これが夢だというのならとっくの昔に目は覚めている(さぁ、愉快なパーティーを楽しみましょう㊳)
いつも読んでいただきありがとうございます。次回は9/7(水)投稿予定です。
父たちと向かった会場は母から聞かされたとおり舞踏会場へ案内されたティリエスはその光景に目を見開く。白と金を主体にした壁模様に天井には色艶やかにあるステンドガラスや明らか高価そうな照明シャンデリアに調度品の数々―――。
初めて自分が妖精として現れ、そこで父を見つけた場所であった。
あの時と違い、子供達が主役という事もあって座る椅子やテーブルの数が多いがあの時見た風景と全く変わっていなかった。
不思議な感覚だ。あの時の私はこの世界に存在していないはずなのにひどく懐かしいと思ってしまう。
そんなことを思いながら父の手に連れられ中へと入ったティリエス達に気が付いた貴族たちがこちらへと視線を向けた。
「あの方は近頃有名なルーザッファ家公爵家の―――。」
「アメジスト商会を立ち上げて様々なものを作っているとか?」
「あぁ、あの砂糖やバターか。」
「マヨネーズも画期的な代物だ。あれで息子の偏食が改善されたんだ。」
「教会であの奇跡の石を扱い始めた、なんでもジョアナ夫人の孫の―――。」
おーおー、なんだかえらい注目浴びてるわー・・・けどまぁあんまり気にならないけどね。
あちこちでひそひそと話す声に笑顔のまま耳にしながらティリエスは心の中で独り言ちる。
今まで、商いをしてこなかったし何より画期的な商品を我が家門を中心に手掛けているとなれば嫌でも注目するのは予想内のことだったからだ。
目を合わせない程度で周りの人間を見ると己の利益の為にお近付きになりたいという瞳で見ているのも十分に理解する・・・うん、程々の距離感を保とう、面倒な人となんぞ関わりたくないし。
一番幼い私を通して近づこうと考えている輩の存在に始まる前から少々疲れるかもしれないとそんなことを思っていると父の足が止まった。
「ティリエス、まだ始まらないから椅子に座って待ってなさい。」
「お父様は?」
「私は王達が来るまで挨拶してくる。おそらく長引くだろうからあそこの席で。」
そう言って指さされた場所を確認したティリエスはこくりと頷き父と別れると、傍に仕えていたレイが慣れた手つきで椅子を引いて私を座らせた。
「お飲み物は?」
「先ほど頂いたから大丈夫ですわ。」
そう言うとレイはにっこりと笑い傍へ立ち、辺りを少なからず警戒している彼を盗み見てティリエスもまた黙ったまま会場の様子を眺めていた。父は言った通り誰かと挨拶をしてはいるが、私の目の届く範囲内の距離を保ったままの所に父は居た。
・・・・うん、やっぱり思うけど私のお父様が一番イケメンだわ。
周りの父と同年代ぐらいの男性たちを見て確信しながらティリエスはうんうんと頷く。
まだ、お兄様達は来ていらっしゃらないようね。こういう集まりは貴族とパイプを持ちたい商人の人間の方が早く来ている事が多いって聞いていたのだけれど・・・、一体どうなされたのかしら?
ふと、近くで気配を感じとりそちらに目をやれば、自分を見つめている2人の少女が見えた。
1人は気の弱そうな薄ピンク色の髪の毛を結い上げ同じ色のドレスを身に纏い、隣にいる女の子はオレンジ色の髪と同じドレス、そして―――。
なんと、縦ロールのヘアスタイル・・・だと。ということはこれはもしや―――。
「貴方がルーザッファ家の公女?」
「・・・やっぱりか。」
案の定強気な発言をしてきたのでティリエスは思っていたことが声に漏れた。
縦ローススタイルの女の子と言えば強気で高飛車と相場が決まっている。
「やっぱり?」
「いえ、こちらの話しです。お察しの通り私はルーザッファ家公女、ティリエスですわ。」
椅子に座ったまま2人に軽くお辞儀をする。
「やっぱりね。だから黒髪はルーザッファ家の方の特徴って言ってたでしょ?」
「う、うん・・・そうだったね。」
「不躾に聞いて悪かったわ。私は東の公爵家公女ロリア=ヴィーア・R・ディサイファよ。こっちは―――。」
「に、西の公爵家公女、ルリア=バンデューラ・Ⅼ・ヴィヴァーチェです。は、初めまして。」
まさか公爵家の人間とは思わなかったティリエスは少しだけ驚いたが、すぐにどうしてこの2人が私の前にやって来たのか気になった。
答えはすぐに分かった。
「あそこ、貴女と私とこの子のお父様お母様達が挨拶してるんだけど立ってるの疲れちゃって座って待っているって言ったのよ。そうしたらルーザッファ公爵様が自分の娘がここで休んでいるからって勧めて下さったのよ。」
見れば自分の父と話している人物たちを見れば、髪の色といいどことなく似ている部分から彼女達の父親と母親だと見てとれた。
「ところで、貴方のお母様は?」
レイが何も言わずに彼女達の椅子を引くと2人はそれぞれ椅子へ座り、話しをし始める。
「お母様は弟達で領地に留まっていますわ。双子の産後のこともありますし、念のため大事とってのことですわ。」
そう言うと、2人は互いに見合わせてどこか神妙な表情になる。
「ねぇ、ちょっと聞きたいんだけど・・・やっぱり、赤ちゃんって可愛い?」
「え?」
「わ、私達一人っ子だから、自分の下に妹や弟や赤ちゃんっていうのは・・・その、よく分からなくて。」
そうか、この世界ほとんどが一人っ子が多いから兄弟や姉妹がいる生活がよく分からないんだわ。
2人の質問にどこか納得しティリエスはにっこりと笑う。
「勿論!とても可愛いくて小さくて、大切な弟達ですわ。」
断言して言うティリエスに2人はどこかほっとした様子でティリエスの話しに頷いた。
「ありがとう、実はお父様達が弟か妹を授かろうと思うというお話を聞いたのよ。でも、周りの子も自分も一人っ子がほとんどだったからちょっとピンと来なかったの。でも、ちょっと安心したわ。そっか、可愛いのか。・・・・・・ねぇ、貴女の事名前で呼んで良い?私のことも名前で呼んで欲しいし。」
「私も!そ、そうして欲しい・・・・です。」
「えぇ、よろしくお願いしますわ、ロリアさん、ルリアさん。」
そういうと2人ともがパッと明るく笑う。
「それはそうとお二人はとても仲がよろしいんですね。」
「えぇ!私達家族ぐるみの付き合いが昔からあって、誕生日も1日違いなの。」
「だから、名前も私達の両親皆で決めたから名前も似てる、でしょ?」
「確かに、でもなんだか羨ましいですわ。」
「ま、まぁ。私も自分の名前、まんざらじゃありませんわよ。ねぇルリア。」
ロリアはルリアにそう言えば彼女はコクリと頷く。
「同年代の中に同じ公爵家の方が居られるのは嬉しいですわ。」
「そうね、お茶会も一緒に行けるし楽しそうだわ。」
「うん・・・でも、もう1人の同年代の子は残念だったね。」
「・・・もしかしてルリアさん、南の公爵の御子息のことを?」
ティリエスはひどく悲しげに言うルリアに少し声を落として聞く。
すると、それを聞いていたロリアが「私も知っているわ!」と口を開く。
「確か崖から落ちたって聞いたわ。」
「そうなんですね。」
「でもね、あれ本当は事故じゃないんだって、ねぇルリア。」
「え?事故じゃない?」
思っていなかった言葉にティリエスはそのまま彼女達に聞き返した。
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