まさかこんなことになるなんて誰が想像できますか?(大好きな皆に恩返ししよう、そうしよう。③)
6/26;文章を訂正しましたが、話しの流れに変更ありません。
昔の事を思い出して決意を新たにしているとドアのノックの音が聞こえ私は我に返り、別の用意していた子供向けの本を持ってちょこんと座り直し、持ってきている毛布をガバリと被る。
子供向けの本は勿論、カモフラージュである。
「あ!ティリーこんなところにいた!」
「アイルお兄様?」
入ってきたのはここにいるはずのないハーティス大叔父様の孫アイルだった。
アイルと私の家は大分離れているのでおいそれと遊びに来るのは難しいからだ。
・・・あ、そう言えば今日遊びにきてくれる日だったことをすっかり忘れていた、いっけねー。
ここら辺りの真冬の時期は一段と厳しい。
なので、騎士筆頭のメドイド伯爵家お抱え騎士団の中でもエリートに属する団員達のみ、この時期になると厳しい訓練が出来る我が領地で野営訓練を毎年行うのだ。
因みにその他の騎士達はこの期間はいつもの訓練場で当主であるハーティス大叔父様の元で基礎体力諸々鍛えられるのだそうだ。・・・うっへー、大変だ。
この前のアイルお兄様の手紙の内容に騎士たちの野営訓練の時一緒に行って我が家に遊びにいくとそう記されていた。
覚えていたのは覚えていたがつい調べものに没頭してしまって、頭の隅に追いやられていたのだ。
彼を改めて見ると出会った頃より大分背が伸び、より美しさに磨きがかかっている。
神秘的な眼も相変わらずだ。
何時か彼という美しい存在で私の目が潰れたらどうしようかとちらりと心配になる。
そうそう、彼とは最初こそ最悪な出会いであったがそれは初めだけで今は超仲良しです。
「寒い場所で本なんか読んで!風邪なんか引いたらどうするんだ!」
暖炉を入れてない部屋で読んでいたことがバレて、アイルに怒られる。
「大丈夫よ、お兄様。寒くならないように毛布と中に湯たんぽ入れて暖かいですから。」
すっぽりと被っていた分厚い毛布を捲り中にある金属製の湯たんぽを見せる。
それにこっそりですが、2年前より魔力操作が断然上手くなったので火属性の魔力を体内に巡らしているので寒くないんだよねー。
アイルは私の手を握り、暖かい手ということが分かるとほっとした表情をみせる。
「でも、ちゃんと暖炉は入れないと。」
「でも、お兄様。我が家は少しでも節約しないと。」
「・・・それ、アドルフおじ様には絶対言わないであげて。きっと泣いちゃうから。おじ様は君の身体が凍えることになるならじゃんじゃん暖炉の火の魔石使おうとすると思うからね。」
優しくそう言われたので、私も口を噤む。
父ならやりかねんとすぐに想像がついたからだ。
「さぁ、父上も君の両親もあっちで一緒に暖をとっているから、行こう?」
アイルは机にさっと毛布をたたみ湯たんぽを毛布の隣に置くと、私の持っていた本を持って私の手を引く。
私は素直に彼に手を引かれながら一緒に歩き出した。
「最近ティリーは特に何か変わったことはなかった?」
「はい、変わらず過ごせました。アイルお兄様はお手紙にもありました、秋の王宮のパーティーはいかがでしたか?」
現在アイルお兄様は9歳になったばかり。
5歳になった貴族の子供達は親に連れられ、王宮へ集まり同世代の子供たち同士交流会へ赴く。
つまり最初の顔合わせである、この家の子供はこの子か・・・へーってな具合に。
その後は、この集まりを皮切りに年に数度様々なところで親子で交流会という名のお茶会が開かれるのである。
そこで友好を温める子もいれば、上下関係をつけたがる子、更には殺伐とした様子で観察している子もいる。
因みに彼の場合当てはめると一番最後になる。
理由は―――。
「あぁ、あのつまらないパーティ?母上の事を悪く言う子供がいたから大変不愉快だったよ。でも・・・ちょっとだけ注意は出来たから溜飲が少しだけ下がったかな?」
