私が聖女候補なんて世も末である。(敵地へ赴く為とはいえ、我々は世にも恐ろしいモノを生み出してしまった。②)
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レイア歴1013年4月初めーーー
多くの地方では雪は溶けもう春の陽気の気候になりつつだというに、未だ雪が残るルーザッファ領はここ最近慌ただしい日々を過ごしていた。
「・・・どうかしら?ティリエスちゃん。」
そう言って心配そうに伺うティリエスの母であるリリスは、目の前にいる娘ティリエスが何かに対し真剣な眼に思わずゴクリと唾を飲み込んだ。
ややあって、ティリエスは母に目を向けおもむろに口を開いた。
「お母様・・・完っ璧ですわ!」
彼女の満笑の笑顔にリリスは思わずホッと胸を撫で下ろした。
目の前には小さな服、赤ちゃんの服がそこにちょこんと机の上に2着分置いてあった。
服は上品な紳士服ではあるがネクタイの色はそれぞれ紫色と深い緑色のものであった。
その蝶ネクタイを手にティリエスは満足そうに微笑みを浮かべる。それは隣にいるリリスももう同様だった。
「何とか間に合ってよかったわね〜。」
「はい!でも正直言いますとお母様が2人のお披露目パーティーに、私とお母様のドレスの色と似た色のものを用意したいと行った時は間に合うかどうか心配しましたけど、間に合ってよかったですわ!トリシネートに頼まれた王都のカタログを持って帰ってきたのは正解でした。」
「うふふ、でも作ってみたら案外難しくて時間がかかっちゃったけどね。」
母のその言葉を聴きながらティリエスはもうそんなに時間が経ったのかと思い返す。実はアステリア達への挨拶そこそこに王都から領地へ帰ってきてから既に4ヶ月は経っていた。
当初の予定ではルーザッファの雪が溶ける今頃に自分達は帰省する予定だった。だが、例の教会の一件から大きく予定は狂い、すぐにここルーザッファ領へと戻る運びとなりこうして母と談笑を楽しんでいる。
まぁだけど・・・実はこれ、父の策略何だよね。
勿論、この事態の内容なだけにこの事を屋敷で待つ母や使用人達にいち早く伝えるべきという理由もあったが、狙いは別にあった。
領地の雪は豪雪地帯。
その為教会にはあの時3ヶ月後という約束だったが豪雪を理由にして父が言葉巧みに1ヶ月期限を延ばしたのである。
この辺りは長年、様々な場面で煮湯を飲まされ続けたルーザッファ家のならではの機転や経験によるものだろう。
後は教会に対しての意趣返しでもある。
実際、それに気がついた教会からの便りに一悶着あったけどそこは父の方が上手で一蹴した。流石父といったところである。
ただ逆に、母への説得の方が難しかった。
私が聖女候補として行くことになったことを母は最初容認できないでいた。
沢山泣かれて私も父もそれが一番困っていたが、風の便りで私の事を聞きつけたもう1人の祖母ジョアナによって諭され何とか落ち着きを取り戻しこうして今では少しだけぎこちないが笑みを浮かべて話しが出来るようになったのである。
「えぇ、これでドレスの色とネクタイで皆でお揃いしてあの子達のお披露目が出来るわね。」
そう言って双子がスヤスヤと眠る方へ目を向ける。
相変わらず双子は天使だとそんなことを思っていると不意に自分の名前を呼ばれたのでティリエスは母の方を見やる。
すると、リリスはギュッとティリエスを急に抱きしめたので驚きつつもティリエスは母を見上げた。
「・・・貴女の誕生会は来月だけど、貴女が帰ってくるまで待っているから。だから、早く帰ってくるのよ。」
「・・・はい、勿論ですわ。」
その言葉にティリエスは母を抱きしめ返した、
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