私が聖女候補なんて世も末である。(真相を究明しようとすれば、きっと誰かは泣く羽目になる。㉗)
いつも読んでいただきありがとうございます。次回は7/11(木)投稿予定です。
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己の罪が分かった所で、人は弱く、そして正す事の勇気を私はその頃持ち合わせていなかった。
これは、懺悔の記憶だ。
なんの感情も表現する事もしない姉が恩人だと思っていた男との子を身籠ったと分かってから、私は自分の姉を心酔する男とただそこに座るだけの姉の胎だけが日に日に大きくなる異様な光景をいつの日からか気味悪く感じるようになっていった。
それでも私は彼らから離れようとしなかった。過去の姉との思い出が私をそこへ留まらせた。
明日になれば、またあの頃の姉が戻って来るのではないかと、そのあまりにも身勝手な己の希望を捨てきれずにいた。
あっという間に季節は変わり、冬の寒い暗い夜の中ーーー。
姉は陣痛の痛みにも呻き声を上げることなく、男児を産んだ。
一株の不安はあったが産まれた男児は、姉の様な異様な様子はなく、ただの普通の赤子であった。
男はその事に落胆し、命まで奪おうとは思わなかったが居ない者としてその子は扱われた。
感情の無い母に無関心な父。
この子は本来の愛情を向けられることなく生きなくてはならないのか。
私はその子を哀れに、そして己の贖罪として、その子を育てると決めた。
それから私は慣れない育児に奔走した。
時には、己を不甲斐ないと思うこともあったが、それでもその子は私を慕い共ににいてくれた。
姉の面影を宿しているその子のくるくる変わる表情に私は救われたのだ。
数年、彼らの下に付き従う歪な関係の中にいながら子供との生活に束の間の安寧を感じていた頃だ。
突然それは起こった、姉の異変が始まったのだーーー。
雷鳴の中、いつものように姉の様子を見ようと最上階へ続く螺旋階段を上っていた。
この頃、男は最上位である法王へと昇りつめ、私は彼の補佐として就いていた。法王となった彼はそこまで地位を納めたとういうに姉を聖女と崇め離そうとしなかった、寧ろ、時間を追うごとにそれは次第に強まり、大きな執着を見せていた。
一度目の出産は身体をひどく弱らせたことで、それ以降姉に子を成そうという事はしなかったが常に姉を側へ置く男のせいで、私や子供はわずかな時間しか会えないでいた。
“トト様、今日はなんだか外怖いね。”
“そうだね、今日は・・・なんだか変な天気だ、こんなこと今までなかったのに。”
窓の外から見える吹き荒れる嵐のような光景に子供は雷の音がする度身をすくませた。
不安そうにしている子供に私は繋いでいた手をギュッと握りしめ優しく微笑み見下ろす。
“でも、カカ様も怖いと思っているかもしれない。早く行ってあげよう。”
“・・・うん。”
戸惑いながらも、子供は頷く。
無理もない。母親と言っても返事も動きもしない共に暮らしたこともない、ただ横たわった人形のような人間をどうして母親といえよう。
そう思っていた時だ。
上から気配を感じ、私は思わず上を見た。螺旋階段の部屋の前に誰か立っている。
・・・まさか、そんなはずは。
私は、子供を抱き抱え螺旋階段を駆け上がる。そして、そこに誰がいるのか分かった瞬間足を止めた。
“・・・姉さん。”
そこには暗がりの中、こちらをじっと見ている姉がいた。
雷鳴響き渡る中にっこりと笑みを崩さずこちらを見てくる姉の姿に、私も子供も互いにしがみつくように抱きしめた。
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