これが夢だというのならとっくの昔に目は覚めている(さぁ、愉快なパーティーを終わらせましょう⑦)
いつも読んでいただきありがとうございます。次回は10/12(水)投稿予定です。予告通りシリアス突入です。暴力表現が出てきます。ご了承ください。
あの日、曇天の空の下私達はそこにいた―――。
『―――せ!殺せぇ!!この国の悪を!呪われた子を殺せぇ!!』
誰かが言い放ったその言葉を皮切りに私達は罵声を憎しみを一身に浴びた。
投獄されて1ヶ月。長い投獄生活は今日終わりをつげ死へという階段に立たされていた。
服は奴隷のようにボロ布を身に纏い、髪や皮膚も酷く匂い汚れたその姿に王族、貴族の面影などどこにもない。
どんな罪人でも最後はある程度身綺麗させてもらえるというのに、私達はそれすらもさせてもらえない。
死に化粧も許されない私達は今日、処刑される。
死んだ後、私達はまた時間を遡る。
また生き返ると分かっていても死ぬのは怖かった。
微かに寒さとは違う震えを感じながら処刑台に目をやったその時だった。
『罪人、ティリエス処刑台へ進め。』
『!』
隣にいたティリエスの方を見る。
アイルも項垂れていた頭を弾かれるように名を呼ばれた彼女へ視線を向けた。
2人が見つめる中彼女は酷く落ち着いていて背を伸ばし、ゆっくりと処刑台へと進んでいった。
一瞬彼女の紅い髪の隙間から紅い瞳でこちらを見た後、小さく微笑んで彼女は歩んでいった。
私は彼女が遠ざかっている背をジッと見つめる。
この世界に生まれ落ちてから彼女は誰からも愛されず育った。
北の公爵の公女として生を受けた彼女は母リリスの命と引き換えにして生まれた子だった。
呪いによって死んだ母親、その母親が彼女の命を護るために死ぬ寸前で産んだ子は、彼女の特徴を受け継ぐことなく呪いにより、髪も瞳も呪いを放った女と同じ色を受け継いでいた。
両親を先立たれ、そして己の妻も返らぬ人となった直後に知らされた事実に彼女の父親アドルフは到底受け入れられるものではなく―――。
彼女は親からも憎まれ、呪いの子としての異名を持ってたった独りで生きて来た。
誰からも庇護されることなく、最低限の生活を約束されたがそれだけだった。
それでも彼女は、この国を護ろうと動いてくれた。
その姿は北の公爵であった。かつて母が教えてくれた世には知らされていない誰よりもこの国を愛し支え、護ってくれたその存在に王家は代々助けられてきた。
だが、返って来たのは彼女への拒絶と嫌悪そして望んだのは彼女の死だ。
『ティリエス・・・グッ!』
アイルの呟きが聞こえたのか拘束人たちが彼を頭で押さえつける。
『静かにしろ!あの女の後は火炙りと絞首刑があるんだからな、余計な時間をかけさせるな。最もお前らも災難だったなあの女にそそのかされなければここに居ることもなかったのになぁ。』
アステリアはその言葉にギリィっと噛み締めた歯が軋んだ。
彼女が一体何をしたというのか!彼女は貴方達を護ろうとしていたのに!
何故その事に気づかない!愚か者が!
彼女に罵声と時折石を投げ彼女に苦痛を与えることをする民衆に怒りで唇を強く噛んだ場所から血が溢れた。
そして、何より私が許せない彼女の先に立つその男を睨みつける。
アドルフ=フェルザ・D・ルーザッファ。
彼が私達の計画を台無しにし、彼女をここへ追いやった張本人だった。
ティリエスは処刑台の前で止まると、目の前にいる己の父を見つめる。
蒼白くまるで死人のように無表情な顔をしているアドルフだったが、彼女を捕らえるその瞳だけは不自然に思う程ギラギラと強く憎しみの眼にぞくりとさせるほどだった。
慣れているのか、それとももう何とも思っていないのか、その憎悪の瞳をジッと見つめる。
彼女が産まれてから二十数年、娘と父が顔を見合わせたのは今回が初めてだった。
『罪人はここへ。』
頭上には分厚く鋭利な刃物が設置されているギロチンへと案内させられる。
ここでも彼女は暴れることも慈悲を乞う事もなくそのままうつ伏せにさせられる。
そんな彼女にアドルフは舌打ちをしたが、彼女に一歩歩み寄る。
彼女の首を切り落とす紐を切る為だ。
本来なら刑執行人が行うそれも彼たっての希望と聞いていた。
『これでお前は最期だ。』
『・・・・・・・。』
『お前に慈悲などくれる義理もないが・・・最後に言い残したことはあるか?』
到底娘とは思えないその冷たい言葉を受けとめたティリエスは少し黙ったままだったが『では一つだけ。』と、小さく零す様に言った言葉にアドルフは次の言葉を待った。
『この先・・・多くの地獄が待つでしょう、とてつもない地獄が。』
『まるで予言の事を言う、まるで魔女のようだ・・・どうして、こんな奴にリリスは命を懸けてっ・・・・。』
アドルフの吐き捨てるような言葉に一瞬だけティリエスは黙ったが、小さく息を吐いて口を開いた。
『でも、どうか貴方は民を導いてください。貴方が希望と思うでしょう・・・でも、私は・・・。』
そう言ってそろりと彼女は顔を上げアドルフを見上げた。
『どうか、お父様。お身体ご自愛くださいませ。』
ティリエスをみた瞬間、アドルフは怒りを露わにした。
『貴様に・・・貴様に父と呼ばれる言われはない!!お前のせいでオーガを!!リリスを失ったのだ!!!お前が居るせいで!!』
そう言って微笑む彼女にアドルフは怒声を浴びせる。
それでも彼女は悲しみ涙を流すことなくただただ微笑んで父を見つめていた。
そして、最期の言葉を言う為彼女は口を開いた。
『さようなら、お父様。どうか最後まで誰かを守ってあげて。』
その言葉にアドルフは怒りのまま剣を上げ、縄へ振りかざす。
『リリスと同じ事を言うな!!貴様なぞ死ねぇ!!悪魔がぁぁ!!』
ぷつりと縄が切られたキラリと光る刃が彼女の首にするりと落ちていく。
肉切られる音と共に彼女の首が宙を舞い血と共に弧を描き誰もが彼女の首に釘付けになった。
アドルフもまた彼女の首に視線を向けると、彼は眼を見開いた。
彼女の髪が徐々に赤みを無くし別の色へと変化していく。
紅い髪から黒い髪へと変化していきながら地面に彼女の頭は叩きつけられ、ゴロゴロと黒い髪へと変化した彼女の頭が転がりアドルフの前で止まる。
彼女の顔がアドルフの眼に入る。
そこには、己と同じ黒い髪の光を喪った紫と若草色の瞳が宿っていた女性がそこにいた。
彼女の呪いが解けた瞬間、アドルフは呆然とするなか周りの群衆は一つの悪の終わりに歓声を上げたのだった。
いつも読んでいただきありがとうございます。




