私が聖女候補なんて世も末である。(真相を究明しようとすれば、きっと誰かは泣く羽目になる。㊷)
いつも読んでいただきありがとうございます。次回は8/22(木)投稿予定です。
村の密集した家屋から離れてそこに建っていたであろう廃屋に近づく。
崩れた廃屋の手前で小さなランプの火を向けると、ここの暗闇とは違う異様に黒い柱の木が浮かび上がる。
焼け焦げた後に所々に煤けている・・・もしかして火事か?
ティリエスは煤で汚れた指をハンカチで拭いながら自分よりも奥の方で廃屋を見ているバルバラに目がいく。その後ろにロコスがバルバラの傍に立っており、まるで彼女を見守っているようにも見えた。
ここの出身というだけで他のことは何も知らないティリエスだったが、バルバラが何故記憶を忘れているのか、その事を何か知っているのではないだろうか。ならなぜそのことを彼女の本人に言わないのか。
・・・やめよう、きっと彼は彼なりに何かを思ってそうしているわけだし。それにここ一緒に過ごして彼は善人だと思えたし。バルバラには悪いけどこのまま黙っていよう。
それはそうとバルバラ自身、何か思い出したのだろうか。
特に大きな変化も見られない背中にティリエスが見ているとその背中がくるりと振り返る。
「バルバラどうですか?何か思い出します?」
振り返ったバルバラにそう問いかけると、彼女は小さく首を横に振った。
「ううん、記憶は何も・・・でも、なんだか懐かしい、でも寂しい気持ちにさせられます。」
「懐かしいに寂しいですか・・・バルバラそれって。」
「うん・・・多分ですけど、私、教会に行く前はこの家で暮らしていたんだと思う。」
その言葉の意味にティリエスは思わず目を逸らしそうになった。
焼け跡は新しいものではなく随分昔だ。彼女の家が本当にこの焼けた廃屋であれば彼女の家族はもうすでにこの世にいないかも知れないということに繋がる。
「そんな顔をしないでください。わかってる、自分が言った意味も・・・でも不思議と悲しいとは思わないんです。これは記憶がない影響なのかな。」
「バルバラ・・・。」
「ごめんなさい・・・歩いたせいでしょうか・・・少し疲れちゃいました。」
「それなら少し休憩しましょうか。皆、軽く食事したほうがいいでしょう。」
レイラがそう提案し、ティリエス達はそれぞれその言葉に頷くと廃屋を後にした。
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食べるなら部屋の中の方がいいだろうと、部屋の中を調べるつもりであった村の一番奥にある村長の家へと足を進めた。
中を確認し誰もいないことが分かると、一行は家の中へと入っていった。
「少しだけ埃が気になりますが、まぁまだましでしょう。」
「本当に誰もいないんですね。」
レイラは村長の家のテーブルをある程度綺麗した後取り出したテーブルクロスを敷いて、ひょいひょいと食べ物を置いていく。
ティリエスは彼の手伝いをしながら、座ったまま少しぐったりしているバルバラの方を心配そうに見やる。
家に入るや否や、バルバラは顔色悪いまま食事せず休むことを伝え、こうして背もたれに体を預けていた。
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