まさかこんなことになるなんて誰が想像できますか?(大好きな皆に恩返ししよう、そうしよう。⑤)
「あ、すみません。少し材料と道具を用意してもらいたいのですが、大丈夫でしょうか?」
「・・・え?子供がなんでこんな場所にいるんだ?」
厨房に早速行ってみると、丁度休憩から帰ってきたのか入り口の近くにいた料理見習いの制服を着た青年を見つけ、私達は早速彼に声をかけた。
「実は作ってみたいものがあって、ここに貯蔵している材料と調味料があったと覚えておりましたので、やってまいりました。」
「はぁ?材料?」
見習いの青年は私達子供の言い出す要求に眉を顰めた。
そして、子馬鹿にした態度で私達を見る。
「悪いけど、保管しているものは勝手に使えないことになっているんだ。子供遊びにそんなもったいないことは出来ない、無理だ。それにここはいつも忙しいんだ、さっさと家に帰れよ。」
材料などの提供を断られ、そしてまさかの邪魔扱いし上の階へ戻るように言われた。
ええぇ、ここに住んでる令嬢なのになんでこの仕打ち・・・・っしゅん。
「っ!ティリエスお嬢様?!どうしてこのような場所に?!」
「え?料理長??なんでそんな子に頭下げる・・・・ひっ!」
まさか開始早々私達が門前払いされるとは思わなかったので私がショックがっていると、料理長が私達の姿を見つけ何事かと思い仕事を中断してやってきてくれた。
何か青年が言いかけていたが何故か黙ったままになった青年を少し不思議に思いつつも、自分の事を優先したい私は青年そっちのけで料理長の彼にお願いすることにした。
当たって砕けろである。
「ギリア料理長。申し訳ありません忙しいところ、実はお願いがありまして―――。」
私と料理長は顔見知りだったので少し安堵し私は仕事の中断させたことを先ず謝罪し、もう1度同じ内容のお願い事を彼に話した。
料理長は私の話しを聞いている間ずっと沈黙を保っていたので、また断られるのかと少しビビっていたが、彼は私の話しを聞き終え何も追及せず彼は私の願い通りに材料と道具と更に厨房の1番端の場所でするように場所の提供もしてくれた。
「本日採れた卵と牛乳が一番良質なものですのでこちらをお使いください。あと、私も気を付けますが、私の知らない場所で怪我をされてはいけないのでどうかこちらで作業お願いいたします。何か手伝いが必要な事があれば遠慮なくお申し付けください。あと・・・・申し訳ありませんが、私はもう1つ重要な仕事が出来ましたので1度これで失礼します。」
「え?、ええぇ。ありがとうございます。ギリア料理長。」
私は彼のその言葉に頷くと彼は綺麗に一礼して、いつの間にか料理長の後ろに移動して、何故か表情が固まったままの青年の首根っこを乱暴に掴み、これまた青年を乱暴に引きずったまま仕事に戻っていった。
「料理長・・・なんだか怖い顔してたけど、私ここに来てまずかったのかしら。」
戻り際の彼の様子がいつもより厳しい表情に見えたので心配になってアイルに言う。
「ティリーのせいじゃないよ。怒ったのは彼の教育がきちんと行き届いてなかったことだよ。だから気にしなくていいよ。」
と、今まで黙っていた彼は何時ものようにほんわり何という事もなく私にそう言って、材料を持って厨房の中へ入っていった。
さて、ちょっとしたトラブルがあったけどここは気を取り直して。
辺りは忙しく仕事をしているそんな隅っこに移動した私達は、材料を確認していると手を洗い終えたアイルに声をかけられる。
「さてティリー、僕は何をしたらいい?」
「えっと、実はこの2つはたくさん混ぜ合わせないとうまく1つにならないのでお兄様には道具を使って頑張って混ぜてもらいたいんです。」
微笑んで私を見ているアイルに私はそうお願いをする。
「成程、僕は動力源だね。いいよ、じゃぁまずどっちから作る?」
「ではまず卵の方からしていきましょうか。」
私はボールの中に卵を1つ割りまず塩を小さじ1杯より少し少なめにお酢は大さじ1杯を加えて泡だて器で軽く混ぜてから、私は1度舐める程度の味見をする。
塩はこれでいいけど・・・お酢がちょっと足りないかな。
お酢を先ほどより半分の量を加えまた味見して問題ないのを確認した後、私は目分量で測り終えた油を手に持つ。
よし、ここからは混ぜるのバトンタッチだ。
「ではお兄様、ここから頑張って頂きますね。先ほどより素早く混ぜて下さい。」
「これで混ぜるんだね、うん分かった。」
アイルはリズム良く泡だて器を使って混ぜ始めたところで、私は少しずつ油を注いでいく。
私の今の身体では油が入った器は十分に重たいが、ここは踏ん張らねば。
誤って沢山入れてしまえば分離して台無しになるのを注意して私は少しずつ注いでいった。
「なんだか液体が白くもったりしてきたね。」
暫く混ぜていると、アイルも混ぜていく内に中の存在が変化していくのがわかり不思議そうにみつめる。私も彼の隣からひょいっと中身を覗き込んで確認した。
油の量が多いと硬い仕上がりになるから、それも気にして入れていたから少しずつ入れたのは大正解だったみたい。
でも・・・お兄様、あれだけずっと混ぜてたのに息切れしてないなんて・・・やだ本当に9歳児?
