まさかこんなことになるなんて誰が想像できますか?(今はただ気持ちの整理をさせてください。③)
「リリスそろそろ行こうか。皆を待たせるのは申し訳ない、父上や母上も早くティリーを連れて来いと朝から煩くてな。」
「フフッ、私の両親もです。じゃぁティリー。一緒に行きましょうね~。」
ティリーというのはどうやら私の愛称らしく2人は嬉しそうに話しを進めていくのを私はただ見つめる・・・というより、事実を知ってある種の衝撃で未だ固まったままでいる私を他所に、2人は楽しそうに話しながら父であるアドルフが私を抱きかかえたまま歩き出す。
母であるリリスは半歩その後ろからついてくる形で歩き出した。
長い廊下を歩き彼らは雑談をしながら進んでいく、ルートからみてどうやら中庭へ向かっているらしい。
そんな中ゆらゆら揺れながら私はぽけっとした頭でもう一度先ほど聞いた内容を思い返す。
私の両親は・・・私が以前助けた2人。
アドルフさんとリリスさん。
この人が私のお父さんと・・・お母さん。
ずっと私に安心を、愛情を向けてくれた・・・両親。
そう・・・なんだぁ・・・。そうなんだ・・・・!!
嬉しい。
嬉しい。
この2人が私の【両親】。
自分の心の中に刻み付けるようにゆっくりと言った言葉を1つ1つ理解していく内に驚きから嬉しさがだんだん勝ってきていた。
「あらあら、カチンコチンに固まって緊張してるのかしらね?」
「全く動かないな・・・・・もしかして、俺達の事親じゃなくて見たことない知らない人になっているんじゃないだろうか・・・・・。」
未だに何の反応を示さない娘にリリスは首を傾げて娘を見つめる。
だがそんな娘の様子にある可能性を頭が過ったのかアドルフがぽつりと不安を零す。アドルフの不安の言葉を聞き不安が伝染したのか、今度はリリスがピシリと体が固まった。
・・・・え?何?
嬉しさで打ち震えていたが急に周りが重い空気に変わったことを感じ取り私は我に返る。
見上げて見れば2人とも悲壮感を漂わせて私を見つめていた。
・・・・え?ど、どうしてそんなに暗いの??
「すまないティリー。私の天使、忙しいからと言ってお前との時間を作れなかった父を許してくれ・・・。」
「お母さんを許してティリー。寂しい思いをさせてごめんなさい・・・。」
何故か謝られている・・・っていうか、私の天使って・・・・やだ、照れる。
でも、全く謝ってもらう原因がないんだけどな・・・どうしたもんか。・・・よしここは。
私は両親に顔を向けた。
必殺!!純粋に見える下心満載の赤ちゃんの微笑み。
これでメイド達をメロメロにさせた私の唯一の必殺技である。
これで大概周りの空気が和み、且つ私の希望を叶えてくれる技なのである。
ズル賢い?ふふん、なんとでも言うが良い。私はただ強かなだけなのだ。
急な謝罪に困惑したが、すぐに切り替え私は2人に両手を伸ばして意思表示する。
そして、キャッキャッと笑った。
そんな悲しそうな顔しないでよ~。
私は2人が私の両親でとてもうれしいしさ。
寧ろ逆に私がさ、全くもって普通じゃない赤ちゃんだし、本当ごめんねぇ。
ちょっと他の子どもと違ってきっと大人びてしまうと思うけど・・・うん、だけど私もあなた達がとても大切だから。大好きだから・・・・さ。
だからこれからよろしくお願いします。
残念ながら、まだ言葉は話せませんがこれからもっとお話ししたいです。
言葉が話せない分、動作やただの「あー。」や「うー。」といった声の拙いイントネーションでしか伝えられないが出来る限り彼らに伝える。
すると彼らも笑顔を見せてくれた。
とりあえず伝わったと思い私もほっと安心する。
「可愛いな、私の天使は。ああ、もう少しお披露目は後にしようか、いや・・・そうだ3人で今日はゆっくりしてお披露目は明日にしよう。」
おぃ父っ!!一体何言い出してるの?!
全く伝わってなさそうな様子の父親に思わず突っ込みをする。
「そうね・・・それは大変魅力的なお話しだわ。」
おおぉい!母も何同調してるの?普通に考えてダメでしょ?!
ボイコットしかねない2人に私は焦る、・・・・とリリスがくすりと笑った。
「でも、今日は流石に我儘は言えないわ。あなた、明日3人で1日ゆっくりしましょう?」
「・・・・仕方ないな。今日は仕方ない・・・か。」
父は・・・本気だったのね。
心底残念そうにした父に少し呆れながら、私達は目的地へと進み―――。
ある場所にたどり着く、予想通り目的地は中庭だった。
空は快晴。
春の陽気でとても気持ちが良い風を感じながら私の目の前に現れたのは、いつも綺麗に整えられたバラ園の中にセットされたパーティの風景と多くの人達だった。
いきなりの多くの人に見つめられてびくりと緊張する。
そんな緊張を読み取ったのか、アドルフは私を落ち着かせるように背を優しくポンポンしてあやす。
私は父をじっと見つめると父も優しく微笑むのでつられて微笑む。
・・・・なんてこった。父の微笑み1つで心持ちが変わるなんて・・・ちょろいなー私ー。
でもさ、女性の皆さんに是非問いたい。
正直イケメンの微笑みのばっくだーんに抗えます?
