私が聖女候補なんて世も末である。(その行いは美徳だろうが己の意思がなければそれはただの苦行である。㉖)
いつも読んでいただきありがとうございます。次回は2/28(水)投稿予定です。
「ーーーというわけで今回の聖女様の件、私に協力してもらえないでしょうか?」
「え?・・・えぇ?!」
オーガと別れた後いつものようにこっそりと隠れて礼拝堂の外の一角でバルバラと会い、開口一番にティリエスはバルバラにそう言うと、言った言葉にバルバラは最初どういう事なのか分からなかったようだったが遅れて何を言われたのか理解し驚き声を上げた。
「バルバラ、ここは声が聞こえにくいとしても声を落としませんと。」
「っ!すいません、つい。」
掃除をサボっての隠れての談笑だったことを思い出しバルバラは口を両手で抑えながらあたりをキョロキョロする。
今はレイラも席を外していることもあり、ティリエスも大丈夫かなと心配になり、そっとそこから見える窓から礼拝堂の中の様子を伺う。
幸い彼女の声を聞きつけてここへやってくるような様子はなく、誰もが相変わらず乱れる事はなく振り当てられた掃除に勤しんでいる姿が見えた。
今の所私を尾行しない、監視もしない。反応見たくて敢えて認識阻害魔法使っていないけど・・・相変わらずだよなぁ、ここの人達。
そんな事を思っていると自分を呼ぶ声にバルバラの方を見る。
「あの、さっきのお話しですけど私には無理です。そんな、上の方々様の・・・出来ませんっ、無理ですっ。」
ブンブンと両手を振りながらティリエスの提案に消極的な態度のバルバラにティリエスは「違う違うそうじゃない」と彼女を制止させる。
「言い方が悪かったですわね。バルバラに全部お願いするわけではなくて、私に作法を教えて欲しいんですの。」
「え?作法・・・ですか?」
ティリエスはこくりと頷く。
「えぇ、そうなんです。上の人をお出迎えは何かと気を使う必要があります。でも私の基本は貴族としてのマナーしか知りません。でもここ教会は教会の作法がありますでしょう?」
ここの人達の行動を盗み見ているが未だ貴族としての作法で礼儀をする自分とは違う礼儀作法をしている。
根っからの宗教家族ではないので食事のお祈りでさえ簡素だった私にとって、修道女達の食事前の長いお祈りにカルチャーショック受けたほどだった。ただ食事するでさえこの認識の差である、ここの作法は皆無といっていい。
「挨拶の常套句は他の人が用意してくれるでしょうからそこはあまり心配していませんが、作法だけは付け焼き刃程度でもした方が良いともいまして。なのでその辺りをバルバラに教えてもらおうと思ったんですけどどうでしょうか
?」
「な、なんだ挨拶の仕方かと思いました・・・。」
明らかにさっきとは異なり安心した様子のバルバラを見ていると、恥ずかしそうに彼女が「読み書きが苦手で・・・。」と慌てた理由を顔を赤らめて打ち明けた。
確かに苦手なことをしてくれって言われたらそりゃああれだけ無理って言うか・・・言葉足らずでごめんよ。
「えぇっとティリエス様、それなら基本の作法でしたら私も一応できますが・・・あ、でも、目上の作法と一緒なのか自信がありません。作法の確認しようにも私は自分より上の方の、それこそ本来お迎えにあたる2桁の番号をお持ちのお姉様の事もよく知りませんし作法も遠目からしか見たことがありませんから自分の教わった作法で良いのかどうか自信がありません。」
成程、もしかしたら階級によっては作法がちょっと変わるかもしれないのか。
確か彼女の番号は444番、階級でいえば下の方だろう。彼女と同じだともしかしたら逆に失礼に当たるかもしれないのか・・・困ったなーどうしよう?
喋らず黙ったまま難しい顔をしているティリエスにバルバラはオロオロとしていたが、意を決して口をひらいた。
「あの!もしかしたら私の友達が力を貸してくれるかもしれません!」
「え?本当ですの?」
ここでバルバラの友人の存在にティリエスは目を丸くさせる。
1人でいる所しか見たことがなかったのでいないと思っていたのだ。
「そのご友人なら何とか出来そうですの?」
「はい、あの子は賢いですし細い作法は覚えていると思うんです。」
「それは助かりますわ。どうかそのご友人にお願いできませんか?」
ティリエスが渡りに船だと思って笑顔になっているとは裏腹に暗い表情のバルバラを見てティリエスは首を傾げる。
「あの!ティリエスさん、紹介する代わりに条件があります。それを了承してもらえるならあの子の元へ案内します。変なお願いだとは分かっているんですが・・・頷いてもらえないでしょうか?」
バルバラがこんなに緊張して聞いてくると言うことは・・・どうやらその子を会わせるのはよくないことなのか、それかここの人間にバレるとまずいという事だろうか・・・。
一瞬、ティリエスは迷ったがそれでもここにいる他の人間よりバルバラの方が信頼できるので頷いた。
「えぇ、貴女の条件に合わせますわ。ですのでその条件を教えてください。」
その言葉にバルバラはホッと緊張の糸を解いたのだった。
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