大人でも疲れる工程を汗1つかくことも息切れして疲れる様子が微塵も感じられない彼に驚きつつ、私は彼に混ぜることを止めてもらった。
出来た・・・紛うことなきマヨネーズだ。
このまま味見するのも良いが、やはりこれは何かと一緒に食べるのが一番。
私は逸る気持ちを抑え、アイルに出来上がったマヨネーズを瓶に入れて貰いきっちり蓋をしてもらった。
「ではお兄様、次は牛乳の方をつくりましょうか。こちらは恐らく作るのに先ほどより時間がかかると思いますのでその間に少し野菜を下茹でしてもらいましょう。」
次はバターだ。
バターを作るときは牛乳の中に塩を加えてひたすら振る、振動を与え続けて固まったものがバターになる。
ただ、普通で作ろうとすると難しい。
乳脂肪分が多く含んでないとなかなか出来ないからだ。
でも、ご心配ご無用。
ここの牛乳は味がとても濃いのだ。私の舌の感覚だが、恐らく領地で採れる牛乳は脂肪分が高め、特に冬の時期の牛乳は生クリームに近い味にまでなる・・・ということは、バターが出来る脂肪分は軽く超えていると推察していたのだ。
今度は大きめの瓶の半分まで牛乳を入れ塩を小さじ1杯入れしっかりと蓋をしてもらう。
「では、お兄様これを縦でも横でも構いませんのでいっぱい振ってほしいのです。」
「わかったよ、これはちょっと骨が折れそうだね。」
「ええ、ですので私も交代でしますので疲れたらおっしゃってくださ―――。」
私が言いきる前に彼は無表情になって一心不乱にその瓶を振り始めた・・・・ものすごいスピードで・・・。
本当に・・・彼は9歳の子供なの、でございましょうか・・・ホホホホ、ホ?
思わず心の声が敬語になるほど、私は唖然として彼のその動きを見続けたのだった。
「あ、本当だ。ティリーの言うとおりにしたら何か塊が出来たよ。」
暫くして、アイルはこれまた特に変わった様子を見せず、瓶の中身をじっと見つめる。
見てみると瓶の中には大きな白い塊と混ぜ切って分離して残った牛乳がそこにあった。
もう出来たんかいっ!早いなっ!
暫く、彼の瓶を高速に降っている姿を見ていたが試食にはゆで野菜が良いだろうと思い、正気をもどした私は、ここで働いている者に色んな野菜を湯がいてもらっていたのだが、全くの想定外のバターを作った彼の速さに私は思わず彼に突っ込みをする。
普通大の大人でも20分は少なくともかかるのに!なんで10分?!早すぎ!
「・・・あ、もしかして、牛乳の部分は捨てた方が良いのかな?」
「あ、お待ちくださいお兄様。」
彼の呟いた言葉にハッとし慌てて私は白いティーポットと少し深めの白いお皿を彼の前に設置されていた質素な木製のテーブルの上に用意する。
「お兄様、ここにその残った牛乳とお皿には塊を入れて頂けますか。」
「え?ティリ―。塊が本命なのはわかってたけど、これ捨てずに飲むの?大分色もとろみも薄くなってサラサラしてるけど。」
「はいっ!」
アイルは瓶を傾けながらしげしげと見つめるそんな彼に私は思いっきり頷く、と丁度野菜がゆであがったと声がかかったので私はにっこりと笑った。
「ではお兄様、これが食べれるかどうか次は実食して試してみましょう!勿論飲み物もです!」
未だしげしげと見るアイルに私は元気よくそう提案した。
いつも読んでいただきありがとうございます。
裏設定;青年が途中で静かになっていたのは、アイルが思いっきり圧を放っていたからです。彼女が一生懸命料理長に話している間、彼はずっと青年を無表情で睨み側に乱暴に積んであった硬いとされるクルミの殻を素手で粉々にしては次のクルミを素手で割るという様をずっと見せつけていました。そんな自分より幼い子に恐れた彼は料理長の後ろに隠れていましたが、自分の恩人の方の娘に不遜な態度を見せた青年に、彼もまた静かに怒っており、そのあとの叱責は2時間も及んだそう。それ以降彼の言動や行動は大分なおされたそうです。あと、アイルに対しては彼一番のトラウマになりました。