私は絶対無理ー。
何せ男を手玉にとれる美女でもなかったし前世では・・・うん、彼氏・・・出来たことなかったな・・・・。
父の微笑みに簡単に絆されつつ自分自身で精神ダメージを密かに負っている私を他所に、しっかりと抱きかかえてアドルフは前を見る。
そして、大勢の前で口を開いた。
「本日は春の芽吹きの女神の祝福というこの良き日に我が娘ティリエスのお祝いに駆けつけて頂き、誠にありがとうございます。」
アドルフとリリスは皆の前で礼をする。続けて彼は話し出す。
「数年前の出来事を皆様の助力があり困難に打ち勝ち、こうして私達は夫婦となり可愛い娘という新しい家族を迎えることが出来ました。私達は爵位を継いでまだ日が浅く、まだ多くのことを学ぶべき立場です。妻とともにこれからも精進しより良い民の安寧に勤めて参ろうと思います。どうかこれからも私達、そして娘ティリエスともによろしくお願いします。」
深々と頭を下げるとどこもかしも拍手が巻き起こる。
2人は拍手の中微笑み合い、私は私で誇らしい気持ちでいた。
と、私達の前に誰かがやってきた。
目の前に現れたのは金の髪の体格の良い男性と紫の髪の色をした女性だった。
・・・・ん?誰?と思っていると、その男が先に口を開いた。
「おめでとうアドルフ、今日という日に私達を招待してくれたこと礼を言う。」
「いえ陛下、この度はわが領までご足労頂き誠にありがとうございます。」
ん?今陛下って言った??
私はもう一度彼らを見ると女性の方は優しく微笑んで私達を見ていてとても優しい雰囲気があり、逆に男性は無表情で冷たそうな印象が伺え威厳を放っている。
そういえば、オジ様から王様の話し聞いたことがあった、そっかーこの人なんだぁ・・・。
じぃっとの国王と呼ばれる方に見つめていたら、ばっちり金色の眼と目が合う。
彼は私を数秒見てにやりと目を細めて笑う。
え?何この極悪人みたいな顔。
男性はずいっと私に顔を近づける。
「この子が妹の初孫か・・・・、きっとかわいい子に育つだろうな。」
「本当に、噂で聞いていましたが左右の違う眼の色・・・なんて神秘的な瞳なんでしょうか?ねぇあなた。」
「そうだな・・・だがしかし、言っておこうアドルフ。」
「?はい?なんでしょうか・・・?」
アドルフはよく分からないまま曖昧な返事をすると次に彼はこういった。
「私の孫の方が・・・可愛いぞ?」
「他人の孫を前にして何を言い出すのですかファダンお兄様。」
背後の反論の声にファダン夫婦が振り返り私達は彼らの先にいる人物に目をやる。
あ、あの人達はっ!
金色の髪に同じ金の瞳の女性と黒い髪に黄土色の瞳の男性に私は釘付けになる、近づいてきたその2人は私は知っている。
キャー、オジ様ーー!!メイサさーん!!
あの日床に臥せていた彼女メイサと彼女の夫ルドルフさんだった。
「いやぁ、だって張り合いたくなるだろ?孫自慢。」
「そのような極悪人な顔して可愛いことをおっしゃっても説得力がございませんわ。」
やっぱり身内の人でも極悪人顔って思われてるんだ・・・・王様なのにイメージが違う。
「お久しぶりです、ファダン陛下。ミリア陛下もご息災で何よりでございます。」
対して隣にいたルドルフは臣下らしく2人に軽い礼と挨拶をする。
「貴方も息災で何よりです。隠居されてからも兵の鍛錬のご指導をしていると伺いました。この国の為にお礼を申し上げます。」
「礼なんかいいぞミリア。ルドルフの場合訓練というのは隠居生活の暇つぶし程度としか思ってないぞ?」
「ははは、若い者にはまだまだ負けたくないですからな。それにしても人聞きの悪い・・・陛下も時間が出来たのですから供に鍛錬してみては?」
「それこそ冗談だろ?ようやく隠居できたのに少しはゆっくりさせてくれ。」
へ~オジ様が隠居したのは分かってたけど、まさか王様も退位してたのね。
ここ数年でこの国は代替わりしてた事実を知り、私は事の成り行きを見ていた。・・・と、私の前に急に影が出来る。
「アドルフ、早く私にも孫を抱かせてくださいな。」
メイサがいつの間にか私の目の前に来ていたようで、そわそわしながら彼女は目を輝かせて私をじぃっと見つめていた。
彼女は私の祖母にあたるわけなのだが・・・・見た目も心も正直若く見えるのでおばあ様と呼べるか心配になる。
「はいはい母上。せっかちなのは相変わらずですね。」
仕方ないように苦笑したアドルフは慎重にメイサへティリエスを渡す。
そっと抱かれて、メイサは感激してより一層目を輝かせた。
「初めましてティリエスちゃん。貴女のおばあちゃんですよー、これからもよろしくねぇ。」
おいっす!初めましてというかお久しぶりです!
