私が聖女候補なんて世も末である。(その行いは美徳だろうが己の意思がなければそれはただの苦行である。㉑)
いつも読んでいただきありがとうございます。次回は2/9(金)夕方ごろの投稿予定です。
ここに来るまでは当たり前のように感じていたモノが、今、目の前にいる。
彼女の無垢な笑顔がティリエスの心にヒットし、胸がジーンと温かくなっていく。
「あの、聖女様?」
その声にティリエスはハッとし隣に居る彼女を見る。
急に黙ったティリエスを変だと思ったのか444番と呼ばれている少女は小さく首を傾げていた。
ティリエスは小さく咳払いし、何でも無いと彼女に伝え、誤魔化すかのように目の前の草をむしり始めると彼女も草むしりを再開する。
「・・・あ、そういえばなんですが。」
黙々と作業していたがふと疑問に思った事を口にする。
「ここの修道女達皆さんはどこの出身なんですか?なんといいますか、皆さん毎日こう・・・キビキビ?という動きで何事も取り組んでいらっしゃいますしこう、連携がとれてますわね・・・。」
「えぇっと、私がここに来て少し前までは様々な地方の方もおられましたが、今は私含めここの修道女や見習いはここから見える村出身が殆どです。」
彼女が指さした方角を見て、オーガが先日まで滞在していた村を指していることにティリエスは理解する。
「あの村でもここ一帯は作物を作るのは難しい痩せた土地で鉱山として生計を立ててましたが、それももう随分昔の事で・・・教会に行って尽くせばここには食べ物がありますから。勿論女神様も信仰してますから進んでここに入りたかったんです。でも私、要領悪くて、だからいつもご飯が食べられなくてこっそり台所へ忍び込んで食材やパン・・・あっ。」
言ってから「しまった」と、彼女は口元を咄嗟に抑え若干青ざめたが、ティリエスは言わないから大丈夫だとそう言うと心底安心したのか、ほっと胸を撫でおろしていた。
「・・・家族と離れて、辛くありませんか?」
「・・・私の家族は父が1人ですが、負担になるのは嫌で・・・8歳からここに来てもう2年になりましたから悲しさも薄れました。父は行かなくても良いと何度もそう言ってましたけど・・・これでよかったんです。」
その決意にティリエスはそれ以上何も言えず、黙っていると少女が何かを思い出したようで口が開く。
「聖女様が誰かに似ているなと思っていたんですが、最初の頃親切なお姉さんに何度も助けられたんですけど。そのお姉さんに似ています。」
「え?」
「お姉さんは、何時も私達のような仕事が上手く出来ない子達の面倒を見てくれた唯一の人でした。そのお姉さんから上手く叱られないようにする方法とか、他の人に目立たないようにする方法とか、あとは台所の忍び方とか!」
ん?そういう事を教えてくれるのは逆に問題児なのでは?
懐かしそうに話す彼女の内容に、若干引っかかるものを感じたティリエスだったがとりあえず彼女に相槌をする。
「その方は今もこちらに?」
「ううん、そのお姉さんはここの出身ではない人だったので違う教会へ異動したと聞かされました。」
成程居ないのか残念。何かその人から話しが聞けそうな気がしたのに。
内心がっかりしていると、掃除の終了の合図に気がつきティリエスは立ち上がる。
「終わりましたし、帰りましょうか。」
「はい、聖女様。」
「うーん・・・今更だけどその聖女様と言うのはやめて欲しいですね。」
「え?でも・・・なんとお呼びすれば・・・・。」
「2人・・・このレイラと居る時はティリエスと呼んでください。私も貴女を名前で呼びたいですわ。」
その事に彼女は難色を示したが、悩んだ末に、わかりました、私たちだけの時ならと頷く。
「ティリエス様、私の名前はバルバラと言います。」
「よろしくね、バルバラ。」
そう言って差し出したティリエスの手をバルバラは嬉しそうに掴んで立ち上がった。
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