物語の主人公は新たな課題に頭を悩ませる。(パン職人は探せた!だがまだまだ主人公の課題は終わらない!?⑥)
いつも読んでいただきありがとうございます。次回は申し訳ありませんが6/12(月)投稿予定です。次回から新章に入ります。まだ王都滞在中のお話になります。
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「・・・・ん?」
「どうかされましたか?お嬢様。」
「いや・・・今さっき一瞬だけ寒気がしたような・・・あれ?そういうレイはもう良いの?こっち来て。」
突如として現れたアルシュターの存在をどう説明すればよいのか考えていると、先程まで繰り広げられていたエヴァイス達のやりとりを間近で見ていたレイがいつの間にか自分の傍に居たことに素直に驚いていると、先程の質問にニヤリと笑う。
「えぇ、随分と見ていて飽きなかったのですが学ぶことは学びましたので、もうよろしいかと。」
学ぶ・・・あのイチャイチャの一部始終を見て一体何を学んだのか・・・聞いてみたいような、聞いちゃだめなような・・・。
レイの満足そうな様子を見て、本人が納得しているから良いかとティリエスは自己解決をしているとエヴァイスから声がかかったので何だと振り向く。
「ティリエス様、一つお願いがあります。あの子と私たちの事です。」
彼にそう言われあの子、イストに抱かれているアルシュターの方を見やる。
「何か不都合なことがありますか?」
「そうではなく、実は私達の結婚を認めてもらった時決めていたことがあったんです。」
「決めていたこと?」
エヴァイスは不思議に首を傾げるティリエスからイストを呼びイストもアルシュターを抱いたままこちらへやって来る。
そしてティリエスの前で2人は跪く。
「どうか、私達を北の領地へ住まわせる許可をお願いします。そしてできればあの子も私たちと一緒に王都へ離れることを一緒にお願いして欲しいのです。」
ぺこりと頭を下げエヴァイスの申し入れにティリエスは目を丸くさせる。
「私達の結婚、私の眼の事、兄の脚や魔塔に住む皆の身体の事。貴女は私達や周りの人に幸福と希望を与えてくださいました。この恩は一生の恩です。私も・・・イストも私達が出来る精一杯の事をしたいのです。この教わった技術で私達は恩をそして人々を幸せにするパンを目指していこうと思っています。」
「私からもどうか、お願いします。」
「ど、どうか2人とも顔を上げてください、お願いします。」
イストもまたティリエスに頭を下げてきたので2人には顔を上げてもらうようにお願いをする。
頭を上げた2人と目が合う。
「それは嬉しいことですけど、私の家の領地だと王都はだいぶ離れています。ご両親とすぐには会えないというのは・・・。」
正直いうと基本人口が少ない我が領地にとって人が来ることについては大賛成ではあるが・・・・。
チラリとティリエスは彼女の父親の方を見やる。すると、エヴァイスの話しを聞いて腕を組んで黙っていた彼女の父親が何かを決めたように腕を解き口を開いた。
「決めた。公女様、わしも北の領地に住まわせてくだせぇ。」
「え?!」
「お父さん?!お父さん本気?!ここの店はどうするのよ!」
誰もがその発言に驚き彼を見る。
イストの言葉にチラリと彼女の方を見やる。
「弟夫婦にいる弟子に引き継がせれば良い、弟夫婦らもちょうど独り立ちを勧めるつもりで相談受けていたし。俺の地区は治安も良い区画だ。独り立ちにはもってこいだ。それに、俺もこんなパンを考えちまう公女様の領地にも興味が沸いたんだよ。」
そこまで言って今度は自分の妻に目を向ける。慣れているのか仕方ないわねというように妻はただ微笑んで頷いた。
「貴方がそこまでいうなら私は反対しませんわ。ただ・・・。」
「分かってる、あいつの墓参りだろう。俺も今度は一緒に行こう。」
「・・・ありがとう、あなた。」
その言葉に深く笑みを浮かべた彼女に気恥ずかしいのかそっぽをむく。
ティリエスはやりとりと見つめて、それならと声を上げた。
「皆さんが良いのなら私達は大歓迎ですわ。」
ラッキー!頼もうと思っていたパン職人ゲット!これならもうギリアにも催促されないわ!
頼もうと思っていた職人確保にティリエスは内心ガッツポーズをしていると、「あ!」と誰かの声が響く。
見ればエルアルが何か思い出した様子でこっちへゆっくりと歩いてきた。
「北の公爵で思い出したんだが、そういえばあんた宛に手紙が届いていたぞ。」
「私宛にですか?」
「あぁ、ご両親の手紙は離宮に運ばせたが、一つこんなものがあってな。」
そう言って彼は自分のズボンのポケットに手を突っ込み何かを取り出す。
なんだと身を乗り出すように見れば、そこにあったのはクシャクシャの丸まった紙があった。
「一応魔力検知とかしたけど問題ないただの紙なんだがこうやって送られ来ててな。」
「・・・・なんでしょうね?」
そう言われてエルアルから受け取り広げる。
何か悪戯だろうか・・・げ!
思わずティリエスは固まり周りの皆も不思議そうにする。
一番気になったエルアルがそれを覗き見する。
「なんだこれ・・・蹄の形か?」
そこにあったのは文字ではなく一つの蹄だった。見るからして馬の蹄だろう、インクを塗って馬が紙の上を踏んだ様な跡がそこにあった。
「ただ・・・なんだろうな、なんかこうグリグリと踏み潰す感じの踏み方だな。そのせいで紙もぐしゃぐしゃだし・・・なんだかこう恨みとか怒りが見えるっつーか・・・。」
「・・・・・エルアル卿、言い得て妙ですわ。」
彼の言葉にティリエスは一頭の馬の存在を思い出し体を震わせた。
やばい、あまりに忙しくて返事とかしてなかった。
彼の頼み事をすっぽり忘れていたティリエスはどこか遠くを見つめたのだった。
いつも読んでいただきありがとうございます。




