私が聖女候補なんて世も末である。(その行いは美徳だろうが己の意思がなければそれはただの苦行である。⑮)
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レイラと目が合うと、直ぐ様小さく首を横に振る姿を見て、ティリエスは眉間に皺を寄せ考え込む。
暫く黙ったままのティリエスだったが、大きなため息を吐いて項垂れた後オーガの方を見やる。
「・・・聞きますけど、この事お父様達は?」
未だ眉間に皺を寄せたままこちらを見ているティリエスに対しオーガも表情を変えず赤い眼でジッと彼女を見つめた。
「アドルフ卿は鋭い部分はありますけど、身内に甘い部分がありますからねぇ。貴女の本当のお力に気づくのにはまだ猶予はあると思いますよ。今はまだ他の子供より先見の明を持つ才女、で留まっています。」
「・・・・そう。」
眉間の皺をぐりぐりと自らの手で押し揉んだ後、ティリエスはわざとらしく息を吐いた。
「オーガさんは何時から気がついていたんです?」
「最初から、と言いたいところですが、私も分かり始めたのは貴女が領地を離れだした頃からですねぇ。はっきり言って貴女が居ると上手く行き過ぎるんですよ。それが当たり前のように感じ始めたことに違和感を感じまして。こう見えても幼少期、私は色々苦労してきましたからね。」
詳しい話は聞いたことは無いが彼のご両親の最期の話しを聞くに、彼の過去は壮絶な時間だっただろうと理解していたティリエスはさらりと重い思い出話しをしたオーガに思わず「うっ」と声を漏らす。
「極限な場所で生きてきたからなのか、なんとなく分かるんですよ。その人間の力量や思惑といったものが。だから貴女が何処かしら普通ではないと思ってました。あのシナウスという男もそう思ってますよ、規格外、その男もね。」
貴女、知識以外に魔法も本当はもう使えるんでしょう?
そんな彼女に対し気にせずオーガは話しを続け、レイラの方を見ると若干肩が震えるのを、未だに彼の女装に笑いが込み上げるのを我慢しているんだろうなと、彼の言葉を聞いて、最後に盛大な溜息を吐いたティリエスは観念した。
「そこまで存じていらっしゃるならもう隠せませんね。でも、私も話せる話せないことがあります。先ずは話せない事それに対し疑問に思っても詮索しないこと、口外も許しません。それをご理解出来るのであれば共有を許します。」
彼の条件に本来なら納得いかないであろうその提案に、オーガは嫌な顔をせず二つ返事で頷く。
考える間も無くすぐ様頷いた彼にティリエスは彼が裏切る事はないだろうと確信する。
それだけ、ここが異質ということを彼は感じ取り、そして自分だけではどうする事も出来ないと判断してのことだろうと、彼の様子からティリエスもまた理解する。
それに彼にはお世話になっているから、最悪自分の事がバレたとしても元々彼の身に危険が及びそうになるなら助けるつもりではいたし、問題ない。
その事は彼には告げず、ティリエスはレイラの方を見やる。
「ではすぐ様取り掛かりましょう。レイ、オーガさんの部屋に拠点の道を繋ぎますから一緒に行ってください。私はその鍵と扉が問題なく繋がるように拠点で待機しますから。」
そう言って例の鍵を取り出し、レイラの前に出す。が、何故かレイラは受け取ろうとはせず眉間に眉を寄せてむっつりと黙り込んでいた。
ん?なんで受け取らないの?ていうか早く取ってよ、伸ばした腕が痺れるじゃん。
レイラの様子が変だなと思いつつ彼が受け取るのを待っていると、自分ではなくレイラは何故がオーガの方を見る。
・・・え?何?なんでそんな顔してるの?
彼の顔を見れば何故か先ほどとは打って変わり憎々しげにオーガを見ているレイラに対し、私や特にオーガはその豹変した彼に対しギョッとしていると、まるで地を這うような絞り出した声でポツリと漏らした言葉が聞こえる。
「お嬢様と私の愛の拠点へ上がり込むなど・・・、殺してやろうかぁ、この男。」
・・・・・・・・。
「待て待て待て、拠点は拠点でも愛の拠点てなんなのそれ。ていうかそんな綺麗な顔した女性が言う台詞じゃありません。」
心で留めるつもりが思わず出た言葉で言い返す。
「え・・・まさか、子供相手に・・・「待て待て待て。そこも妄想膨らませないで、違う、違うから。」」
いつしかオーガもまたレイラの言動に微妙な顔をして2人を見ており、ティリエスは思わず突っ込みを入れたのだった。
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