物語の主人公は新たな課題に頭を悩ませる。(パン職人を探せ!そして駆け落ちを阻止せよ!③)
いつも読んでいただきありがとうございます。次回は1/13(金)投稿予定です。
「アパレル関係の仕事を?」
「そこまではまだ難しいですけど、ゆくゆくはという考えは私にはありますわ。如何でしょうか?」
ティリエスの言葉にアステリアは思案顔になり黙り込む。そんな彼女の様子を見ているとティリエスの傍からほんの少しの咳払いが聞こえそちらを見れば、困ったような表情のティキと目が合う。
「ティキどうしたの?」
「申し訳ございません、お嬢様。あの“あぱれる”というのは?」
彼女の質問にティリエスは納得する。
「アパレルというのは、あちらの世界での言葉で衣服関係の仕事のこと、既製品の衣服関係を売っていた業界のことを指すのよ。」
「衣服の既製品をですか?」
ティキが驚くのも無理はない。何せこの世界の貴族は既製品ではなく懇意にしている衣服店でのオーダーメイドが主流だ。なので既製品という概念すらない。
因みに一般人は既製品ではなく中古品の衣服を買うか布を買って自分で仕立てるか知り合いか店で頼むこともあるらしいので馴染みのない言葉だろう。
「ごめんね、アステリアと話しを進めるとどうしても向こうの言葉も出てくるから。分からなかったら遠慮なく聞いてね。シナウスやレイもよ。」
「はい、畏まりました。」
「えぇ、お嬢様。後でグリップにも言っておきます。」
レイの返事に「お願い。」と言っていると、アステリアが顔を上げた。
「確かに魅力ある話だわ。でも、正直うまくいかないんじゃない?」
あれ?意外と否定的だったな。
予想に反しての言葉にティリエスはアステリアの方を見ると彼女は別に悲観しているわけでもなく冷静な表情でこちらを見ていたので理由を聞く。
「一度目では私、服に関しては気を配れない立ち位置で正直流行に乗れなかったわ。そんな体験をしていないのにここで服を売るような事業、うまくいかないわ。それに、私がもし発揮できるというなら向こうで使用した道具や材料を用意しないといけないけど今の水準だと決して簡単ではないはずよ。」
「成程、確かに一からとなると難しいし時間も惜しい・・・私が言っているのは何も一からさせようとかそういう話しではなくてもっと簡単な立ち位置からよ。」
「それって?」
「デザイナー。」
「はぁ?」
アステリアは今度は素っ頓狂な声をあげるとティリエスに対し胡乱げな目で見た。
「そんな一朝一夕でそんな立場になれるわけないでしょ?何言ってるのよ。」
「いいえ、なれるんですよ貴女なら。だって王女なんですから。」
ティリエスの言葉の意味にぴたりと口を閉ざしたアステリアに話しを続ける。
「着飾るというのは優位な人物、位そしてお金を持っている。それは貴族に当てはまり最上位である王族が一番それらを目にする機会がある。そして貴女には向こうでしてきた服を己で作るという独学もしていた。その時の経験も持っている貴女だから出来るわ。」
大きな権力からの言葉には逆らえない、ましてや彼女なら。彼女がこうしろといえば職人は何も言えずに従うだろう、いやそれが職人達によって大きなアイデアだと思わせればこっちのもんだ。積極的にアステリアのアイデアのあるドレスを作ろうを思うはずだ。
それに作った商品は王女が袖を通す。大きな広告塔ができあちらにも旨味はあるはずだ。
「・・・成程ね、貴方が言うことは理解できたわ。所で、ここまでして貴女が私に衣服に対して提案した理由はなに?」
「え?勿論、今の服がゴテゴテで今ひとつなのに変に重いドレス着るのが嫌だから?」
ティリエスの言葉にアステリアは声を立てて笑った。
「そんなことだろうと思ったわ。だから私にさせようとしたのね?」
「えぇ、何事も適材適所ですわ。それに私にはその辺りのセンスがないってことも重々承知じゃないですか。」
センスがあれば今頃その辺も手にかけているだろうが、何せお出かけ用服決めるのに何度も彼女に頼むぐらいだったのだからもうその辺りは自分でも諦めているが、重く暑苦しいドレスを毎回着るなんてことは出来れば避けたい。
「成程、王族だからこそ流行を早めることも流行そのものも作ることができるというわけか・・・そういうことなら分かったわ。その機会が訪れる頃にまでデザイン画書いておくわ。」
「やる気になってくれてありがとうございます、アステリア。」
スレイヤーとしての力を見せつけて・・・あて!
そんなことを思っていると身を乗り出して私のおでこにデコピンを食らわしたアステリアと目があった。
「言っておくけど、その言葉はここでは禁忌にしてよ。」
「・・・は、はーい。」
なんで分かるんだ思っている事・・・。
「それと、悪いけどここにいる間は貴女も一緒に私の受けてる勉強も受けてもらうわよ。」
「げ。」
アステリアの言葉にティリエスは思わずカエルが潰れたような声を出した。
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