私が聖女候補なんて世も末である。(敵地へ赴く為とはいえ、我々は世にも恐ろしいモノを生み出してしまった。)
いつも読んでいただきありがとうございます。今回から新しい章となります。次回は11/23(水)投稿予定です。
ーーーーーーーーこれは、己の罪の記憶である。
レイア暦964年冬
質素な部屋の中で一人、簡素なベットで横たわる女性の横には一人の少年と一人の青年がそのやせ細った女性を見下ろしていた。
小さく呼吸しながらも時折誰かの名を呼び、弱い光を灯したその瞳で涙するその姿は儚げで何処かへそのまま行ってしまいそうになる姿に見える。
そう感じるからか、見下ろしている少年の顔はとても悲痛な顔をして女性を見下ろして小さく握り拳を作り黙っていた。
そんな少年の肩を青年がポンっと手を置く。
そして少年の耳元で囁いた。
“さぁ、今こそ修行の成果をみせる時です。貴方に宿る女神の、奇跡の力で女性を救うのです。”
その青年の言葉に少年は力強く頷く。
女性の前に両手をかざし目を閉じる。
一度だけ大きく深呼吸した後、少年は手に魔力をのせ呪文を唱える。
白い光、聖魔法の特徴であるその光が一面に広がった。
少年は魔法の光が弱まると閉じていた目を開ける。
そこには先ほどよりも力強く目を開いて天井を見つめる女性の姿がその目に写る。
魔法を放つよりも呼吸も普通の状態となり瞳から涙を流すこともないようだった。
女性の姿を見て青年は興奮した様子で少年を抱きしめた。
“素晴らしい!成功だ!これで多くの人が救える!”
少年はただ抱きしめられながら青年のその言葉を耳にする。
だが少年はずっと目の前の女性、己の姉の姿を見つめ続けた。
先ほどまで灯っていた弱い光が宿っていないただ天井を見つめ続ける大きな瞳を、ただただ少年は見つめて続けていた。
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「このような場所でお昼寝ですか?イーチャ司祭。」
誰かの声にパチリとイーチャは閉じていた目を開け、ゆっくりと頭を上げた。
見上げるとこちらの見下ろしているマルフェの姿が写り、同時に鳥のさえずりや心地よい風の音が聞こえてきたイーチャは、自分が今いる場所を゙思い出す。
「・・・おぉ、マルフェ。儂はここで眠りこけていたのかの?」
そう言ってイーチャはゆっくりと凝り固まった身体をほぐしながら、いつの間にか自分が座るベンチの上には自分の隣に置いた書物が表紙を閉じたまま居座っており、それを横目に見やる。
「うむ・・・、儂も歳じゃの。いつの間に眠りこけたのか覚えとらん。嫌じゃなぁ歳を取るのは。」
「ふとした居眠りに歳は関係ないと思いますよ?ただ、まだ春先なんてすからいくら暖かくなってきたとはいえ此処でのうたた寝は関心しませんね。」
風邪を引きますよ?とマルフェは声をかけながらその書物を取るとそのままイーチャの隣に座り込む。
そしてマルフェは外の景色を見ながら口を開いた。
「また、あの夢を見ていたんですね。」
その言葉にイーチャはすぐ、何のことを言われたのか理解し一瞬だけ真顔になったが力弱く笑う。
「あれは、儂の記憶じゃ。何度でも思い出してしまうんじゃよ。」
まるで仕方ないと言うように言うイーチャにマルフェは何も言えず言葉を飲み込んだが、また口を開いた。
「そうだ、決まりましたよ。ティリエス公女の来日が。」
その言葉にイーチャは一度目を閉じ、そしてゆっくりと目を開ける。
「そうか・・・長かったのぉ。」
それだけイーチャは呟いた。
いつも読んでいただきありがとうございます。