これが夢だというのならとっくの昔に目は覚めている(さぁ、愉快なパーティーを楽しみましょう㊺)
いつも読んでいただきありがとうございます。次回は9/26(月)投稿予定です。
「わ、私がっ!?私は何もしておりません本当です!私はその第2夫人に言われ仕方なくしただけですっ!」
「っぐぅ!」
インクブスの言葉に痛みで悶絶しているエスカリーナの耳にも届いたのかギロリと彼を睨みつける。
そんな彼女から離れるようにオーガへとにじり寄った。
オーガは何も言わず見下ろすだけであったが、その間にもインクブスは自分の身の潔白を主張する。
正直ここにいる誰もが十中八九嘘偽りを述べているというのは分かっていたので冷たく彼を見やるだけで誰も手を差し伸べることはない。
本人はそのことに気が付いているわけなくしゃべり続けた。
「確かに私は皆さんを脅すようなことをしました、しかし、本当に仕方なくしたんです!そうじゃないと父を殺すと脅されて、妻や子供の事もそうです!そこの女が!見せしめに妻たちを殺したんです!だから、そうするしか他はなかった。」
「成程そうですかぁ。では今の話しが本当でしたらあなたは被害者ということですかね?」
「!分かって頂けましたか!」
オーガの言葉にパッと表情が明るくなったインクブスにオーガは小さく息を吐いた後、冷たく笑った表情を見せた。
「でも、そうすると変ですねぇ?」
「・・・へ?」
「貴方が被害者だというなら、どうして貴方が貴方の部下に命じて取り寄せた全てのワインの中に毒物が仕込まれていたんでしょうねぇ?」
「なっ!」
驚くインクブスにオーガは続けて話し出す。
「どうして知っているのか?という顔ですねぇ。私の方にもちょっとした伝手がありましてね?
独自で調べていたんですよ。すると、どういうわけか元をたどれば貴方が懇意にしているとある商会にたどり着きました。ちょっと訳アリのものを売って生業にしている蛇のような輩の。」
「そ、そんな、そんなでたらめっ。」
「因みに先に捕らえていますし、その時のやり取りの書類も見つかってますよ?それに最初の奥様の病死に見せた毒物も次の奥様に使った痺れる毒物を購入した内容の書類もご丁寧に残してありました。大方、脅す材料に残しておいて後で貴方にたかろうとしていたんでしょうけど。まぁそれが結果貴方が犯してきた所業の一端の証明になった、というわけですねぇ。ところで、この書物。」
そう言って、オーガは彼にこれを見せるとインクブスの眉が一瞬だけ動く。
「これ、貴方の所持品ですよね?一体なんですか?」
「それは・・・ただのそう!古びた本です!私がただのお守り代わりに持っていただけで、何の価値もないただの本です。」
「ただの本・・・それはそれは、で、あればこれは燃やしても構わないですよねぇ?」
そう言うと恐らくオーガの部下であろう1人が蝋燭の火が付いている燭台を彼の前へ持っていきオーガは受け取るとその本を蝋燭へ近づけさせると、インクブスの表情が明らかに変わったのが遠くから見ていたティリエスにも見えた。
「辞めろ!それを燃やすな!お前如きがぞんざいに扱っていい代物ではない!!」
「おや?急に大きな声でどうしたんです?・・・これがそんなに大事で?」
咄嗟に声を荒げたのだろう、オーガの言葉にインクブスはしまったと後悔した表情を見せたが、何か閃いたような顔になり一度冷静になるのが分かった。
「・・・それは、我が家の家宝である書物だ。返してくれ。」
「返せと言われても、捕らえている人間に私物をはいどうぞと渡す人間が何処に居るんです?」
「確かにそうです、でも!私がその本の力を解放すれば王妃様達の霊獣の居場所が分かるはずです!」
その言葉に周りの貴族がざわつき、王も王妃も思ってもみなかった言葉に一瞬だが目を見開く。
「その言葉、誠か?」
王の言葉にインクブスは大袈裟なほど首を縦に振った。
「は、はい!王よ!この書物が居場所を教えてくれるでしょう、でも、これは我がロンマンディリの者でないと使えない代物!わが父は今意識不明でいつ目覚めるか分からない、更に言えばロンマンディリの血を持った人間は私しかいない、私なら必ずや王妃様の霊獣様を必ずや見つけましょう!」
「インクブスっ!貴様裏切る気か!!」
「何を言います!私は貴女が怖くて命令されただけだ!裏切るも何もない!」
「おのれっ!まずお前から殺してやる!!」
