物語の主人公は新たな課題に頭を悩ませる。(パン職人を探せ!そして駆け落ちを阻止せよ!㊿と⑤)
いつも読んでいただきありがとうございます。次回は5/22(月)投稿予定です。
「俺が騎士嫌いと分かってて奴らの所有地を使ってまでここに呼んだ理由が嫌がらせじゃねぇというのは分かってんだよ。でも分かるのはそれだけだな・・・どうしてこんなことをしたんだ?」
気を許したのか腹を割って話そうと思ったのか、ティリエスが貴族とわかった上で砕けた物言いをする彼にティリエスは食堂の周りを見渡す。
「貴方はこの景色をどう思いますか?」
「どうって・・・。」
彼女の急な質問に最初は考える事を直ぐに放棄し分からないとそう言おうとしたが、いつの間にか真面目な顔をしてこちらを見るティリエスに思わず彼は口を閉じる。
そして、もう一度ジッとここの光景を見つめる。
楽しげにパンの種類を選びそして談笑を楽しみながら食事をする人々。
「・・・・俺には難しいことは分からん。だがここにいる奴らの顔は笑顔が多い。」
「えぇ、そうですね、その通りです。そしてここの光景はまだ夢物語に近い理想そのものです。」
「あの、公女様夢物語に近いというのは・・・?」
イストの母親もまた気になったのか質問する。
「実際、お客にこのスタイルでお店を出すとどうなります?」
「無理だな。」
イストの父親は即答する。
「王都でも治安が悪いというのに、商品を選んで持って金を払わず盗んでいく輩が増えるだろうな。」
「その通りですわ。」
ティリエスは正解とばかりにすかさず言う。
「今このようなお店を構えた所で今のままでは格好の餌食となり叶わないでしょうね。ですから・・・騎士という護る立場の人々が必要になるんです。」
イストの父親の目が一瞬だけ鋭くなる。ティリエスはその鋭い目に怯むことなく気にせず話し続けた。
「騎士という存在が治安を作るきっかけをつくりそして平穏を維持するために彼らは居るのです。確かに、貴方の見た騎士も少なからず存在するんでしょう。それに目を瞑れとは言いません、静観しろとも言いません。けれどそんな騎士達だけという風にどうか決めつけないでほしいんです。」
ティリエスは真っ直ぐ彼にそう言い切りジッと彼を見続ける。
彼女の眼に彼は思わず視線をいつの間にか両手を組んでいた自分の手に視線を落とした。
「・・・・俺は・・・。」
それでも彼女の言葉に反論しようと彼は頭の中で考えていると、その手によく見知った手が添えられ弾かれたように彼は隣にいる自分の妻の方を見た。
「あなた、もういいんです。もういいんですよ。無理に許さないようにしなくても。」
「・・・おまえ。」
何か言おうとした彼の代わりに彼の妻がティリエスに頭を下げた。
「ごめんなさい、この人がこんなに騎士の事を目の敵にしているのは私のせいなんです。」
「お母さん?」
イストはどういうことかわからないという表情で母親を見つめていると母親は少しだけ悲しげに笑い、そして何かに気が付いてイストの後ろを見て口を開く。
「エヴァイスさんもどうかそのままで聞いてください。」
驚いて振り向くと自分の後ろに彼がいると分かりイストは少しだけ涙を滲ませたがエヴァイスが眼で何か伝えると彼女は頷いて前を向いた。
「聞かせてお母さん、一体何があったの?」
娘の言葉に彼女は昔の事を思い出すようにゆっくりと口を開いた。
いつも読んでいただきありがとうございます。