私にとっては初めてではないのでそう答える。まぁあの頃は詐欺妖精だったから本当はカミングアウトしたらアウトなんだろうけど・・・まぁ聞こえないからねーこの際好き勝手に言っておこう。
「まぁ、いっぱいお話ししてくれるの?ふふっ嬉しいわぁ。」
「本当だ・・・このように喋るティリーは初めて見ます。」
食い入るように見つめるアドルフにルドルフは呆れたようにため息をはいた。
「アドルフ、おぬし仕事に構いすぎなんじゃろ?少しは子供や妻の為に時間を作らんと愛想つかされるぞ?」
「・・・そうですね、出来ればなるべく時間は作りたいのですが・・・中々思うようには行かないものです。」
ん?もしかしてあまりお仕事上手く行ってないのだろうか・・・?
父アドルフの様子に私はじっと見る。・・・そういえば少し顔色も悪いような・・・。
ちらりと母のリリスを盗み見れば顔に出さないようにしているが心配そうにアドルフを見つめているのが見えた。
・・・・両親のあの顔・・・何かある。
私は様子から何かを察して考えていたが、私の頭を撫でる手に驚いてそちらを見るとメイサさんと目が合う。彼女はいまだ私を撫でながら微笑んでいた。
ああー、この手、癒されるぅ。
メイサの撫でる手が気持ちよくて目をとろんとさせて堪能する。まるで猫になった気分だが・・・全然、良い。
「ふふっ・・・本当に可愛いわ、私にも孫ができるなんて・・・なんて、なんて嬉しいことでしょうか。アドルフ、リリスも本当に・・・っ。」
・・・・ん?手が止まった?
撫でてくれる手が止まり声を詰まらせたメイサさんに、私は閉じかけていた目を開け不思議に思って彼女を見つめる。
同時に、今度は彼女の大きい金色の瞳から大粒の涙がぽろり、ぽろりと頬から次々と溢れて滑り落ち私の頬へ落ちて濡らしていく。
え?!何々?なんで泣いてるの?!
急に泣き始めた彼女に私はただ黙ってみることしか出来ないのでオロオロする。何とかしてほしくて私は目で両親に縋った。だが2人とも何かを察した様子でただメイサさんを見つめることしかしなかった。
ぎゅぅっと私を抱いて彼女はすすり泣くだけで私はただされるままになっていた。
それは両陛下も遠巻きに見ていた他の大人たちもそうだった。
彼女の涙を汲んで誰も何も発しなかった。
「母上・・・。」
「お義母様・・・。」
両親もそれ以上何も言わないで事の成り行きを見つめるだけだった。
「・・・・っごめんなさいね。こんな御目出度い席で涙を見せるなんて。でも・・・この子を抱いた時、生きていて良かったって実感してしまって・・・。」
【生きていて良かった】
彼女の言葉で私はようやく察する。
あの呪いで殺されそうになった時一番命の危険に晒された彼女。
呪いが消えたからといってその長い苦痛を忘れられるわけがない。
もしかしたらまだ・・・過去の事を思い出して苦しんでいるのではないだろうか。
涙を流しながら言うメイサの涙を唯一傍に寄り添ったルドルフがそっと拭う。メイサは涙を溜めながらも微笑んで私を見る。
そんな彼女の為に、いや、私の家族の為に私は何ができるのだろうか・・・・。
今はまだ何もできない赤ん坊の私。
いつか私がもっと成長したら何か、家族となった私の両親や祖父母達に何かできることがあるのだろうか。
私は抱かれながら1つの決意をし、そして、同時に私は前世の私の中にいる大切な人達に心の中で謝った。
きぃちゃん・・・前世のお父さん、お母さん。
ごめん。悲しんでいたのにすぐにそっちに戻りたいとか寂しいとかそんなこと言っていたけど・・・私、家族の為にもうちょっと足掻いて生きてみるよ。
だから、もう少しだけそっちで待ってて。きちんと生き直してから会いに行くから。
新たな誓いを胸に私は自分の祖母に笑いかける。
今、私が唯一出来ることは彼女を少しでも心が穏やかになるように可愛らしく笑う事だけだ。
「あら!!ルド様ティリエスちゃんが私に笑ったわ。フフッ本当に可愛い・・可愛いわっ!流石私の孫!」
「あぁ・・・そうだなぁ。」
嬉しそうに笑う祖父母とその姿にほっとして微笑む両親、そんな家族に私は多くの人に笑顔を届けるように声をあげて笑ったのだった。
いつも読んでいただきありがとうございます。
裏設定:ルドルフさんが指導している訓練所は例の伯爵家が所持している訓練所です。特別厳しいといわれる指導なので現役騎士騎士見習いの若者はテンションどんよりです。むしろ年輩ズがテンション上がっているらしい。若者からみれはばいつも訓練所は地獄らしく、年輩ズからみれば訓練所が毎日天国だそうです。これが本当の天国と地獄です。