私が聖女候補なんて世も末である。(真相を究明しようとすれば、きっと誰かは泣く羽目になる。㉔)
いつも読んでいただきありがとうございます。次回は7/4(木)投稿予定です。
「何の感情も無い・・・っていうのはどういうこと?」
ロコスの傷を見てそう言い切る彼は振り返った後、そばにあった水桶に置いたままの濡れた白い布でロコスの傷口を少し乱暴に拭う。
しみるのかロコスの呻いたくぐもった声に、ティリエスはギョッとする。
「ちょっと!レイラ何してるの!」
「大丈夫ですよこれぐらいなことをしても死にはしません。」
死ぬ死なないじゃない!痛いか痛くないかなの!痛がってるじゃないか!彼!
レイの怪我人として労わる基準が人より低いことにドン引きしながら引き攣っているとロコスが大丈夫だとジェスチャーしたのでティリエスはホッとする。
「あー・・・なるほどなるほど。そういう事ですかぁ。」
今度はマジマジと見ていたオーガも何かに納得したのか呟きながら頷く。
いや、2人で納得しないで教えてくれてもいいじゃないの?私そんな傷見ても分かんないしさー。
ぶーぶーと心の中で文句を言っていると、レイが手招きをしたので彼に近寄る。
「見てくださいお嬢様。この傷口綺麗に真っ直ぐ切っているでしょう?」
「そうですけど・・・これがどうして人じゃ無いという証拠なんです?」
真っ直ぐ斬ろうと思えば斬れるのではないのかとレイに目をやると、綺麗な女の姿をしている彼はニヤリと笑う。
「確かに真っ直ぐ斬ろうと思えば斬れますがそれは魔法に限ってです。ですが魔法を使えば傷口に魔力が付着するはずが付着していない、であればこの傷は何かしらの得物で出来た傷になります。でもそうなると難しいんですよ。人間はどんなに殺す事に長けている人間でも感情を乗せているんです。大体主な感情といえば恐怖・躊躇・快楽・喜びといった感情、後は稀に悲しみでしょうか。そうなるとどうしてもこのように無機質な斬りつけ方は出来ないんです、どんな上等な獲物を使ってもね傷が歪になります。」
「そういうものなんですか?」
「はい、更に言えばどうしても生き物は一定の硬さではありませんから、一刀両断するつもりで最初から力を入れないと彼の傷のように血や骨で切れずに止まります。ですからこのような力の入れ具合だと途中で一度踏み込むでしょうけどその様子もないですからねぇ。」
“あの・・・幼い子に聞かせる話しでは無いと思うのですが・・・。"
「まぁ、あの子は特殊ですから問題ありませんよ。まぁただ全ての貴族の子供は血生臭い話しは平気だとは思って欲しくはありませんけどねぇ。」
ロコスの最もな意見にオーガは苦笑しながら返事をする。
ふんふんと勤勉に聞いているティリエスに、後ろ姿でも分かる程嬉々として傷口の特徴を話し始めた女装姿のレイに呆れ、思わず彼らの後ろで手を叩く。
「はいはい、脱線しそうなんでもう傷云々の話しは辞めてくださいねぇ。話しを戻しますよ?彼の話しを纏めると村人はいない可能性が大いにある。しかも死人が徘徊している可能性があって何処かに潜んでいるという事になりますかね?しかもそうなった過程が全く不明、という事ですねぇ。」
「オーガさんの言う通り纏めるとそうなりますね・・・でもそれって・・・。」
それだと、村やばくないか?っていうか教会も今より危なくなるんじゃない?とティリエスはあるゾンビ映画を思い出し、これから起こりそうな未来を想像する。
・・・逃げてぇなー。
率直な思いにすぐ行動しそうになったがグッとティリエスは我慢する。
「とにかく、今は情報を探していきましょう。ロコスさんの怪我も回復してもらわないといけませんし。」
ティリエスの言葉に3人とも納得した返事を返した。
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