私が聖女候補なんて世も末である。(真相を究明しようとすれば、きっと誰かは泣く羽目になる。㊹)
いつも読んでいただきありがとうございます。次回は8/27(火)投稿予定です。
ランプの光に照らされた日記だと思われるそれにベッタリと付着しているものが血痕だと気づくと、ティリエスは思わず引き攣った顔でそれを見る。
「貴女でも流石に驚きますよねぇ。一言言ってから置けばよかったですね。」
・・・いやそうじゃなくて、いくら重要なものでも食事するテーブルの上に普通置く?埃まみれの物でもどうかと思うのに血痕付きだよ?血痕?どう考えても血痕付きの代物なんてばっちぃじゃんか。
違う意味で顔を引き攣らせていたティリエスは気づかれないように自分が皿によそった軽食をそこから遠ざける。
勿論、引き攣らせていた理由は黙ったままである。
「大丈夫ですわ・・・でもこの血痕の量って少しどころか・・・ベッタリですわね。」
不意に怪我をした程度ではない、言葉通りベッタリと痕がついている事にどこか異様さを感じとりゾッとする。
「ですよねぇ?普通こんなに汚れていたら本人でも気がつきますよねぇ?」
「その口ぶり・・・もしかして何かありました?」
「何かあったというわけじゃないんですけどねぇ。これ、何処にあったと思います?」
「?」
「普通に本棚にしまっていたんですよ、しかも部屋の周りも血まみれ。更に言えば一度だけの血痕じゃない。塗り重なるような血痕が付いているんですよ。これって、違う日に似たような怪我をして同じように行動して付着していった跡なんですよ。何度も何度もね。これだけでも奇妙でしょう?」
するとオーガはレイラの方へ振り向く。
「レイラさん、貴方がここで食事の準備をする前にここも汚れていたのでは?」
「えぇ、その通りです。最初に私が中の様子を見ましたから、まぁ魔法で綺麗にすればいい話しでしたし、わざわざお嬢様に言わなくても良いと思いまして。」
レイそれ正解。いくら綺麗にしても血まみれの部屋って分かると食欲沸かない。
彼の配慮に同意していたが、ふと、その残した日記へと視線を落とす。
これ・・・本当に読まないと駄目です?もはや、不穏なことしか書いていないようにしか思えない。
「まぁ、とりあえず読んでみましょうか、何が書かれているのやら。」
ティリエスの願いも虚しくオーガは表紙を捲る。
項を捲るたび、血痕のせいかぺりぺりと妙に乾いた音を出しながらそれは進められた。
「ふむ・・・たまに起こった日の出来事を書いていたみたいですね。この村の収穫やお金のやりくりに相談事、平々凡々な内容ですが・・・ん?」
半分ぐらいまで興味なさそうに次々と項を捲っていたオーガの手が止まる。
「なんだかここから妙におかしいですねぇ。まぁ血まみれで所々読めませんが・・・。」
そう言って、見せてきたのは今から約1年前の日記の内容だった。
2月×日
ーーーとうとう妻が死んでしまった。
妻だけではない、他にも何人もの村人がーーー何もできずに死んだ。
作物も残り少ない。でも、大丈夫。私達には聖女様がついている。彼女がいれば妻や他の村人も生き返らせてくれる。でも、それにはもっともっと魔石がいる。もっと掘らなくては、皆で掘らねば。
6月◯日
ーーーーもっと掘らねば、掘らなくては。妻が生き返られない、掘らないと。もっと魔石を見つけないと。
8月△日
ーーー掘ル、魔石ーーーたくさん、イル。聖女がーーー聖女の為ニーーー。
「後の頁はただひたすら掘るしか書いていないですね。これ程びっしりこの言葉しか書いていないとは・・・この時にはもうイカれていたんでしょうねぇ。」
淡々と読み進めていたオーガはパタンとそれを閉じる。
ティリエスはこれを書いた持ち主が徐々に思考がなくなっていく様の内容に、思わず身震いした。
いつも読んでいただきありがとうございます。