とまぁ、親に解らない場所で結構やんちゃをしているようです。
彼のお母さん、リーテルさんは市井の育ちと他国の人間という理由で以前から伯爵家に対して良く思ってない人間、そして何より女たちのやっかみで陰口を言われているそうだ。
後のハーティス大叔父様の逆鱗事件で昔に比べ大分見られなくなっていたが、どうやら親から聞いた悪口を今度は子供の口から・・・そしてその悪意の言葉は同じ子供の彼が全て聞いている状態だ。
そして、恐らくだが秘密裏にちゃくちゃくと彼は彼なりのカースト制度を作っているに違いない・・・しかも極端なやつ。
彼の家族や家族ぐるみの私達にはとても優しいのに・・・いや、悪口をいう子が悪いのだ。
お兄様は悪くない。うん。
「本当に、あと2年もすればあんな場所をティリーも体験せざるを得ないなんて・・・僕、心配だよ。」
「お兄様、大丈夫ですわ。殿方の様にやんちゃは醜聞になりかねませんが、他の子に言葉遊びをなげかけられたら完勝できるよう着々と・・・言葉遊びは勝つ様に勉強していますもの。」
「そうなんだっ!流石ティリー!やっぱり君は凄いな。僕も見習わないとっ!」
到底子供らしからぬ話しの内容をあどけない笑顔を振りまきおしゃべりする子供2人は、当初の目的の部屋の前につくと自然と会話を止め、ノックして中へと入っていった。
「お、来た来たティリエスちゃーんお久しぶり~。」
「お、おいっお前!毎回毎回いい加減敬語言え!せめて初めだけでも!」
フランクに話しかけてきたのはグリップさん、そして、私が初めて出会ってから相変わらず彼に小言を言うのはヴォルさんだ。
この2人も変わらず安定なボケと突っ込みである。でも、いつもこんな風な会話だが彼らはエリート騎士団の中でも序列5位と8位でかなり凄いらしい。
「お久しぶりです、グリップ卿もヴォル卿も楽に話していただいたほうが私も嬉しいのでそのままのお話しでお願いします。」
「ほら~、流石ティリエスちゃん。良い子だよね~。」
「お前・・・こんな小さな子でも礼儀正しく出来るんだからお前も見習えっ!!」
ご満悦なグリップに怒りを爆発させるヴォルに、私の両親は微笑んで見ており、反対にラディンはこめかみに手を当て重い息を吐いていた。
「それはそうと、着いて早々訓練へ向かう予定か?」
「はい、アドルフ卿。休んでいては訓練になりませんから、このまますぐに野営訓練場所へ出発します。」
「えぇ~折角ティリエスちゃんと一緒に遊ぼうと思ったのに。」
「お前っ遠足じゃないんだぞっ!」
後ろでぎゃいぎゃい言っている2人をラディンさんは放っておいて、アイルを見る。
「アイル、また後で。一番の獲物と一緒に帰ってくる。」
「はい。父上も気を付けてください。」
ほんの少しラディンさんは目元を緩めた後すぐに騎士としての顔になり、挨拶をそこそこに2人を引きつれ出て行ってしまった。
私はそんなやりとりを見つめながら、アイルの顔を見る。
そして、その顔を見るたび私は同じ言葉を口にする。
「アイルお兄様は本当にラディンおじ様が大好きなのですね。」
「・・・・うん。僕が最も尊敬する人だから。」
目をキラキラ輝かせて彼もまた同じ受け答えを私に言うのだった。
いつも読んで頂きありがとうございます。
裏設定;彼が一度他の子に殴ったことが知られ父含めグリップとヴォル3人に何故バレないようにしなかったんだということで怒られています。(事を起こした理由や勿論アイルを信じているからです。)体面でてっきり怒られるかと思っていた彼は最初はびっくりしたものの、それ以降は彼らから『やり方』を教わることにしたそう。グリップからはより痛みが強まる関節の扱い方 ヴォルからは相手の気持ちを操る話し方 そして父からは相手に圧をかける魔力操作基本の拳の扱い方等々。それらを彼は忠実に覚え込み、今では事の匙加減が出来るようになったそう。
(やだ、こんな9歳児・・・怖い。)