけない。
野放しにしてはならない。
殺しなさい、確実に、
殺す為には味方をつけなさい。
必ず、その者が力になる。
“そんな・・・彼女達は話せないはずだった。”
ある日法王の命令で彼女達は幼い頃、声帯を潰されたからだ。
“声じゃない。ずっと、ここで言っていた。”
そう言って子供は自分の心臓がある胸の上に手をそっと添える。
“ずっと恨んでいたよ母達は。”
“あ・・・あぁ、なんてことだ。”
言われて私は後悔し項垂れ涙が溢れた。
甥のように無関心でなく、大事に育てられているように見えたあの光景は、彼女達からしてみれば地獄だったのだ。
ずっと声の出ないその身でずっと声を上げ続けていたのだ。
2人の目を見る為私は乱暴に涙を拭い顔を上げる。
どちらも表情は違う、けれどその瞳の奥には強い憎しみを滲ませていることを理解する。
“今までの事を後悔しているなら、僕達の手をとってイーチャ。”
私の名を呼んで彼は手を差し伸べる。
“貴方は罪から背を向けてはいけない・・・そうでしょう?それは貴方もだよね。”
彼の視線の先を追えば、そこには甥が立っていた。
甥もまた、涙を流していた。
“僕達を含め、生きることさえ罪な命だ。だけど、それでも生きてこの命を持って止めないといけないんだ。”
幼い彼の言葉にようやく、私は目が覚めた。
いつも読んでいただきありがとうございます。