私が聖女候補なんて世も末である。(真相を究明しようとすれば、きっと誰かは泣く羽目になる。㊱)
いつも読んでいただきありがとうございます。次回は8/1(木)投稿予定です。こっそり誤字脱字を教えてくださった名も無き妖精様ありがとうございます。
「というわけで、オーガさんもご協力お願いします。」
後日、バルバラ達を拠点へ案内したティリエスは彼に充てがわれていた書斎室にいたオーガに説明をする。
掻い摘んでだが今までの話しを伝えたティリエスは、いつもなら何かしら小言を言ってくるのに、未だ黙って聞いているオーガに対し徐々に不安になってきていた。
変にちょっかいかけてくる人が黙ったままって怖いんだけど・・・。
後ろにいるレイにどうにかしてもらう訳にもいかないしなんか喋ってーと念じていると、オーガが顔を上げこちらを見て来たので思わずティリエスは唾を飲み込んだ。
「随分と、思いっ切ったことをしましたねぇ。」
「いや、別に思い切っては・・・ないですけど。」
コツ、コツとテーブルを己の爪を立てて鳴らすオーガに最後の言葉が萎んでいくティリエスだったが、なぜそんなことを言われたのかわからない。
「貴女はもう少し切り札というものを隠さないと駄目ですよ。」
「え?」
切り札?なんのこと?
言われてもどうにも理解していない表情のままのティリエスにオーガはとうとう大きなため息を吐いた。
「いいですか?経った2ヶ月のそんじょそこらの人間に己の切り札になり得るものを何も誓約も無しに教えるなんてどういうつもりです?私ぐらいなら口約束でも大丈夫ですけどね。」
「そうか・・・オーガさんにも誓約書書いた方が良かったのか。」
ついポロリと本音が漏れ、そんな本音をオーガが聞き逃すはずはなくいつもの糸目が開眼し彼に両ほっぺをむにゅっと寄せられタコ唇というなんとも恥ずかしい顔で顔を逸させまいと向かい合わせにさせられた。
「貴女が普段、どんなふうに私を思っているのか理解しましたよ。」
「じょ、じょうだんですわよー。」
喋るたびにほっぺをむにゅむにゅする見開いたままのオーガにたじたじでいると、思いの外早くほっぺから手を離してくれたので、自分の頬を摩りながらホッとする。
「全く、事後報告もいいところです。・・・でもわかりました、貴女の案に乗りましょう。」
「いいんですか?」
「いいも何も、もう話しは進んでますし。以前お会いしたフラスさんが管理している拠点として彼らには思わせるように仕向ければ良いんでしょう?」
あの拠点の所有者はティリエスではあるがそこまでは教える必要はないと判断し、あの拠点の所有者はフラスという事にしている。フラスにも事情を話して承知してもらっているし、バルバラはバルバラで今まで会ったことのない不思議な人という認識のおかげか、そう言われてもすんなり信じてくれたのでなんの問題ないだろう。
「それとバルバラという子供は兎も角クリメンスという子供は目を覚さないのは?」
「それはわかりません。フラスに診せていますが見た目より随分と疲労していることしか分かっていませんわ。」
気を失ったまま運ばれたクリメンスは何故かまだ目覚めないでいる。ホルアクティやフラスからこれはこの子にとって必要な休息なんだと言われているので、深刻になるような問題はないと思ってはいるがそれでも少し心配だ。
「後数日様子を見て、クリメンスさんが目を覚まさない場合はこのままフラスに診させますわ。」
「その方が良いでしょう。それにロコスも診ていただけるなら幸いです。思ったより傷口の治りがゆっくりなのでこまめに診せた方が良いと思ってましたから、早速連れて来ましょう。」
「えぇ、お願いします。それとさっきの件ですが・・・。」
「それは勿論、貴女と一緒に同行しますよ。これでも私、貴女の護衛として頼まれているんですよ?」
オーガの返答にティリエスはそういえばそうだったと思い出した。
それにしてはまぁまぁ自由にしてますけどね?
護衛対象である自分を囮にしてまで今まで自由に行動していたことを思い出し、本来の役割をしているのかどうかという疑問は胸の中にそっとしまった。
いつも読んでいただきありがとうございます。