これが夢だというのならとっくの昔に目は覚めている(さぁ、愉快なパーティーを終わらせましょう⑥)
いつも読んでいただきありがとうございます。次回は10/10(月)投稿予定です。次回からシリアス突入する予定です。(ちょっとした告知)
「――――まぁ、お2人とはそういう縁で知り合って今では時折文通しているんですの。ほら、お兄様に以前にお友達が出来たと言っていましたでしょう?その2人の事・・・っていたぁっ!アステリアなんで頭を叩くんです?!痛いんですけどぉっ!」
搔い摘んで彼女達の事を話していたティリエスは突然の暴力に驚いて抗議をする。
いくら力が弱く叩いても地味に痛いのは痛い。
ティリエスはアステリアから距離を置いてジトリと睨むとアステリアははっとなって振り上げた拳を卸して謝る。
「全く・・・一体なんで叩いたの、まぁ驚いてつい大声出しちゃったけど、でも本当に地味に痛かったし。」
「ご、ごめんごめん。私も正直無意識だったわ。」
アステリアはすぐに謝り手を後ろで組む。
・・・妙に掴んでいる左手に力を込めているように見えているのは私の気のせいだろうか?
ティリエスはアステリアの様子を気にしながらも謝罪を受け取るとさすっていた手を下ろした。
「もう怒ってませんから、でもなんで叩いたの?」
「うーん・・・なんていうか、ティリエスの頭を叩けばまだ何か出て来るんじゃないかなって思ってたら・・・つい。」
「・・・・・・・・・・・・・。」
思わずさっとティリエスは両手で頭を護り「暴力反対!」と抗議する。
アステリアは「もうしないわよ!・・・多分。」とそんな返事のやりとりを見てアイルはクスクスと笑った。
「本当、君たちは以前も今も仲良しだね。」
アイルの言葉に2人は顔を見合わせる。
「「だって、親友ですもの。」」
声をハモらせた2人は互いに驚き、2人は笑う。そんな2人をアイルはフッと微笑んだ。
暫く笑っていたティリエスだったが、アステリアの方を見て真面目な顔をする。
「ねぇ、アステリア。私も2人の話しを聞いて思い出したことがあるから聞くわ・・・ここは貴女と私が死ぬ前に最後に真剣に読み込んでいたゲームの世界なの?」
「・・・・・・・。」
「貴女は異世界の・・・この世界のような話しが好きでよく読んでいたのを私は覚えている。でもすぐ目新しい物が出れば今夢中に読んでいたものを辞めてまで次のを読むタイプだった。でも、この世界に似た話しを読み進める速度はとてもゆっくりで何度も何度も読んでいた・・・今思えばまるでその時その時の話しを一字一句覚えるように読んでいたわ。そして、選択をすれば結末が変わるそれを何通りも行っていた。・・・どうなの?」
「・・・・えぇそうね。あれは私達の世界のことだったわ。」
ティリエスはアステリアの言葉にやっぱりとそう思った。
「その頃の私はこの世界のことを忘れていたけど・・・あの作品だけは異様な執着があったわ。」
「じゃぁ主人公というのが。」
「えぇ、私達の世界、そして帝国側の視点から描かれた少女の話しよ。ティキとギーラそして彼女。彼女が一番厄介だったわ、私達が民衆の反感を買う要因を作り出した張本人。」
「・・・いつかは会うことになるのね。」
「おそらくはね。」
ふーん・・・じゃぁ、当面は内政を整えつつその子に会うまでには色々準備をすれば良い・・・ということか。
ティリエスは頭の中で今後どうするのが良いのか考えていると、控えめなノック音に気がつき3人はドアの方へと視線をやる。
「どちら様?」
「申し訳ありません、ティリエスお嬢様がそちらにおいででしょうか?」
「あれ?レイ?」
「知り合い?」
「私の従者ですわ。」
そう言ってティリエスは扉を開けるとそこには少々困ったようなレイの姿と彼の手に何かを持っていることに気がつき思わず目が見開いた。
え?・・・なんか、皿の上で焦げた深緑の溶けた物体がゴポポ言ってる・・・え?紫の煙が吹いた?
凝視していたのをやめて、ティリエスはレイの方を見上げる。
すると彼は困ったように笑う。
「実は頼まれた後、こちらへ向かう際にここの料理長に呼び止められまして。お嬢様が以前作ったパンケーキというものの作り方を教えて欲しいと言われ、私やってみたんですけどどうも溶けてしまいまして、それでお伺いに来ました。」
「これが・・・パンケーキ・・・。」
未だにゴポポと吹き出しているそれを見やる。心なしか禍々しく見えるのは気のせいだと思いたい。
・・・仕方ない。
ティリエスはくるりと振り返るとアステリアもその物体を見たせいか固まったままだった。
「アステリア様、私少々席を外してもよろしいでしょうか?」
「えっ!?え、えぇ・・・かまわないわ。行ってきて。」
「ありがとうございます・・・・また戻ってきましたら先ほどのお話し教えてください。それと王女様。」
「何かしら?」
「未来はまだわかりません、ですからこれからが楽しくなるよう王女様のご趣味についても語り合いましょう。」
「!」
「人生楽しくないと、でしょう?」
ティリエスはそう言って優雅にお辞儀をするとアイルにも挨拶をして部屋を後にした。
レイも同様に王女に対しお辞儀をするとティリエスをエスコートするように扉をほんの少し開けたまま立ち去っていった。
それを黙ってみていた2人のうち先にアイルが口を開く。
「一番ティリエスが逞しいと思わない?」
「本当、アイル様と同意見ですわ・・・人生楽しく・・・か、でも・・・そんなことをしても良いのでしょうか?そんなことをこれからのことを考えたら「アステリア。」」
彼女の言葉を遮ってアイルは彼女に微笑みそして手を握る。
「警戒するのは必要だ。だけど、それだけじゃ君が壊れてしまう。だから、僕はティリエスの言葉に賛成だ。」
「アイル様・・・。」
「皆、生きている・・・その先の幸福には君もそこにいるべきだ。」
「えぇ・・・少し、考えてみますわ。」
「・・・そうだあと、さっきはよく声を我慢してくれたね。ありがとう、アステリア。」
アイルの言葉にアステリアは大きく息を吐く緊張していた体が解れていくなかアステリアはもう一度扉を見つめた。
「アイル様が事前に教えてくださったからですわ。今でも不思議ですわ彼がここにいるなんて。」
彼、レイの事を思い出したアステリアはぶるりと悪寒を感じながらそういうとアイルもまた「僕も最初は信じられなかった」と口を漏らす。
「でも、彼は今回味方だ。」
「前も彼はティリエスに執着していたけど・・・まさかもう彼女の身内に入り込むなんて・・・ティリエスは大丈夫なのかしら?あの女性・・・ティキもメイド見習いが終われば自分専用のメイドとして迎えるとか言ってたし・・・あの子危機感どこにいったのかしら?」
「彼女は何もかも忘れているからね・・・これでいいんだ。」
「アドルフ卿のこともよね。私は今でもはっきりと覚えているわあの時のことをあの時の光景をーーーー。」
そう言って2人は昔のことを思い出していた。
いつも読んでいただきありがとうございます。