エスカリーナの怒声と自分だけが助かろうとして彼女に対して冷たい言葉を浴びせるインクブスを見てティリエスは顔が歪んだ。
「私、あんな大人だけにはなりたくありませんわ。」
「大丈夫ですよお嬢様、あのようなクズにお嬢様が願ってもなれるはずありませんよ。」
レイのフォローを聞きながらティリエスはオーガの後姿に視線を向ける。
彼は2人の言い争いを静かに暫く聞いていたが、両手でパンッと手を叩く。
大きな音が反響し2人はその音に驚いて口を閉ざしオーガを見た。
「成程、ではこれは特定の・・・南の公爵である人間のみ使える代物というわけですねぇ?」
「あぁ、そうだ!それは選ばれた人間しか手に取ることが許されないもの、それは私だけの、私のものだ!!」
高らかにそう言い切ったインクブスはその本だけに視線を向ける。
その異常な執着を宿した眼をみた人間は思わず言葉を失うなか、オーガだけは優雅さを忘れず取り繕っていたことを辞め話すうちに段々と醜悪さと高慢が滲み出たインクブスを見つめていた。
静かにただ見ていたオーガだったが、インクブスを見つめながら口を開く。
「そういえば、私もこれを昔見たことがあります。」
「?」
急に昔話しを話し出したオーガにインクブスは意味が分からず首を傾げる。オーガはそのまま続けた。
「これは南の公爵の後継者が受け継ぐものの一つ。これは持つ持ち主によって姿を変える不思議な本。力ある者が受け継げば公爵家の象徴である蛇の家紋と美しい白銀の表紙となる・・・今の姿とは天と地の差だ。」
「なんでそのことを知って・・・。」
「・・・これまで言ってまだわかりませんかねぇ?」
そう言ってオーガは笑っていた表情がスッと消え、普段なら細目でほとんど見ることのない目が開く。真っ赤な瞳の色を見てインクブスは思わず目を見開く。
「その眼、お前!!お前はまさかオーガスタっ!!」
その名を聞いてオーガは冷たく赤い眼を向けたまま口を開いた。
「お久しぶりですねぇ、叔父上。」
「なぜお前が!お前は確か20年も前に死んだはずじゃっ!」
「えぇ、本来ならお前に私も殺されるはずだった、でも最後に父と母が私を生かした。父も母も霊獣を奪われそれでも・・・俺を生かしそして死んでいった。お前が父と母の死体を見て嘲笑ったあの顔は・・・今でもはっきり思い出せますよ。しかし、貴方が存外甘い人間で助かりましたよ。お陰で追っ手に追われることなく逃げ果せたのですから・・・ねぇ?」
インクブスはオーガのその顔を見て青褪め小刻みに震える。
オーガは目の前の男など気にせず本を魔法で浮かすと懐からあるものを取り出し器用に右手の中指にそれを通す。
「その指輪は!何処に・・・どこに隠していた!」
「それを律儀に貴方に教えるわけでないでしょう。」
そう言ってオーガは指輪を嵌めた右手をかざすと、中心に嵌っている深い緑の宝石が自ら光を放つ。
「ロンマンディリ家当主の指輪はここに。そして、封の書。」
指輪から放つ緑の光を身体に纏ったオーガはそう言って本をもう一度掴んで触れると、触れた手からホロボロになっていた本は姿を変え、美しい白銀の表紙に金色に描かれた厳格な蛇の紋が現れると、そのまま彼はページを開く。
「や、やめろっ!その中には!」
「【解放。】」
「やめろぉ!!!」
彼が一言そういうと、ページは突如大きな光を放ち天へ向かって伸びていく。すると、多くの様々の光が四方八方へ分かれて飛び立っていくその光景に皆魅入られた。
「あれはっ!」
王妃が声をあげ一つの光を見つめるとそのオレンジの光は大きな鳥のの形になり彼女の方へまっすぐ降り立った。
「あぁ、フォート!よくぞ無事で!」
抱きしめられたその鳥が彼女に寄り添う、彼女の霊獣が帰ってきたのだ。
光のままや形を変え霊獣たちは自分の主人へと帰っていく。
霊獣達が去るだけ柱の光も徐々に小さくなり、最後に2つの光だけが弱々しくオーガの周りを回る。オーガはジッとその光を見つめて、最後に微笑むとその2つの光はまるで彼の頬を撫でるかのように漂った後、静かに光は霧散しいなくなっていった。
最後まで、オーガはその光を見届けた後放心状態のインクブスをジッと見つめる。
「貴方には色々吐いてもらいますよ。今までの罪全て。」
そう言ったオーガの言葉に周りの人間も彼らを牢獄へ追いやるため動いたのだった。
いつも読んでいただきありがとうございます。