私が聖女候補なんて世も末である。(真相を究明しようとすれば、きっと誰かは泣く羽目になる。⑨)
いつも読んでいただきありがとうございます。次回は5/30(木)投稿予定です。
「あ、そういえば彼女はお元気ですか?最近は顔を見ていませんが。」
話題を変えるため、ティリエスはここにいないクリメンスの事を聞く。
実はあれから夜になってから何度かあの場所へ行っても彼女には会えていない。
バルバラには彼女の分の食料を渡すように頼んでいるから困ってはいないだろうが、何度も会えずじまいだとだんだん心配になってくる。
もしかして、知らず知らずのうちに彼女に気に触るような事をしたのだろうか?
「あの子は最近何か調べ物してますよ。」
「調べ物?」
「はい、実はあの子の担当は書庫の整理なんです。書物の部屋の管理や書物の貸し出しも彼女の許可がないと貸し出せないんです。今回書物の調べ物を頼まれたんですけど、あの子だけしか本の場所や内容を把握できていないから時間がかかっているみたいです。この前、持って行った時にそう教えてくれました。」
「へぇ・・・そうなんですね。それは大変ですね、手伝えたらよかったんですけど・・・。」
バルバラの言葉に返事を返しながらティリエスは心の中で首を傾げる。
書庫の整理?確かにあそこの書庫はまぁまぁ整理されてはいたが、そんなに綺麗に片付いていたか?
何度か赴いたあの場。
確かにいつも暗がりで十分ともいえない暗がりの中で見ただけなので断言は出来ないが、決して綺麗に行き届いた空間ではなかったように思う。
寧ろ、長い間積もっていった埃に無遠慮に作られた蜘蛛の巣の糸まみれで誰もがあそこを利用しようと思わないはずだ。
彼女の言っているそれは本当にここの司祭達に任された仕事なんだろうか?
じゃぁ逆にもしそれが嘘だという事だとする。
そうなるとバルバラにも嘘を言っている事になる、しかも随分前から言ってきた嘘だ。でも見るからにバルバラに対して信頼している様子の彼女がそんな嘘を言ってきたということは、何か意味があるのではないだろうか?
「あ!そういえばティリエスさん面白かったですか?」
「え?何がですの?」
突然面白かったと尋ねられ、何の事が分からなかったティリエスは聞き返す。
「ほら、この前借りていた本ですよ。」
「・・・あぁ!あの本ですか。」
そういえば、クリメンスから渡された本の存在を思い出しティリエスは声を上げる。
「面白いというか、何というか・・・独特だったといいますか・・・。」
神側の子供達の怒りを買ってあの手この手使って恋仲の男を殺してやるという算段が書かれていたあの内容をどう受け止めればいいのか・・・。
本の内容を思い出し、ティリエスはしどろもどろに答えているとバルバラは首を傾げた。
「え?面白くなかったですか?」
「いやー・・・何というか、ドロドロというか。」
「どろどろ?ロマンチックですよね?」
「へ?」
ティリエスはバルバラの言葉に変な声をあげたのだった。
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