私が聖女候補なんて世も末である。(真相を究明しようとすれば、きっと誰かは泣く羽目になる。⑥)
いつも読んでいただきありがとうございます。次回は5/22(水)投稿予定です。
えーっと・・・あ、あった!これこれ。
見ずに手探りで探し出したティリエスは中身を取り出す。
ずるんと中から出てきたのは袋よりも大きい重厚な銀色のトランクだった。
ティリエスは慎重にそれを上に置くとレイラはしげしげとそれを見る。
「革のトランクではない、これは金属で作ったものですか?」
「厳密にいえば少し違うんだ、金属を含んだ素材と魔法特性練り込んだ物だと思ってくれればいいよ。だから見た目より軽い。」
「なるほど・・・普通のトランクより密封度が高そうですねぇ。」
「そうだね、防水加工もしてあるから中に入れた水気の多いものでも水漏れしにくいね。」
「へぇ・・・サイズがもう少し大きければ、私も欲しいですねぇ。」
「・・・・・あのぉ、因みにレイラさん。これで運びたい物ってなんですか??」
ティリエスはジィッと物欲しそうにしているレイを珍しく思い思わず聞くと、レイは一瞬だけ真顔になりニヤリと笑う。レイラとして女装している分、その仕草に妙な悪寒がした。
「そうですねぇ、分類でいえば生モノでしょうか。」
「ナマモノ・・・。」
「生モノですねぇ。意外と水分多いんですよ。移動中に漏れると・・・少々面倒なんでねぇ。」
・・・もう聞かないでおこう。
なんとなく、それ以上聞いたらダメな気がするとティリエスは口を閉ざしトランクの方を見た。
「まぁ、この中には生モノはありませんが、割れやすいものが入っているので。」
そう言いながら、トラックの留め具を外し開けると中にはガラス製のフラスコや試験管などが等間隔で隙間なく置かれていた。
「薬剤精製キットですわ。これをレシピ通りに材料さえ入れさえすればあとは自動で薬ができますの。」
「へぇ、便利ですねぇ。」
「えぇ、その代わり人の手ではないので効果は一定だから効能を上げることは出来ないのよね・・・うん、やっぱりか。」
そう言ってティリエスはある物を取り出す。フラスコだった。
ティリエスはそれを手に持ちながら角度を変えて底側をみる。
「名前を書く記入欄ができている。」
「と言うことはこれは所有者がいないと言う事になりますね。」
「えぇ、あの時と同じだわ。」
彼女達が人の形で目覚めたのは所有者の名を書いてからだ。
だからここに名を刻めばフラスコは人の姿になり目覚めるのだろう。
「目覚めずにこのまま使うのは?」
「・・・残念だけど、使えないわ。なんとなくそれは分かるの。」
沈黙を保ったままのそれにティリエスはそっと撫でる。
「生き物で例えるなら冬眠状態といえば良いかしら?死んではいないけど動きはしないというか・・・。」
「なるほど、所有者にならなければこのままという訳ですか。ですが拒みませんかねぇ?」
「それは大丈夫。」
ティリエスがはっきり言い切ったことにレイラは眉を顰める。
「どうして分かるんです?さっきまでそれが心配だったじゃないですか?」
「確かに。これを取り出すまでそうだったんだけど、これが取り出せたから大丈夫なんだよ。」
「なるほど、拒むなら外へ出てこないと言うことか。」
さらさらとティリエスが書き込むながらレイの方を向く。
「そう言うことだよ。」
途端、フラスコが宙に浮かび大きな光を放ち、2人は目を手で覆う。
部屋中真っ白になるほどの光を放ちそして収束しているのを感じながら、ティリエスはゆっくり目を開ける。
「・・・初めまして、と言うべきでしょうか?」
目の前に長い緑の髪を揺らす白衣を着た女性がそこに居た。
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